第一章・第1話『月に遊ぶ都・それは巣窟の都』
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夜の冷気を含んだ風は、どこか痛々しいものがある。
それは、この雰囲気が作り出すものなのか、それともこの地に眠るものなのか。
並木道の木々達は夜の神社という事もあってか、不気味な静寂に包まれている。
そんな道を通り、鳥居をくぐり、彼らは本殿の正面へ着くなりその足を止まらせた。
赤い門と緑の屋根。
その向こう側からは、昼間よりももっと嗚咽めいた響きが集結している。
その数はどれくらいかは想像もつかないが、戦闘服で身を固めた彼らはそれぞれに不適な笑みを浮かべていた。


「都司主様、御命令を」


彼ら――――都司主である夜近を含めた4人の戦士の後ろを続くようにして、数人の都爺が膝を折って主に判断を乞う。
その後ろにも幾人かの術師や防具に身を包んだ武士がおり、皆が片膝折って頭を下げている。

「結界の解放は門から行う。術師は各配置に一人就いてもらうが、役割は先程言った通りだ。俺達が門から入るのを確認次第再度結界維持を行い、門以外から標的が逃げぬようにしろ。そんなに規模の広い場所じゃない、兵士も結界周囲の気配を逃がすな」
「御意」

その命令を一言も逃さぬよう聞いた後、都爺含む兵士や術師達は一斉に各配置へと散っていく。
本殿を囲う門を包むようにした配置。この作戦前に夜近が既に指示を出していたのだろう。
そしてこの正面の門に残る2名の都爺は、門番係といった感じで門の両脇に立つ。
そんな様子を見守り、戦士の一人が徐に口を開けた。
「門から結界解いて、また結界で蓋しちまうのかよ?二度手間じゃねーか」
「結界は魔物を外に出さない為の物だ。それに、結界があっては俺らも中に入れないだろう?」
「だけどな、夜近。もっと簡単な方法なかったのかよ?わざわざ連中が活性化する夜に来るよりか、昼間の方が効率的じゃねーのか?」
「活性化という事は、それだけ魔物連中も増えるという事だ。だが、それこそが俺らにとっても好都合」
「魔物の巣窟に突っ込むのがかよ?」
――――ま、それは『ついで』だな。結界の力が増すのは夜だというのは知っているだろう?月の導きあってこそ、守護結界は効力を増す。それは神社の結界に至っても同様の事。魔物が増えようが増殖しようが、有利な立場というのはこちらにあるのさ。・・・第一歌麿、昼間っから返り血浴びたいか?」
「笑えねぇ冗談だな」

月の下で映えて見せる赤い髪は、時に美しい。
男子高校生を演じていた昼間とは打って変わって、その格好だけで凄腕の武道者にも見えてくるから不思議だ。
背中には独特のデザインが施されている槍を背負い、一度それを振り回せば戦場を駆ける赤き炎となるのだろう。

――――夜近様。密羽ちゃんが行きましたわ」

ふいに視界の外から彼女の声が静かに届く。
月詠もまた、戦士の格好でこの場を共にしている。
少し動けば見えてしまいそうになるスカートの上から衣を着合わせ、その両腰には愛用の真剣。
呪詛が書かれたようなリボンはそのままに――――彼女の瞳の中には、戦士という姿の夜近が映っていた。

「なんだよ、密羽の奴。また勝手に独断行動か?」
「気にする必要はないだろう、歌麿。密羽にも作戦については話しているし、致命傷に発展するような行動は控えるだろうさ」
「それでいいのかよ?あいつはいっつもそうじゃねぇか。一人で勝手に突っ込んで、集団行動ってモンを分かってねぇじゃねぇか」
「麿ちゃんに言われたらオシマイですわね」
「なんだと、月詠!・・第一だ、いつかは注意しろよな、夜近」
「・・・さぁて、俺の言う事を素直に聞いてくれるような奴だったかな」

一人勝手に姿消した密羽の行動はいつもの事らしい。
今現在結界が貼ってある以上、目の前の本殿の中には入れないのは確かなので、大方屋根越しか木越しに『戦場』の偵察にでも行っているのだろう。

「それより歌麿、注意事項は守れよ?神社内での戦闘になると、本殿内の器物に気を配らにゃならん。俺と月詠はいいとしても、お前は武器をやたらめったら振り回す習性があるからな」
「・・・・・努力はする」
「一応上位にランク付けされてる神社なんだ、間違っても損傷は起こしてくれるなよ。後から文化保存協会からクレームが来る」
「てめーの命と文化財と、どっちが大事だってんだ。周囲に気を配りながら命かけるこっちの身にもなれっつーの」
「麿ちゃん、夜近様のお仕事を増やしたらただじゃおきません事よ」

暗闇の中、月詠の瞳が一際光り輝く。
それはもはや、己の欲に素直だと褒めてやるべきだろうか。
――――そうこうしている内に、門の両脇に佇む都爺の一人が徐に口を開けていた。


――――都司主様。全隊員、各配置についたようですぞ」


都爺――それは都司主である夜近に対して絶対の忠誠を誓い、都司主の雑務を手伝う身。言うなれば、側近のようなものである。
彼らは戦士並の武力は持たないので戦場では役に立たないが、その代わりに知能知識に優れている。
早い話、頭脳戦闘員だ。
そんな都爺の必要最低限の報告を耳にし、夜近は正面本殿を見据えた。


深夜に集う



――――時間だ。これより第一種結界を解除し、本殿内へと入る。目的は標的である魔物の完全殲滅、及び、魔物を誘(おび)き寄せる物質体の捕獲。状況次第では破壊も許可する」
「おうよ、存分に戦ってやるぜ」
「今宵の勝利も、全てを夜近様に捧げますわ――――最強の花嫁、参ります」



歪な何かが割れるような、形なき空の色。
結界が解き放たれる瞬間、その形は確かにその空に色で染め上げていく。
――――そして再び形なき色は『結界』という形に包まれていた。
月の下で駆ける戦士達は、その命をかけて武器に身を委ねていく。
刀が何かを切り裂く、その生々しい音。
金属音のぶつかる音は断末魔を招き、それでも終わりはなく、更に華麗に舞っては優雅に微笑を見せ付ける。



――――それは、月の下で遊ぶが如く。






「・・っ、くそっ、かすっただけかよ!」


槍を独自のスタイルで構えてそれを標的目掛けて振り回すものの、見事命中とまではいかなかった。
槍という長さのリーチを考えても、充分範囲内だと思ったのだが。
「こうも暗いと何も見えねぇっつーの!闇雲構わず振り回せって事かよ!」
おまけに本殿内には細かな建物や建造物があちこちに設置してある為、戦いにくい場所でもあった。数え切れない程の魔物を4人で相手するのはいいが、死角も多々できるのも事実。そして夜近曰く、文化財であるそれらを破壊する事は許されない。
建物沿いに形成される道は細く、死角も多いので警戒なしに突っ込むこともできず。かといって後ろに下がっても背後からは多々敵の気配がする。



――――判断に迷うのは、未熟だからだろうか。




進むべきか、退路すべきか。


――――そんな判断を自身の中で選びかけたその時、すぐ後ろから違和感のある音が聞こえてきた。



――――後ろがガラ空きだぞ」


その声に気づいてからでは遅かったらしい。
背後には、愛用の剣を鞘に直している夜近の姿があった。その足元には、数匹の魔物が途絶えた命を語っている。
「何をチンタラしているんだ、歌麿。もう疲れたのか?」
「馬鹿言え。暗すぎて間合いが取れねーんだよ。それに、我侭なリクエストもあるしな」
「その辺は修行だとでも思って我慢してくれ」

二人を囲うように、魔物の気配が増殖する。
それを無言で察知する二人は、互いの背を合わせては死角を失くすかのように。
槍を上部で振り回しては瞬時に構え、正面で怪しく光る無数の視線を睨みつける。
若干腰を落とし、片手を鞘に沿え、もう片手で柄を掴む拳にタイミングを計らせる。

「そういや、月詠はどこだよ?あいつの剣の音がしねぇな」
「月詠は本殿奥の捧殿に向かわせている」
「この隙にお宝着服とは、都司主もやるねぇ」
「歌麿じゃあるまいし。俺はこれでも、一途真面目な都司主のつもりなんだけどなぁ」
「はっ、よく言うぜ」

少しずつ近寄ってくる気配達。
それを察知する度に、二人の『タイミング』は計られていく。
槍のリーチという範囲。
剣の刃を舞わせるリズム。
互いに武器を静かに構え直し、小さな金属音―― 一体どちらの音なのか――が微かに鳴る。
それが合図だったのか、その瞬間に――――二人を覆う気配が一瞬にして拡大され、一斉の雄たけびと共に襲い掛かってきた。
人間に良く似た体格で、酷く黒い体毛で覆われたその風貌。
――――それが、何匹だろうか。
いや、数える暇なんてない。
数えるのは、これらを始末し終えてからなのだろう。
転がる骸(むくろ)のカウントを取るのは趣味ではないが、面倒臭い仕事だと――――都司主は呟いたのだった。

「真面目なヤツはなっ、面倒臭いだなんて溜息つかねーんだよ!!」


赤き狼



数が束になって向ってくるが、歌麿にとっては好都合である。
広範囲に仕掛けられる槍という武器の為、一度に対する殺傷能力が高いからだ。
チマチマした戦い方は好みではないと自負するぐらいだ、次第に機嫌も良くなっていく。

「ま、俺なりの休息ってヤツだな」
「戦闘中に休息する事自体おかしいだろーが!」

そして一方夜近も、水のような流れを思わせる動きで剣を自在に操り、次々に骸が地面に落とされていく。切れ味のいい包丁のように、その切り裂く音は綺麗なものだ。
髪を優雅に揺らし、その奥の瞳はニヒルな笑みを溢した。


「知能のない連中は扱いがラクでいい。ただ滅を与えればいいだけだからな」








――――夜近達が本殿内に入り込んでからどれぐらい経っただろうか。
実際にはせいぜい10分程度といったところだろうか、そんな頃になってから『客』は都爺達にその姿を見せていた。


――――あら、いやだ。もう始まってるみたいね」
「ハナから時間なんて聞いちゃいないさ。文句言われる筋合いはないがね」
「それもそうね」


堂々と横柄な態度でその姿を月の下で見せつけるのは、言わずと知れた人物だろう。
一人は妖艶な美女、一人は華麗な美男子。

「俺は、あの甘ったるいパフェで胃もたれしてるんだけどね・・・」
「年寄り臭い事言ってるんじゃなくてよ。大体アンタ、アタシより食べたじゃない」
「そりゃ、月詠の為にリサーチを――――・・・うぷ、思い出しただけで胃が・・」
「・・・・・吐くんなら魔物の頭上にして頂戴よ」

顔面蒼白の色で口元を押える日光である。相変わらず呆れた表情を隣で見せる涼だが、その両手には武器など携えてきてはいない。
異様に胸を強調させるような戦闘服で、何処からどう見ても『女王様』である。

「風は誘わなかったのかい」
「メシア様の生出演の番組があるからパス――――・・だそうよ」
「都司主が聞いたら呆れるな」
「もう諦めてるでしょうよ。怒るのはもっぱら都爺の役目だわ。ま、あの計算高い都司主が直々に許可したのはワタシ達だけってのもあるんでしょうよ」
――――・・・お主ら、丸聞こえじゃぞ・・」

正面本殿前に配置している都爺である、聞こえないはずがない。
最も、日光も涼もわざとなのだろうが。


「さぁてと。私達はどこで遊んだらいいのかしらね」


正面本殿を包む、閉じられている門。
その向こう側からは、魔物の荒れ狂う雄たけびと断末魔が途切れない。
月の光しかない光源では戦いにくいだろうに――――、二人は確認するまでもなく、その足を都爺が守る門向って進ませていた。



「駿河が当主、駿河日光。――――参らせて頂く」
「鳳来寺涼。都司主の命により参上して差し上げてよ」



■ □ ■




――――っ、邪魔、ですわッッ!!!!」


二刀の真剣を大きく振りかざせば、哀れもない命は容易く絶えていく。
だがそれでも、何処からか次々と現れてくれる連中に月詠は思わず舌打ちを鳴らした。
――――夜近から命令を受けたはいいが、こうも行く手を阻まれると内心焦りが出るのも当然かもしれない。
目的の捧殿までは目と鼻の先だというのに、正面を遮る魔物が邪魔で仕方ない。
剣を振りかざし、それは舞のように旋律を奏でていく。
その顔を衣を返り血で染め、本人は気にしなくとも――その貴族たる美しい端麗な面立ちには荷が重過ぎる。
水音をたてて顔に降りかかる返り血を衣の袖で拭えば、更に正面向って終わりのない戦闘態勢を取っていく。
いつまで続くのか、自分の足は少しは捧殿に近づいているのだろうか。
――――それすらも、分からない。
こうも次々と正面背後から飛び掛ってくれると、溜息をつく暇すらなかった。

「こんな所で果てるワケには参りません事よ!たかが低級魔族が数束ねた所で、ワタクシに敵うと思ってますの!?」

勇みいい言葉は、体内の気力を高上させてくれた。
だが、こうも続くと月詠にも疲れが出始めてくるようだ。

夜近と歌麿が別場所で魔物を引き寄せる――早い話、月詠を目的の場所へ赴かせる為の囮になっているのだが、それでも自分に向ってくる魔物の数は数えるのも飽きてくる。
夜空を見上げれば、光り輝く月光。
そしてこの身だけに感じるのは、駿河の血だけが感じる増幅されている結界の力だ。
愛用の真剣は既に、魔物の血で満たされている。
それに対しては何の抵抗もないが、今自分が向う敵を考えれば、刃毀(こぼ)れも仕方ないと――――毒づいた。


――――そんな時だろうか。


後方頭上から、幾多もの矢が降り注いでは魔物の急所に直撃していくのである。次から次にその地上に異様な図体を沈め、命を露に変えていく魔物の最後を見守れば、いつの間にか正面へと続く道が出来ている。
その先には、まだ小さくではあるが捧殿の姿が見えた。


――――月詠、早く行きな」


姿も見せる事なく注いでくるのは、凛とした戦士の声。
感情も思わせる事もなく、それは起伏のない声帯にも感じられた。
――――当然、月詠にはその正体が分かっている。

――――密羽ちゃん、頼みますわ」

振り返るでも背後を見上げるでもなく、月詠はただ一言だけ残しては正面向って走り出していた。
勿論、その両手には刃を光らせながら――――危険も顧(かえり)みず一直線に突き抜けていくつもりだろう。月詠の刀が舞う『範囲内』で仕留められない輩には、容赦なく頭上からの矢が問答無用に『死』という最後を見せていく。
立ち止まる事なく突っ切り、そして見上げた先には。

――――改築も行われていないのだろう、少し古くこじんまりとした建物への階段が、視界正面に自分を招いているように思えた。



■ □ ■




槍の矛先で魔物を転がせば、その死臭が嫌と言うほど漂ってくる。
一体何匹かは知らないが、それでもまだ自分立ち向かって殺気を突き刺してくる気配は変わらない。

――――で、月詠はなんだって捧殿に?」

なんとか無事、神社本殿内の建物を壊さずに済んだ事に安堵すれば、背後の夜近もその真剣を鞘に収めていた。
無論、周囲ではまだ数を帯びているその気配には気づいているのだろうが、大方魔物連中への挑発にも似た余裕だろう。
「神社の結界にはな、とある物質がひつようなんだ。一言で言えば、触媒だな」
「触媒?」
「ああ。神聖たる聖気を生み出すための『気』を増幅させて結界を張る――――その、中心の源となっている物さ」
「それが、この神社に祀られてんのかよ?」
「神社じゃだけじゃない。寺院にしたってこの都市にしたって、同じだ。何もない場所からは何も生み出せはしない。だからこそ、『触媒』という名前の『聖力』で結界を張ると共に地脈を守っているのさ」
「地脈っつったってよ、夜近。所詮は目に見えねぇじゃねぇか。目には見えないものを俺たちは守ってんのか?」
「触媒は現実的物質だぞ?そんな事も覚えてないのか?」
「じゃぁその触媒とやらを、なんで月詠が――――
「土地の力を守っているのは地脈であり、結界を守っているのは触媒であり、そしてその全てを守護するのが俺達の仕事だ。――――まだ分からんか?」

――――夜近が、何かの気配を感じたのだろう。
細い視線の中で厳しさを備えれば、躊躇う事無くそれを抜いた。
瞬時に鞘から抜いた真剣を振りかざせば、湧き出る力は波という形となって前方を走り行く。
こうも暗い周囲では、どんな気配にせよ油断はできない。
それを確かめるでもなく、彼は一方的な攻撃を仕掛けたのだった。


――――触媒とは、神聖なる力を生み出す道具。我ら名家が管理する力。そして触媒に異変が生じているからこそ――――この今の事態が現実的な物となっていてよ」


夜近が仕掛けた先の暗闇から、静かな声が届いていた。
そしてそれと同時に、二人の周囲を照らし出すかのような光が灯される。
――――それは小さな炎の揺らめきにも似た、複数の灯火。
いや、それが空間的に作られた偶像である事は分かっているが、その光だけで二人の周囲は一気に拓けた空間へとなっていた。
――――足元周辺には、幾多もの屍。
異様な異臭が漂い、地面は黒い血で染まりかえっている。

だが、そんなリアルな周囲を確認するでもなく夜近は――正面から静かに歩み寄ってくるその影に、ニヒルな笑みを洩らしていた。

「せっかく来て差し上げたっていうのに、随分な歓迎ですこと。女性の扱い方も知らなくては、花嫁に逃げられてよ」
――――申し訳ないね。何分、こうも暗くてはその麗しい姿も見えなかったもんでね」

炎にも似た光を導くようにして現れた涼は、相変わらずの態度を維持する都司主に向って返事をするでもなく――――気に入らない物を見るかのような視線だけで答えたのだった。
そして、それと同時に夜近の背に隠れる人物が一人。
当然、歌麿である。
――――出てきなさい、そこの出来の悪い弟」


女王様見参



「・・厄日だ、ぜってー厄日だ・・!昼間は風が来るし、なんでこんな時に涼まで来やがるんだよ!」
「俺が呼んだからだ」
しれっと他人事のように爆弾発言――歌麿にとっては――かます夜近である。
涼の出す『炎にも似た灯火』のおかげか、歌麿の顔が青ざめている様がよく分かる。
家ではどんな扱いを受けているかは知らないが、こうも恐怖を抱いている弟と、正面では女王様スタイルで堂々と仁王立ちしている姉だ。
「歌麿、アンタ鍛錬サボってるんじゃなくて?こんなショボい雑魚に手間取っていては先が思いやられるわ」
「暗くなけりゃこいつらなんて秒殺だ!ったく、いちいちムカつく事言いに来たのかよ!」
「環境のせいにして自分の力を認めないだなんて、我が鳳来寺家には必要なくてよ」

厳しく言い放つ涼だが、歌麿は声にならない怒りを顔中に広げている。
癪に障るだとか、納得できないだとか、心中としてはその辺りだろう。
そして、周囲に押し寄せてくる気配を睨みつけては、細く華麗な掌から淡い光を放たせる炎を作り出していた。
――――それは、現実的な炎なのだろう。
不規則な揺れと不似合いな温度が、ソレからは感じられる。


「さぁてと、こいつら一掃したら私達も捧殿に向ってよ。日光が暴走しない内に、ね」



■□■




捧殿の扉を開けると、狭く暗い空間がそこにはあった。
少し朽ちた木の歪みからは歪な音がし、建物自体も古いことは明らかだ。
暗いからこそ余計に狭く感じるのだろうか――――そう思うも、足はただ前向って進んでいく。
静かに足を踏み出せば、一歩一歩軋む床の嘆きが聞こえてくる。


(・・・ここは無事のようですわね。魔物も、そう易々と侵入できませんのね)


安堵を感じれば、正面にて目的物を見つけた。
――――その捧殿は広さにしてどれくらいだろう、ただ必要な物を捧げる為だけの場所のようだが、やけに拓けた空間、というのが印象的である。
ただ、目的のものしかない為か無駄なものが一切なく、そのせいでやけに拓けていると感じるのかもしれない。

――――・・これですわね」

両手に携えていた二刀の真剣を鞘に収めれば、『ソレ』に向って静かに御辞儀をした。
捧殿の中にある小さな祠――――とでも称せばいいのか。
五方陣を描くような大きな紋章の中心に、祠が神々しくそこにはある。
様々な貢物も見受けられたが、月詠が今必要とするのは、その中心に捧げられている物だけだ。
水晶玉にも似た、その風貌。
凛と輝く光は独特のもので、それに近づくと一層光を増していく。
ゆっくりと手を差し出せば、丸い球体からは部屋全てを光照らしていくかのような輝きで満たされる。
だが、そこに一つの違和感を感じれば、月詠は差し出した手を止めるでもなく両手の中に収めたのだった。
手にした水晶体――とでも言えばいいのか――は、確かに聖力の源としての役割があるのだろう。この自ら解き放つ輝きが何よりの証だ。
だが、その中にも――――神々しい光の中に瘴気にも似た『聖』とは似ても似つかない力を感じたのである。
――――答えは、その目で確認すれば一目瞭然だった。
掌に収まった聖力の源である水晶体、この穢される事の許されない存在に、一筋のヒビが一直線に入っていたのだ。
それはまだ『割れる』とまではいかないのが唯一の救いか、そんな思いを抱えながらもそのまま月詠の足は再び捧殿の外向って歩み出す。


「あとは、駿河の血で結界の力を使うだけですわね」










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