月に遊ぶ都・それは巣窟の都
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夜近曰く、『触媒』を持ち出す月詠は、再び来た道を戻るように捧殿から去ろうとする。
その場所に面するようにして拓けた場所が視界に映るが、幸いな事に敵が襲ってくる気配はなかった。いや、それよりも敵そのものすら鎮圧したかのような、不気味な風だ。
昼間拝むのならば、それは真っ白な砂が敷き詰められた土地なのだろうが、月の光源だけが頼りのこんな真夜中では―――逆に不気味な静けさだけが増幅されてるような気がする。
ともあれ、月詠は手にした触媒を大事そうに抱えながらそんな大地に足を落としていく。
月の真下で、その位置を確認するようにゆっくりとその足で砂を踏んだ。
―――そんな時。
突如背後から自分を覆ってくる物体に、気配すら感じることができなかった。

―――っ!?」

剣を抜こうにも、遅すぎる。
下手に体勢を崩そうものなら、触媒を落としそうになる。
思わず舌打ちをして自分の油断を後悔した。

―――だが。

「ああぁぁっ、月詠ぃ〜〜!!無事かっ、怪我はないかっ、愛してるぞっ!!」
「最後のは余計でしてよ、日光兄様!」

天狗になっているわけではないが、月詠とて一流の使い手である事を自負している。
そんな彼女が全神経を行渡らせて警戒していたにも係わらず、こうも背後を取られるとなるとそれ以上の使い手だ。
「日光兄様っ、離してくださいましっ!暑っ苦しいですわよ!!」
「俺は寒い!心が寒い!お前という灯火が欲しいのだ!」
さすがは妹溺愛馬鹿、といった所か。
この度を越えたスキンシップは日常茶飯事の事ではあるが、月詠はそんな兄の愛情が鬱陶しいらしい。それ故、相手されないからこそ日光も暴走するのだろう。
「もぉっ、いい加減になさいませ!こんな事してる場合では―――
いつものように苛立った声で牽制しようとすれば、未だ背後から抱擁してくる彼が冷めた声を放つ。

―――油断しただろう。修行が足りんぞ」

酷く厳しく冷めた声は、月詠を現実に戻すのに充分だ。
無論、駿河家の当主である日光は月詠にとっては師匠も同然的な存在でもある。
普段の兄ぶりは軽蔑したい所だが、武道者としての彼は彼女でも到底歯が立たない。幼き頃より彼から剣術を学んできた月詠にしてみれば、その兄に落ち度を指摘されると何も言えなくなってしまう。

「そ、それは、日光兄様が気配すら感じさせてくれませぬからでございましょうっ!?これが夜近様でしたら大歓迎ですのに」
「なんだと!?あのクソガキにこんな事されてるのか!?」
「そこ、暴走しないでくださいまし!!」
夜近の名が出た途端、思考が制御できなくなる日光であった。
―――ともかく、そんな時間を暫し過ごしていれば、皆がその場に集ってくる。
最初にやって来たのは、囮を買って出た夜近と歌麿に涼。そして少し遅れて密羽も合流した。
広大な土地に敷き詰められた白い砂に、6人分の影。
触媒を抱えた月詠、日光を中心に―――それを囲う夜近と涼、歌麿。そしてどこかその輪に入ろうとしない密羽は、近場の大きな木の幹に背中を委ねている。
「繁殖していた魔物は、確認できる全てを滅した。―――やはり触媒の効果は絶大だな。血の者が触れるだけで修復効果があるようだ」
「でも夜近様、ワタクシはただ持ってるだけですわ」
「月詠ちゃん、それが血の力なのよ。駿河の管轄である土地は、駿河の力で支配されてるの。それ故、そこに祀られている結界も触媒も、全ては駿河の力には逆らえない」
「そんな道具・・触媒だっけ?それ自体が認識してんのかよ?」
「・・・ほんとにアンタは馬鹿ね。勉強し直しなさい」

京の都を4つに分けて管理しているのが、4大名家。
現在のこの下鴨神社は、北部を統治する駿河の管理下にある。
早い話、駿河の力によって結界が維持されているのである。
そうなれば当然、そこに祀られている物も設置されている物も、その全てが駿河の守護によって守られている事になる。
もし何らかの影響で触媒が『聖』の力の流れを変えられてしまったならば、再度駿河の力によって修復する事が可能なのである。
まぁ元々の原因を突き止めていけば、それは大地の下を走る地脈に問題があり、地脈そのものを解決させなければ永遠に終わらない作業なのだろう。

「では日光殿、お願いします」

柔らかい笑みで誘導する夜近に対し、それを受ける日光は不快そうな表情を浮かべている。大方、夜近の指図というのが気に食わないのだろう。
だが、隣の月詠に足を蹴られては文句も言えなくなる。
どんなに憎くとも、月詠に嫌われる事だけは避けたいらしい。

「月詠、触媒を渡しなさい」

水晶にも似た触媒は、亀裂から瘴気が漏れている。幾分かは月詠によって中和されているのだろうが、それでも完全修復には至らない。

「いいか、俺は貴様の為に力を使うワケではないからな」
「ええ、充分存じておりますとも」
どこか笑みを浮かべる夜近は、日光の嫌味すらも水のように受け流している。
そんな光景に『相変わらずだ』と溜息をつくのは鳳来寺姉弟で、遠くで呆れているのは密羽。
月の真下で触媒を支える日光を中心に、彼らは円を描くように立つ。
その中心点から半径数メートルだろうか、まるでその足元に描かれている円を踏まないように、少しの距離を保っている。
だが、その地面に絵が描かれていくのはそれからであり、彼らもそれを知ってるからこそ日光との間に『距離』を作ったのだろう。
触媒を片手に抱く日光がその右腕でゆっくりと平行線を作れば、瞬時にしてその大地には煌びやかな円が描かれていく。金色に光り輝く何かの陣と、中に刻まれるのは幾多かの模様だった。
それこそが駿河家の陣形なのだろう―――月の光と共鳴するかのように、それは日光を中心点にざわざわと広がっていく。

「さすが、綺麗な術陣ですね」

外からは夜近の感心した声も届くが、特にこれといった返事は語らない。
月詠、夜近、歌麿、涼、そして少し離れて密羽。
陣の外で囲うようにして立つ彼らは、いつの間にか各々の武器をその手に構えていた。

「残りの瘴気を消滅させようとすれば、当然それを拒もうと連中が戻ってくるはずだ。まぁ、5人もいれば充分だろう」
「・・・それは、アタシも入っているのかい?」
―――密羽の声だった。
無機質な瞳でこちらを見やるその視線に、夜近は『当たり前だろう?』と視線を投げ返している。
そんな視線だけで何かを判断したのか、密羽は溜息を落としながら再び俯いていく。そして重い腰を持ち上げるかのような仕草で、彼らの輪に向かう。
「文句があるなら聞くが」
「ふん。聞くだけなら野良猫にだってできるじゃないか」
「まだ、隠密行動の方が好きか?」
―――知っての通りだよ。馴れ合いは嫌いなんだ」
忍者にも近い隠密系の衣服で身を包む密羽は、首に下げた口布で顔半分を隠す。これから交えるだろう戦闘の準備といった所だろう。
背中には弓矢を、腰には紐が頑丈に巻きつけられている短剣。短剣に至っては、随分と長い間使われていないのか、紐自体も相当古いことは見て明らかである。解く事も困難に、まるで封印でもされているかのような風貌だ。それでもこういった出動命令の際、使う事もないのに必ず腰のお供をしている。
それは彼女なりに何かの理由があるのだろうが、それを口にすることはなかった。


「催芽せんと欲する月の導きよ、彼の光よ―――血の流れに定める一切の不浄を見せしめんと応えよ―――


日光を中心に円を描く彼らに、その詠唱が始まったと知るには容易い。
手の中に収められている水晶体のような触媒は罅割れた箇所から瘴気を溢れさせ、それが術陣によって滅ぼされていく。それに呼応するのは、月の光と彼の中に流れる『血』だ。





「構えろ。来るぞ」
「仰せのままに―――

鈍い金属音が鳴れば、誰もが戦闘態勢に入っていた。
弓を構え、槍を見せびらかし、剣をその手に。

「あんだけ倒してんのに、まだ出てきやがるのかよ?底なしだな」
「少量でも瘴気が残っていれば、それを源に魔物へと変貌する。禍禍しい気で満ちた瘴気だ、完全に消滅させるにはこれしかあるまい」
「初めから、アタシ達が来る事を前提って聞こえるわね。どこまでも計算高い男です事」
ふん と不満そうな顔を浮かべては、彼女も髪の中から一振りの鞭の先端を地面に叩きつけた。荒々しい音が響くものの、『お似合いだ』という声はどこからも聞こえてはこなかった。
言うとしたらば、日光ぐらいのものだろうか―――彼は詠唱の真っ最中で、そこまで余裕はないらしい。
その体から溢れ出る力は血の流れを認めさせ、月の光はそれに反応しているのか―――特殊な力が降り注いでくるかのようにも感じられる輝きを放つ。
駿河の血を継ぐ身の彼に扱える、駿河の力。
彼の普段を見ている限りは新鮮な雰囲気でもあるのだが、駿河当主を名乗るだけの力量は充分にあると言ったところだろう。
術陣から放出される金色にも似た光は緩やかな風を生み、彼の衣服や髪はそれに踊る。
細く鋭い瞳は閉じられ、その口だけが静かな音を奏でている。



「力は輪と成し、光は凛と戦(そよ)げ―――


詠唱も中盤に差し掛かった頃合だろうか、歪な金属音と絶え間なく聞こえてくる断末魔は一層激しくなっていた。
自らの存在を消滅させようとする力に逆らっているのだろう、瘴気の塊から形成された魔物は暴走しているようにも感じられた。
理性も知性もないこいつらに危機感があるとも思えないのだが、肌身で感じられる殺気は現実的に証明されている。

「歌麿、持ち場を離れるな!」
「んな事いったってなぁ、夜近ッ!槍はリーチが長いから使い方ってもんがあんだぞ!?接近戦には不向き、間接武器を扱う俺の事も考えろよ!」
「向かってくるこいつらを消滅させなくても構わん、時間稼ぎとでも思え」
「・・・アタシ達の目的は、殲滅の要を再構築する日光を守る事。術陣の中は完全無防備地帯、日光がやられたら全てが台無し」
視線が向かってくるでもなく、隠密染みた風貌の密羽は感情の起伏すら見せずに静かな声を届かせる。歌麿に呆れているのか、丁寧にも説明つきだ。
だが、密羽も接近戦では弓矢が不向きだと判断したらしく、武術で対応しているようだ。背中に弓矢を抱え、両腕に嵌めている手甲で応戦していた。
―――だが、そんな様子を見て疑問を抱くのは歌麿だった。
その腰に短剣を挿しているのに、何故敢えて生身で戦うのか。
確かに、頑丈に絡められた紐を解くのは時間がかかりそうだが、魔物と素手で遣りあうのは果たして得策だろうか。


(そういや、密羽が腰のアレを抜いた所、一度も見た事ねぇな)





なんなのだろうか、この疑問の中に感じる渦は。
しかし、戦闘中の密羽ははっきり言えば別人と呼ぶが相応しい。
ハナから会話なんて出来るはずもなく、かといって夜近達にでも聞けば隣で応戦中の姉から『集中しなさい』と檄が飛んでくるのは目に見えている。

「・・ちっくしょ、すっきりしねぇな」

槍を手前に構えて振り回し、近づいてくる連中を一斉に凪ぎ飛ばす。
しかし致命傷には至らなかったようで、すぐに起き上がってくる。
そしてその背後には新たな数が目を光らせているようだ。
―――さすがにこうも続くとゲンナリしてくるのが本音だが、かといって放棄は許されない。
これが自分たちの『仕事』であり、『役目』だからだ。
4大名家として生を受けた時点で、通常とは異なる環境に身を置いてきた。それが理解できない頃は、それが『普通』なのだと勝手に認識していたが、成長を繰り返す度にそれが『異常』だと知っていく。
この都に隠された存在であり、都を守護する存在。
命を賭けて肉体労働に励んでいるのだから、少しくらいは祭り上げてくれても良さそうなものだが―――存在が公になると都合が悪い、と、会話の度に夜近は口を尖らせる。
それは一体何の為の都合だと、子供のように突っかかれば、

―――ふ、色々さ。英雄とは公にならないからこそ尊大な存在になるのだ。自ら名乗り出てはつまらんではないか』

―――と、やっぱり適当にあしらわれた。
夜近には夜近なりに、都市主としての考えの元動いているのだろう。
それに従うのが自分達で、そしてそれに逆らう事はできない。
そうやって、それが当たり前な日常になっているのだから今更文句を言おうにも遅すぎる。
家柄同士の協力関係は確定されているのだし、代々この都を守護してきた4大名家だからこそ、この関係は絶対的なものでもある。
神門家当主都市主―――夜近を頂点に、その花嫁である駿河家の月詠。葛葉家の密羽、そして鳳来寺家の歌麿。無論、涼と風も同じ位置にある。
古い仕来りを維持する都だからこそ、それは過去から続く掟のようなものだ。


「きゃぁっ!」
「っ、月詠!」

荒れ狂う魔物の群れとの格闘の最中、月詠の声が叫んでいた。
夜近は自分に向かう魔物を投げ飛ばした後何事かと視線をずらせば、彼女は二刀の真剣を豪快に構え、その魅力的な生足が数匹の魔物を踏みにじっている。
どことなく酷く怒っているようだが―――
「スカートを捲りましたわね・・っ、この下等生物・・っ!」
「つ、月詠・・?」
「今日は買ったばかりの下着ですのに、夜近様より早く拝むなど許されるとお思いですの!?」

背後では詠唱中の日光から乱れた集中力と、何故か怒りの矛先が夜近に突き刺さっている。
無論、夜近にしてみれば濡れ衣同然だ。

「ま、待て月詠・・!」
待て=それ以上喋るな、という意味なのだが、詠唱中の背後からは不気味な圧力が背筋を凍らせてくれる。
「夜近様はそれで良いと仰るのですか!?このワタクシの新品のランジェリーを!そりゃぁもうっ、可愛いフリルの施されたシルクですのよ!」
ぶっっ!!!
「薄いピンク色で、フリルにも可愛い刺繍が―――
「それ以上喋るな、月詠ッ!・・・は、背後から物凄い殺気が・・ッ!」







具体的な抽象を聞かされれば、嫌でも想像してしまうのが男というものだ。
鼻からは酸っぱい逆流を味わっているが、それでも剣裁きに乱れがないのは流石と褒めてやるべきだろう。
―――と同時に、背後から襲ってくる般若。
「アタシもそんな可愛い下着を着けたら、少しは襲ってくれる男がいるのかしらね」
どこか投げやりな涼の言葉だが、ここ数年恋人がいない事を強調したいのだろう。
だが、女王様の性格に付き合える男などそうはいないだろう―――と、その場の男の呟きは誰も声には出来ない。


「我が駿河が名の下、日光が命ずる―――その力に秘められし聖なる力を貸し与え給え・・・月の導きよ、日の流れよ、この血に眠りし定めのままに―――


清華な声が天上向かって放たれたのが最後だった。
触媒は日光の手の中で、天を仰ぐ。
月の光は一直線に柔らかく降り注ぎ、『彼』を認める。
そして月と彼は同調し、その力は確かな光と共に周囲を照らし出す。

「グ、ギャァ―――ッッ!!!」

幾多にも重なって聞こえる断末魔の群れを数える気はない。
魔物だった姿は薄気味悪い瘴気となり、瘴気は光に殲滅させられていく。
まるで浚われて行くさざなみのように、清清しい程の光景だった。


「・・・これで、貸しが一つだ」


終わるや否や、日光は疲れたでもなくそんな一言を夜近向かって唱えていた。
それには『相変わらずだ』と苦笑し、肩を竦めながら了解してみせた。
「御苦労様でした、日光殿。これでここも元の姿に戻る事でしょう。・・あぁ、その触媒は元の場所に安置して頂けますか」
「貴様の為にやったのではない。そもそも、俺がいなければどうしていたつもりだ」
「さぁ、考えもしなかったです。今回の仕事は、貴方方が遊びに来られる事を前提でしたから」
日光の手の中に収められている触媒は罅も見事修復されており、その丸い輪郭に沿って月の光が弾かれて光り輝いている。水晶のように小さくはあるが、それでも罅が発生しただけでこの有様だ。
宝玉として祀られているだけの事はあると、さすがの歌麿でも理解してくれるだろう。

「あー、疲れたぜ・・。周囲の建物に気を配るなんざ、もうこりごりだ・・」
「一応最小限には抑えられたが、魔物が破壊してくれた灯篭なんかは始末書と弁償だけで済むだろう」
「はぁぁ?魔物の後始末まで負えってのかよ!?」
「案ずるな。そういった事は神門家の役割だ」
「当然でしてよ。全ての管理を担うのは神門家なのだから、全責任を都市主が負うのは当たり前よ」
「魔物の奴らめ、もっと派手にしてくれても良かったのにな」
「日光兄様!何て事を仰るのです!」
やはり難癖つけては突っかかる日光と、それに憤慨する月詠、それを共有する歌麿と涼。
いつの間にか密羽の姿はなかったが、先に帰ってしまったのだろう。
仕事の後は神門家にて報告作業というものがあるが、この場に呆れて先に向かったようだ。

「では、夜近様、見てくださいまし〜〜」
「?何をだ?」
「ワタクシの新品ランジェリーですわ」

猫のようにコロコロした可愛い顔で迫られ、一瞬たじろいでしまうのは当然だろう。
その内容が内容なだけに、仕事後だというのに別の嫌な汗が体中から溢れ出して来る。
「ちょ、ちょっと待て月詠―――
「殿方はチラリズムに弱いのだとお聞きしましたの。このミニスカートでしたら、少し屈めば太腿も簡単に見えますわ」
「ば、馬鹿かっ!そんな不埒な真似、できるとでも―――
・・・・・・・・・ほぅ・・。貴様はしたいとは思っているようだな・・・・


そして一筋の真剣が月の光を浴び、その太刀は風を切って新たな一戦が展開されていた。



―――・・やれやれ、後始末が一番面倒だな」


苦労の耐えない都市主は少しの疲労と安堵を同時に落とし、繰り返されていく使命にただ従うだけだ。
それでも人間味のある環境が唯一の救いだと、楽しそうに帰路に向かっていった。

天上に輝く月は何事もなかったかのように綺麗で、その下では毎晩のように戦士が踊り、それを知らない人々は遥かに多いけれど。
それでも手を握り締めては自覚する。
その拳を開いては確認する。


『この力は、守る為にある』


例え何かを犠牲にしようとも、誰かの嫌う手段だったとしても、与えられた力は自分にしかできないものだ。
自分だから出来る事の意味。
自分にしかできない事の真意。

何度も手を握っては開き、その感じる握力は刀を持つ為のもの。


「夜近様?お怪我でもされましたか?」
―――あぁ、いや。日光殿の剣裁きは流石だと思ってな。少し痺れている」


この手は、いつも隣で微笑む彼女を守る為ではない。





『顔をあげろ。そして声を聞かせろ。その口で、名前を教えてくれ』





「顔を上げて、声を聞かせ、その口で名前を―――・・」




(俺に、それが出来るのだろうか)




下鴨神社を抜けた頃、時刻は深夜の2時手前だった。
酷く冷たい夜風は髪を泳がせ、幾分か体すらも冷やしていく。
警備に当たっていた兵士や術師は後始末に向かったらしく、今頃は境内にて浄化作業に入っているのだろう。
正面で門番を務めていた都爺が迎えに来ると、彼らは揃ってその車に乗り込んでいた。






「・・・退魔完了」





夜近の声は、感情の見えない都市主としてのものだった。








第1話『月に遊ぶ都・それは巣窟の都』/完





■ 後 記 ■


これにて第1話は終了です。
世界観とキャラ性を優先的にした目的だったので、魔物云々は少し置き去り的な内容になってるかもしれません。
また、今後の展開に向けてかなり伏線を張った仕様ですので、抵抗なく入り込める文章構成を目指したつもりです。(汗)
歌麿の見た赤い夢や夜近の語ろうとした『あの日の全貌』、そして密羽の封じられた短剣なんかがそれに該当するんですが。
さらっと流すように描いてるので気づきにくいかもしれませんね。

月詠と夜近の関係は楽しく書かせてもらってますよ(笑)
いや、これで手を出したら犯罪者だろ、というツッコミ大歓迎。(笑)
日光の妹溺愛馬鹿ぶりも楽しんで頂けたらなぁと。
・・日光も涼もかなりのサブキャラのつもりだったのに、何故かストーリーに組み込む程メインキャラに育ちつつある今日この頃。
ええ、日光兄様はひいきしますよ。特に出番必要なくても出しますよ。(おい)

第2話は夜近と月詠をメインにした話になります。(^^)

綴:なづき海雲/05.12.23

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