第一章・第二話『誰が為に廻る理由』
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この宝ヶ池に出現する邪に値する存在、その数を数えた所で何になるだろうか―――これだけ兵士を投入しているというのに、キリのない作業にも思われた。
無論、夜近にも策はある。
怨霊から魔物に進化するのは、この場所に『闇』に属する存在があるからだ。近ければ近いほど、それは成長の手助けを担う役割となる。それと同時に、その『闇』を討伐すればこれ以上増える必要もない―――つまりは、その成長促進する闇の存在こそが、親玉だという話だ。


(成長促進―――・・・馬鹿な、月詠の事は忘れろ)


似たキーワードが、頭の中で重なる。
しかし、首を振ってはその雑念を追い払い、今対峙している魔物へ向けて剣の先を宛がった。無論、知能に優れているとは思えない中型の魔物。しかし成長してこの姿なのだから、親玉は更に大きな姿を見せつけるのだろう。
だが、その魔力を感知しているというのに姿だけが確認できない。

「夜近っ!いつまで続けりゃいいんだよッ!?」
「やはり簡単には姿を現さんか。囮が必要といった所だな」
自前の槍で一度に数体の魔物を薙ぎ倒し、その動作のついでに怨霊を切り裂く。
歌麿が文句を言うのも当然だろうか、延々と同じ作業の繰り返しにしか思えないからだ。定められた配置内にて、魔物と怨霊の討伐。―――ただ、それだけなのだ。だが、もう30分以上も経過している。
「瘴気が混雑しすぎて、こいつらの成長を手助けしてる奴から送られている魔力を感知できん」
剣が綺麗にその獰猛な肉の塊を突き刺し、息が絶えた事を知ると片足で蹴飛ばす。そして次の魔物向かって剣を構える―――さすがの夜近といえども、疲労を感じるに充分だ。
いや、それに加えて今の夜近には気がかりな一件を抱えているせいでもあるだろう。
だが、自分がどうこうできる訳でもない、と至って現実的な回答を手にすればそこに夜近の意思が募る。


都市主、指揮官、責任者。
それらの権限を放棄すれば、後々問題となるのは明白だ。
正当な理由を述べた所で、月詠が禁呪に手を出した一件を公にしてはいないのだから、その全ては夜近の責任問題に繋がってくる。
今まで優秀な都市主として生きてきた彼が、そんな器用な真似ができた筈もない。


「都市主様!!どちらで御座いますか!都爺様より報告を承っております!都市主様!」


戦場の轟音と騒音の入れ混じる中、一人の兵士がその名前を何度も何度も呼び続けている事に気付いた時、夜近の意識が現実に戻ってくる。
剣で優雅に魔物を切り倒しながら、神門の衣装を身に纏う兵士を呼びつけた。
「報告か?」
「御意に御座います!本来の『敵』と定める大型獣魔物の所在地が割れましたとの事です」
「マジかよ!早くしてくれ、夜近!」
聞き耳でも立てていたのだろう、すぐ近くで槍を振り回す親友の士気が少し高まった様子が窺える。
「どこだ?」
「は、こちらに―――

走り書きのように、ただ数字と方角だけが並ぶ紙切れ。
だが、それは。

「緯度、経度―――これは・・・」
「夜近!どこだ!」
「ここだ」
「・・ぁ?」
読み終えた紙切れを兵士に渡せば、軽い会釈の後足早に去っていく。
そして夜近は、正面に広がる池を見つめた。
この藤棚、そして池のほとりから繋がる左の道を進んだ遊歩道沿いには、いくつかの貸しボートが無人で揺れている。そこにはスワンボートも確認できるが、大方昼間は恋人達の時間を共有しているのだろう。

「この池だ」
「池、って―――
その言葉に習うようにして、歌麿も池を視界に収めてみる。
暗闇が酷く不気味な静寂を演出している以外には普通の池でしかないが―――そんな怪訝そうに正面の池を見つめる歌麿に向き直る夜近は、その彼の頭から爪の先まで舐め回すように見つめる。

「さて、魔物は赤色をお気に召すかどうか」
「あん?・・って、おい!まさか」
「囮になれ、歌麿」
「なんじゃそりゃあぁぁぁぁ!!!」
「如何せん、敵が池の下では戦おうにも戦えんしな」
「そういう事は兵士にやらせろよ!!なんで俺が!!」
「いや、生憎とお前の姉君もそれを希望してるらしいが」
「はぁ!?・・っ、ちょ、と・・・待て・・・・!」

その背後から独特の気迫でも感じるのか、さすがは姉弟か―――
歌麿が恐る恐る後ろを振り返れば、そこには大きな刀を肩で担ぎながらも満足気に不敵に笑う風がいた。


「鳳来寺家に泥塗るんじゃないよ、歌麿。さっさと行けっつーの」


顎でその先を命じる風は、それから周囲を見渡し涼の姿がない事を確認する。どうやら自分の方が早かったらしい。
そして歌麿は逆らえない恐怖に渋々従うしかないと、脱力たっぷりの表情を夜近に見せつける。
「歌麿。スワンボートで頼むぞ」
「何いいぃぃ!?なんでスワン!?」
「その方が見た目面白いからな」
「戦術関係ねぇ―――ッ!!」
「アンタの馬鹿っぷり、余興に見せてやりな。涼がいればもっと良かったけど」
「さ、最悪だ・・・!なんで高校生にもなってスワンボート・・!しかも一人で・・!!」
「まぁお前のマヌケな姿はさておき、少しでも目立つ姿が適任だからだ。魔物に認識能力があるかも皆無だからな」
「要するに、成功するとも限らねーんだろ・・」
その行為に意味があるのか―――と、誰よりも目立つ赤髪の彼はぼやく。
「それに加えて鳳来寺の力を振り撒けば、大概は目立つだろうさ」
「術者の連中が池の水をとっぱらって戦場を作り出した方が早いじゃねぇか・・」
「それも考えたが、却下だな。明日も変わらずこの公園は運営されるんだ、いきなり池の水がなくなっていれば、メディアが食いつく材料になってしまうだろう?」
「俺達の存在は極秘に秘密裏に、ってかよ?・・・ったく、それもいい加減聞き飽きたぜ」

やれやれ、とばかりに肩を鳴らし、無気力な態度で遊歩道向かう歌麿だ。

いつもと何が違うわけでもない、自分達の存在が気づかれないよう極秘裏に包まれる都の真実。
平凡な日々という仮初を守るのが、自分達戦士の仕事。

ここで不満を愚痴った所で、都市主である彼の口に勝てるとも思えない。それ以前に、都市主の抱える思想論すら理解できた筈もないだろう。
ただ、従うだけなのだ。
真実を知るより先に武器を奮い、任務を遂行するより先に葛藤と戦う。

―――もう、慣れている。

「こっち側におびき出しゃいいんだろ?」
「ああ、頼む」
「ったく、なんで俺がンな真似」
「・・・・すまんな」

ふいに、聞こえるか聞こえないぐらいの声が歌麿の耳を掠める。
振り向けば、切なそうな表情の夜近が彼の姿だけを捉えていた。
それには歌麿も愚痴をこぼしすぎたかと反省したらしく。

「だぁほ、都市主が謝るんじゃねぇよ。オマエ偉い奴なんだろーが。堂々と突っ立ってろよ」
「・・ああ、そうだったな」
「そんで、さっさと終わらせて迎えに行ってやれよ」

返事は聞こえなかったが、言葉は届いた筈だ。
それに満足すると、歌麿は先程の態度も忘れ軽快な駆け足で貸しボートへと向かっていく。



「・・迎えに、か。行けるものならとっくに行っているさ」



武装した衣装の懐から、もう一度月詠のリボンを取り出しては掌に軽く乗せて見つめる。少しでも油断すれば風で飛ばされてしまう程に軽く、しかしこのリボンの存在は何よりも重い。
自傷気味な笑みが零れてしまえば、ただ無残な心だけが浮き彫りとなっていく。

「ほんで?アタシはここで戦えばいいワケ?」

夜近の様子を気にするでもなく、大刀を担ぐ風はぶっきら棒に尋ねてくる。
それに顔を上げて返事をしようとした頃だろうか、彼の姿を確認したのは。
勿論、その怒っているでも笑っているでもない表情で足早に寄ってくる彼の姿に、風も不思議そうな表情をするしかないようだ。
「なんで日光が来てんのさ?アンタ、呼んだ?」
都市主に向かってその名称はないだろう―――しかし、今更訂正を求めた所で無駄に終わるがオチだ。
「月詠の代わりにと提案はしたが、本当に来られるとは思っていなかったな」
実際は、連絡しようにも居所が不明だったので連絡は取れていない。だというのに、何故彼はここに来たのか―――個人的理由、というのが真っ先に該当するも、戦場にまで邪魔をしかける彼ではない。
だとしたらば、余程重要な理由があってここに参じたのだろう。
「日光殿、どうされました」
周囲の敵は粗方減ったのか、会話の余裕が見れる。それは風も同じ事で、ここまでの道程を思えば敵が余程少ないらしく、周りの兵士達で事足りると判断したのか背中の武器を構える素振りすら見せない。
「日光殿?」
夜近に目を合わせるでもなく、ただしきりに周囲を見渡すのは日光である。その様子を意味するものが分からないらしく、夜近はもう一度名前を呼んでいた。
そして二度目に名前を呼んだ後、彼の黒い髪がゆっくりと揺れては夜近に向き直り、ただ一言訊ねる。
「・・・月詠はいないのだな?」
「ええ、連絡が取れなかったものですから」
「連絡、か」
ふん、と忌々しそうに目を細め―――しかしその視線が何かを捉えた時、日光の表情は一変しては夜近の胸倉を荒々しく掴んでいた。
「貴様!!」
「何ですかいきなり―――
若干日光の身長に合わせるようにして掴み上げられるが、少し背伸びする程度のものだ。
だが日光の豹変するその態度、それこそ理解が追いつかない。
これが普段ならば月詠との関係に対しての文句や、細かい粗探しを武器にした口論になるのだが―――どうにもそれらに当てはまらない。
「今は戦闘中です、態度を改めて頂けませんか」
「改めるのは貴様だ!月詠を放ったらかしにしている貴様だ!それは月詠の装備していたリボンだろう!」
「・・っ」
夜近の右手には、先程懐から出した月詠のリボンが握られている。
風に揺れ、日光から与えられる振動に揺れ、それでも夜近の手はそれを離しはしなかった。
そして日光は胸倉を掴む姿勢をそのままに、声のトーンを落としては落ち着いた声帯で態度で夜近を真正面から見つめる。
随分と至近距離に思えるが、夜近を逃がさない為だろう。

「月詠に会ったのだな・・・?」

だが、夜近は視線を逸らす。
答えたくないとばかりに。
無論、その態度が何よりもの肯定になるのだが。

「会ったのかと聞いている」
「・・・・」
「何故答えない」
「この戦闘が終わったら、日光殿にとって朗報になりますよ」


―――婚約破棄になるのですから。


だが、言葉は続かない。
まるで恐れているかのように、認めたくないとばかりに。


「朗報、だと?あんな状態の月詠を放棄され、その後の処置が俺にとって朗報になるだと?馬鹿馬鹿しいッ!」
「・・っ!日光殿、知って―――?」
「貴様と月詠の関係よりも月詠の命が劣るとでも言わせたいか!都市主と花嫁の関係抜きで人命を優先するのは当然だろうッ!!それとも貴様は!この期に及んで、あの月詠を確認していながらも関係性を選んだのかッッ!!!肩書きがそんなに大事かッ!!」

捲くし立てるように、日光の激昂は続く。
夜近はただその剣幕に体を揺さぶられるだけで、これといった声も出さなかった。

冷酷を徹底している―――のではなく。
言葉が見つからないでいる。

人として当然のその考えが、自分になかったからだ。
人命優先という点で云えば、充分戦士の役目でもあるというのに。
人命よりも魔物討伐が大事だったのだろうか。
戦士の役目は、本来都に生きる人々を守る事にこそ真意がある。


(違う、俺は―――


肩書きでしか量らなかった。
月詠の存在を。

禁呪を保管する、その責任者。
勝手に持ち出され、実行し、それを嬉しそうに伝えてこられ、だから傷つけた。
腹が立ったのは事実であるし、戦士としての役割を松任できない『体』では邪魔だからと気遣ったのも事実。

それでも、最初から最後まで―――その肩書きで扱った。
禁呪の存在を誰よりも知り尽くしているというのに、その結末も知っているというのに。

いや、自分が月詠を選べば、その真実を都爺たちに伝える事になる。
そうなれば、駿河は責任を逃れられない。
婚約破棄も当然の処置だろう。花嫁という肩書きを持つのだから、最悪処刑という処置も充分考えられる。
月詠を守るつもりで―――違う、月詠が持つ肩書きを守っていたのだ。


(婚約破棄が嫌で、俺は肩書きだけを守ろうとしたのか・・・危険な状態の月詠の命を、俺は肩書きよりも下に見た―――


命と云う最上級の価値を、見ていなかった。
見ていたのはその命が装備する肩書きだけだった。
その装備が外される事を恐れていた。


―――だが、それが分かった所で何ができようか。
指揮官である自分が、この戦場を離脱できる筈もない。
都市主が役目を放棄するなど、許される筈がない。


「俺は、都市主という名前にしか価値がないのですよ。都の為だけに生きるからこそ存在理由が生まれ、都市主という肩書きにこそ俺の価値がある」
「そんな下らんモノにしがみついて、一体何の得がある」
「得・・・なんでしょう、分かりません。・・・ああ、都を守れますね。それから、神門家の歴史も守れる」
「下らん。花嫁一人も守れず、これからもいい面だけを強調した都市主を演じるつもりか」


―――演じる?


何かが抜け落ちたように虚ろな表情で、夜近はその単語に反応した。

「それが都市主の顔か?それが立派な理想を受け継いだ最高権威者の表情か?」
「貴方がさせたんでしょう?」
「月詠がいないからだ」
「・・・?」
「貴様は昔からそうだ。月詠に関する事になると平静を見失う。そのくせ、口と態度だけは残酷に変化する。それが都市主としてあるべき姿なのだとばかりにな」
「平静を見失ってなどいませんよ。指揮官が冷静でなくて戦況を有利に運べはしません」
「その言葉こそが平静を失くした言動だ。指揮官、責任者、その立場だけに重要な意味を重ね、月詠の存在も現状も必死に忘れようとしている。そんなに楽になりたいか、そんなに苦しむのが貴様のやり方か」
「苦しむ?」
「言ったろう、貴様は月詠に関する事に関しては敏感以上の反応で普段のらしさを失くすのだとな」
「説教は後にしてください。ここは戦場です」

掴まれるその逞しい腕を離そうと手をかけた時だろうか、日光が更に追い討ちをかけるように囁いた。
それは、確かすぎるほどに確信を持った言葉で。


「月詠がこの宝ヶ池にいる。捜せ」


―――時が止まるかのような錯覚と共に、夜近の内部が一気に唐突に荒れる。

ここは戦場で、魔物が溢れかえっている場所で、そして月詠は剣士としての全てを失っているという事実。
思わず口をあけたが、何を問えばいいのかすら分からない。
ただ繊細な青い髪が迷うように揺れた程度で、その胸倉が離されると同時に日光は剣を抜いており、いきなりとばかりに夜近を突き飛ばした。その判断が一瞬でも遅ければ魔物からの致命傷は免れなかっただろう―――そう、二人がいた場所は既に魔物によって占拠されており、日光の剣はその存在に対して抜かれたものである。
「日光殿!!」
「さっさと行かんか、ノロマめ!」
「違う、俺は!!」
「あらぁ、いいモノ持ってるじゃない?」

新たな第三者の声―――突き飛ばされた体勢を整え始める夜近の背後から、女性のように怪しくも確かな男性の色気を醸し出す声帯が届く。
振り返ればそこには見知った『彼』がおり、人形から生成した大型の犬に乗っている。説明するまでもない、鈴零である。
だが鈴零は、夜近の片手に握られている月詠のリボンを指した。
「駿河の血を感知できる日光の髪の毛よりも、そのリボンの方が確実ね」
「鈴零!?何故貴方が」
「夜近ちゃんってば、全然お店に来てくれないんだもの」
台詞だけ聞けば妖しい遣り取りである。
「この子貸してあげるから、早く行きなさいな」
「日光殿にも何度も申し上げたばかりです、俺はここを離れるワケにはいきません」
「指揮官だとか何だとか、ちゃんと聞いてたわよ?けれど、特例で委任権っていうものがあった筈でしょう?」
「・・・その特例に関する事実を公にできません」

月詠の一件を公にすればどうなる事か―――その結末を、都市主であるからこそ理解しているのだ。口になどできる筈もない。
しかし鈴零は、違和感溢れる空気で軽快に疑問を投げかける。
「あら?日光ったら言ってないの?」
何を―――と、表情に疑問を乗せれば。

「この宝ヶ池の管轄は駿河家よ?指揮権委任措置として、駿河当主にその全てを渡せるのよ?」

そう、何らかの理由により都市主が指揮権を松任できないと判断した場合において、それは正当な理由として成立する規則の一つなのである。
戦士として立ち向かう戦場にて如何なる場合であっても何事にも対応できるよう、委任措置という処置が定められている。

「人命優先の為に一時離脱、ってトコでどうかしらね?」

間違いではない。
しかし、割り切れないのが夜近である。
どうしても、月詠の姿に肩書きがついて回るのだ。
それを見兼ねるのか、鈴零が笑う。
「少しは周りの大人をアテにしなさいな。中身は腐ってても、夜近ちゃんより多くの年月を経験してるんだから。それに」
「それに?何ですか?」
「都市に対しての責任は大人が作り出したモノよ。それをアンタ達若者に全てを担わせてるの。日光も罪悪感ぐらいは感じてるんだから」
いや、それはない―――しかし、言い切れる自信もない。
全てに傍観気味で神門家に一人敵対し、そのクセ夜近に対しては身内以上の厳しさを見せる彼が、そのような内面を隠しているとは想像もできないのが事実だろう。
「一人で何もかも背負う都市主様もいいけれど、少しは自我を見せなさいってお話よ。あらやだ、説教臭くなっちゃって♥」
「・・・月詠が、この宝ヶ池にいるという情報は確実なのですか」
「あーら、私の情報に何か不足してるかしらね?」
情報屋として人形師として神門家に仕える鈴零は、試すような笑みで応える。
情報屋とは『確実』と『正確』が備わってこそ成立する存在であり、そこで初めて『識』は『情報』に変化する。即ち、情報として成立したからこそ、ここに来たという事でしかない。

「いえ、愚問でした」
そして再度リボンを見つめ、今度は力強く拳の中で握り締める。
「俺は大人に責任を求めたりは致しません。務めも使命も、都市主に就いた時から理解していますから。俺にしかできない事だと自惚れていますのでね」
「これ以上はないくらいに素敵な模範解答ね。問題なのは、それが夜近ちゃんの本心ってトコロだけれど」
「優秀な都市主なくしては都市は機能しませんよ、鈴零。仕える者にしても有能でなければ使い捨て駒でしかありませんから。勿論、日光殿も含めてですが」
「不器用なのよ、分かってあげて頂戴」
「いえ、日光殿はあのままが一番いいですよ」
鈴零に促され巨大化した狗の人形に乗り、夜近はそのリボンを人形の口に挟ませる。
「良くも悪くも、日光殿だけは俺を都市主として見ていないのですから」

大人の優しさとは違う、日光なりの扱い方なのだろうか。
尤も、本質は月詠との関係を壊す為に、故に夜近を敵と見ているからこそ最高権威に座るその地位を認めていないのだとは思うが。
どちらにせよ、日光に言わせれば『下らん』と一蹴されるでしかない話題だ。

「これを日光殿に渡して頂けますか」

紐で固定された左手の手甲を手早く解き、投げるようにして鈴零に渡す。
「生憎と委任状を用意してないものですから。神門の紋様が入っていますので充分代用品として通用するでしょう。都爺達に問われましたら、それを提示するよう伝えてください」
「分かったわ、早く行きなさいな」
見渡せど剣のぶつかり合う歪な金属音、何かの断末魔、獰猛な肉が切り裂かれる重い音―――その中に魔物と対峙する日光と風の姿を見つけるも、夜近は苦渋の思いで振り切るように背中を見せていく。
巨大化した犬の人形に跨り駆けていくその姿、それを目撃する兵士達は何を思っただろう。


「さぁて、と」


夜近から渡された手甲を掌に、鈴零は邪悪な気配を全身で感じ取っている。その中でも背後からの夥(おびただ)しい程に迫ってくる気配―――しかしその麗しい姿を振り向かせるでもなく、首に巻いた蛇の人形に指を触れさせ、瞳に鋭利な鋭さを光らせては不敵に美しく笑む。


「人形師もなめられたものね。私だけのガーディアンは、少しばかり乱暴よ?」





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