第弐章・第4話『夜近の章・失くした記憶/覚醒の時』
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―――同時刻。 今朝方に起きた自身の乱れをなんとか克服し―――日光の手助けがあったからこそできた事だ―――いつも通りに学校へ行き、いつも通りの一日を終えようとしている。
今日に限って神門家の送迎車を出したのは都爺からの進言で、よほど心配かけているらしい。
屋敷内に入っては腰元や兵士達が自分の姿を見て安堵を覚えている光景。居心地は悪くないが、どうにもむず痒い気分でもある。
「都市主様、お荷物を」
「いや、いい。自室に入って少し寝る。用事があるなら起こしてくれて構わん。都爺にも伝えておいてくれ」
「御意」
深くお辞儀をしたままの腰元の隣を通り過ぎ、足はただ自室向って歩いている。
ふと視界をよそにやれば、季節に合った色とりどりの花が咲く庭。庭師はいい仕事をしている、大きく育ちすぎた木々なんかの葉も見事な芸術としてそこにある。
まるで、朝方の一件が夢であったかのようだ。

「ふぅ」

ようやく自室前に着き、疲れた表情と慣れた手つきでその障子を開く。
だが、そこには珍妙な先客がいた。

「よう」

「・・・・・失礼しました」

ぴしゃん。

「・・・・・・・・」

あれ?
俺の部屋だよな?
もう一度確認してみよう、最近疲れがたまっているせいかもしれない。

がらり。

「よぅ、おかえり」
「おかえりなさ〜〜い」

ぴしゃん。

何かいた。
今何かいたぞ!?
子供二人と日光殿ぐらいの年齢の男が!しかも男の髪の色は自分と同じだった。
どこから持ち出したのか急須とお茶を囲んで3人!
自室に客を待たせるなんて事はした事がないし、来賓客なら謁見の間に通すのが普通だ。
という事は、門番や都爺の許しもなしに勝手に入り込んできた賊か?
いや、それならばあんなにも寛いで俺に話しかける筈もない。

「えー・・と。・・・・不審者?」
「いいからさっさと入ってこい」
「うわぁっ!?」
自分の中で状況を整理しようと務める夜近だったが、向こうから勝手に襖が開き、若干痺れを切らしたような表情の男が目の前に映り込む。そして強引に手をひかれ、自室内へと入り込んでは襖も閉められてしまった。
だが、部屋に入った瞬間、何か違和感のようなものを感じた。例えるならば、空気が違うとか異質な感じだ。

「わ〜い、パパ様おかえり〜〜〜」
小さな女の子が嬉しそうに胸に飛び込んでくる。
「ぱ、・・・・え?」
そんな夜近の動揺を汲んだのか、もう一人の男の子が女の子の頭を叩いた。
「こら月!父上様の御前ではしたない事をするんじゃない!」
「はい??」
「夜(よわ)も抱きつきたいクセに〜〜」
何故か、自分にくっついて離れない二人の子供。
二人ともよく似た顔つきで、女の子の方は髪が蒼く、男の子の方は髪が黒い。
性格も正反対のようで、困った顔で男の存在を思い出すが、いつの間にかまた寛いだ姿勢でお茶を飲んでいる。
「すまんな、俺の子供だ。双子でな」
「は、はぁ・・・・・」
「やはりカリガネの茶は美味いな」
まるでこの自室を隅から隅まで知っているかの様子で、男はただ湯呑の温もりに委ねている。
「あの、申し訳ありませんがお客人でしたら謁見の間の方へ―――」
「お前に話があるからここに来た。それに、お前も感じた筈だがな?この部屋のカラクリを」
「カラクリ・・・?」
そうだ、双子に動揺して忘れがちになっていたが、確かにこの自室はいつもと何かが違う。
入った瞬間に、別の異空間に転送させられたかのようだった。
はっと柱の時計を見やれば、時間が秒針が止まっている。
「これは一体―――」
自分と同じ蒼い髪は腰あたりまで伸びており、柔らかな腰つきとキリリとした大人の表情、逞しく整った筋肉を隠すような立派な呉服。確かな何かを持ってここにいると云わんばかりの態度。
「簡単に説明するならば、ここは閉鎖空間だ」
「閉鎖空間?時間も時も止めて一切の生を孤立させてしまう空間の事ですか?ですが、俺の知る限りでは閉鎖空間では人は生きられない筈」
「心配するな、一時のものだ。こうでもせんと、お前に会えなかったから処置したまでの事。この部屋は外界とは完全に遮断されている。ここに必要な人間ならば容易に入れるが、そうではない者―――そうだな、腰元や女中、都爺なんかは無人の部屋に見える事だろう」
「それよりも、貴方達は一体」
「都の頂点に座る神門家最高権威継承者にして神門家当主、神門夜近だ。そっちのは、黒い髪が夜(よわ)、蒼い髪が月、俺の子供だ」

やはり疲れているのだろうか。
何もかもが無茶苦茶な展開になっている。
目の前にいる男が自分と同じ名前と肩書きを持っていて、子どもたちに至っては自分を父親だと呼んでいる。
―――目眩がしてきた。

「詳しい説明は、演者が全員揃ってからだ。それまではお前も仮眠をとるなり好きにしていろ」

好きにしていろ―――と言われても、ここは本来自分の部屋だ。
間取りにして12畳程度だが、閉鎖空間だとか二人の子供がいきなり父と呼んで離してくれなかったり、もうどこから整理していけばいいのか分からない状態である。
例え仮眠をとろうと布団を敷いた所で眠れはしないだろう。
だが、こうも考えられる。
同じ名に前同じ肩書き―――時空の問題だ。
「もしかして貴方方は―――」
「失礼するよ」
夜近の言葉を遮るようにして入ってきたのは、先ほど密羽と歌麿たちが対面した二人の男女だった。
黄色い長い髪はお世辞ではなく本当に美しくしなやかで、一方赤い髪の男は始終笑っている。
無論、この段階で夜近がこの二人の正体を知っている筈もない。
「悪いね、夜近。禁則事項破っちゃったよ。この馬鹿が」
「あんだよ、密羽だって一戦したクセに」
「そうでもしなけりゃ納得しないんだよ、この時空の自分は」
「3人は?」
「こっちに向かってる。アタシらは俊足使ってきたから、あいつらが到着するにはあと数時間はかかるんじゃないかい」
「そうか、結構。お前らも茶を飲むといい」

勝手知ったる他人の部屋―――夜近は部屋の片隅で屍状態にある。

(閉鎖空間を使用してまで会いにきた理由、そして同じ名前を持つ存在、それから時空―――)

夜近の中で答えは一つに導かれつつあった。
だが、その原因となる理由は皆目見当もつかないのが本音だ。
「貴方方は、この閉鎖空間に選ばれた方ですか」
「あ?」
赤い髪の男が振り返り、二人の子供をあやしている夜近を視界に入れた。
「おーー!!夜近じゃねぇか!!わっけーなぁ、おい!!」
髪の毛をぐじゃぐじゃにされ―――彼にとっては親愛のつもりなのだろうが―――ちょっと対応に困る。
「俺だよ俺!分かんねーかっ!?」
「流れでいくと、歌麿と密羽―――という憶測で結構でしょうか?」
「へへっ、あいつらと違って、やっぱ夜近は扱いやすいな!一を知って億を知るってか?」
「馬鹿歌麿。それを言うなら一を知って百を知る、だ」
密羽がため息をついている。
そこに、自分の名を語る男が可笑しそうに笑った。
「他の奴らには内緒にしてもらいたいが、お前だけには言っておこう。この二人、結婚している」
「―――ッッ!!??」
「おお、無表情ながらもナイスなリアクションだ」
「そんなまさか。葛葉家は密羽が継ぐ筈では」
「歌麿の猛アタックもあったり色々あってな、それは呉羽が継いだ」
あのアイドルナルシストの呉羽が葛葉当主?
・・・・違和感というか、どうにも予想を遥かに超えた限界でイメージすら湧いてこない。
「皆結婚して、それなりに4大名家も安定している」
あの風や涼、日光も結婚している?
相手を聞きたいような聞きたくないような。
「とりあえず、ここまでの話はお前の中だけにしまっておいてくれ。過去に未来の情報が知れ渡っては時空異変が起きる可能性が高い」
「やはり、貴方方は未来の時空から来られたのですね」
「ああ、滞在時間は限られているが、俺達には目的がある。ともかく、詳しい話はあの3人が揃ってからだ」
歌麿に密羽に自分―――だが、何故か月詠の姿だけが見当たらない。
信じがたいが未来から来たという自分の話では、現在の密羽、歌麿、月詠の3人が揃えば話が聞けるのだと言う。
「・・、待ってください。この閉鎖空間では時間は経過しないのでしょう?だったらあいつらを待つ事に意味はない筈―――」
「はぁっはぁっ・・!夜近、いるかい!?」
確認もせず襖を開けて飛び込んでくるのは、最後の演者達。
「み、密羽ちゃん〜〜っ、はぁっはぁっ・・、待って、くださいまし〜〜〜・・っ」
3人が3人とも全速力で走ってきたのか、酷い汗をかいている。その背後に広がる景色は夜に近く、外界では数時間経過しているようだった。
先頭に立つ密羽に至っては、厳しい眼光で室内を見渡しているが、自分と同じ名を語った彼女の存在を視界に入れるなり、室内に一歩踏み込む。
「約束通り来てやったよ!本性を―――」
体中の全てがざわつく。
それは一瞬の出来事だったが、密羽の言葉は止めざるを得ない状況にでも出くわしたかと云った感じだろう。襖を閉めて後ろの二人も同じような感覚を味わっているらしかった。

「な、に・・・ここ、本当に夜近の部屋・・・?」
「一時的に造られた閉鎖空間らしい」

密羽の疑問は、部屋の片隅で二人の子供を抱いている夜近から届けられた。
「閉鎖空間・・?」
「まぁっ、夜近様!なんですの、そのお子様は・・!・・・もしや、ワタクシ以外との―――」
月詠の瞳が暗黒に染まりキュピーンと光り始める。
「ま、待て待て!こいつらは―――」
夜近が制すよりも早く、夜近の膝でじゃれていた双子は月詠の姿を見るなり表情を明るくし、待ってましたと云わんばかりに駆け出していた。
「わぁい!!ママ様〜〜!!!」
「こら月!お前はまた!・・・母上・・!!」
「え?え??ママ様?母上??な、なんの事ですの〜〜??」
よく似た顔立ちの二人の子供は月詠にしがみつき、離れようとはしない。
慌てて膝を折る月詠だが、どう扱えばいいのか分からず混乱しているようだ。
が、その状況も次第に変わっていく。
「ママ様〜〜・・・・ぐすっ・・・ふええぇ〜〜ん・・・・」
「母上・・・・ぐすっ・・」
「ど、どうしましたの〜?どこか痛い所でもありますの〜?それとも、お腹が空きましたの〜?」
両の手で二人の子供をあやす月詠のその表情は、慈愛に満ちている。
だが二人の子供は、月詠の言葉に頭を振る事で否定してみせた。
「やっと会えました・・・母上・・・ぐすっ」
「ワ、ワタクシに??」
「月詠、しばらくそうしてやっていてくれ」
その声は、この部屋の主とでもいう顔で寛いでいる男から届く。
先ほど遭遇した『密羽』と『歌麿』以外の、長く伸びた青い髪を揺らす男。美形に変わりはなく、気を許せばたぶかされそうな感じの男。
「とりあえず、演者は揃った。改めて自己紹介から始めるとしよう。皆、好きな所に座ってくれ」
「曲がりなりにも、俺の部屋なんですが」
「俺の部屋でもあるぞ?」
「もういいです、続けてください」
諦めたと云わんばかりの夜近の表情は、状況整理というよりも現状把握すら難しいようだった。
「この二人の自己紹介は済んだとは聞いたが、改めて名を名乗ろう。俺達は、10年後の未来から来たお前たち自身だ」

凛々しくも威厳のある瞳を見せつける神門夜近。
美しい風貌とは裏腹に厳しい眼光を光らせる葛葉密羽。
始終愉快そうな笑みで、だが鍛えられた体は何よりも逞しい鳳来寺歌麿。

「はぁ?アンタ達何言ってんの?そんな漫画みたいな話」
正体を聞くや否や怪訝な表情で嘲笑う密羽は、信じる気0の様子だ。
歌麿に至っても、どこか呆れた表情で障子を背に欠伸をかいている。
月詠は二人の子供をあやすのに必死だが、会話には参加しているようだった。
「夜近、アンタからも言ってやりなよ。デタラメな言い訳に4大名家の名を名乗る不届き者じゃないか。それに、アンタらの言葉を信じるなら月詠がいないし」
「・・・・・・・」
「夜近?」
今まで聞き手に回っていた夜近のその表情は酷く険しく、片膝立てた状態に片腕を乗せ、まるで何かを考え込んでいる。
その応答があったのは、密羽の投げやりな言葉から数秒を要した。
「・・・先日月詠が使用した禁呪は特殊Aランクの代物。だが、最高位Sランクとして指定されている秘術の一つに、時空飛翔という禁忌が存在する」
「・・・・なっ」
「・・・マジなのかよ、夜近」
今まで他人ごとのように、そこにいるだけだった歌麿がゆっくりと声を落とす。
焦るでも切羽詰まるでもない、いつも以上に平静でトーンすらも下がった口調で。
「ちょ、歌麿!信じるっての!?」
「神門家にて管理されてる禁呪、秘術、禁忌、それらの資料を拝見もしくは知識として許可されるのは、都市主だけの特権だ。だから、夜近は知ってるんだろうぜ。それに密羽、お前も一戦した相手だ、正体知って納得してんじゃねぇの?」
「アンタ!!アタシを馬鹿にしてんの!!??」
思わず歌麿の胸倉を掴むが、彼は然して気にもしていない様子で、いや、どこか無心な瞳のままである。密羽の渾身の力によって腰は多少持ち上がるが、それだけだ。
「しかし、時空飛翔は都市主の権限だけでは使用できない秘術。4大名家当主全ての許可があってこそ成り立つ代物だ」
「・・・どういう事」
「俺が頻繁に使用している転移魔術は俺だけが使える代物であり、別に秘術扱いではない。都市主が継承する一つの力だと思ってくれれば問題はない。だが、時空飛翔は4大名家全ての力がなければ発動させる事ができない代物。つまり、そうまでしてこの時空に来た理由が彼らにはある―――そう解釈してよろしいですか?」
「ああ、問題ない」
未来の夜近が満足そうに頷き、歌麿の胸元を苦しめていた密羽の手が弱まっていく。
「―――・・・嘘、でしょ?」
負けた事が悔しいのか、目の前の現実が受け入れられないのか。
密羽は脱力した表情で呟いていた。
だが、そんな彼女の心境もお構いなしに未来の夜近は問う。
「お前達、宝ヶ池での戦は何日前だ?」
「あれは確か6月25日でしたから・・・・丁度一週間前ですね」
「おいおい、そんなに経ってんのかよ。夜近、限りなく近い時空に飛んだ筈じゃなかったのか?」
「3人がバラバラの時空に落とされなかっただけでも良しとするしかあるまい」
時空飛翔の危険性。
それは、送られた存在がはぐれた時空に落とされる事にある。そして当然、限られた滞在時間内に目的を達成できなければ二度目はない。
「アタシ達の時空では日光や涼が頑張ってくれてんだ、一刻も早く動くべきだろ、夜近」
落ち着いた態度とは裏腹に、どこか焦燥の見え隠れする密羽の言葉。
だが、現在を生きる彼らにはまだその『目的』を明かしていない。
それを切り出したのは、機敏とした態度で臨む夜近だった。
「では、聞かせていただきましょうか。貴方方が禁忌を使用してまでここに来た理由を」
大人の密羽は言い難そうに顔を背け、歌麿はそれを語るのは自分の役目ではないとでも云うかのように押し黙り、そして最後に残った都市主・夜近がその口を開く。

「月詠が殺された」

―――一瞬、何を言っているのか分らなかった。密羽も、歌麿も、夜近も、そして双子をあやしている月詠も。
「殺された・・・?戦闘による被害で、ですか?」
「いや、そうではない。敵が月詠の命を持っていた」
「・・??なに、それ」
理解しようと努力するが、密羽は再度問う。
「この時空に、月詠を助ける術があるのだ。・・・お前たちにしてみれば最近の話だ、月詠が造った禁呪。それを持つ者が、自分の死と同時に禁呪の珠を形も残らぬほど崩壊させた。そして月詠は―――・・俺の目の前で死んだ」
「禁呪の珠・・?・・・・ッ!!夜近、あいつだ、緑髪の男ッ!!」
唯一その状況を見ていた密羽は瞬時に思い出す。
月詠に接吻し、そして渦巻く色の珠を月夜に照らし輝かせていたあの男を。
そう、あの執拗なまでの接吻は月詠の中から禁呪を取り出す為だったのだ。無論、そのおかげで月詠は一命を取り留めたのも事実だが、しかしそれによって殺される。なんとも皮肉な話である。

「俺達の目的は、未来の月詠を生き返らせる事にある」
「だから、この時空に存在する禁忌をなんとしても回収しなくてはならないんだ。月詠があんな形で殺されるなんて、未だに信じられないんだから」
「ま、ここに月詠がいないのはそーゆーこった」
真剣な眼差しで語る未来の夜近と密羽。歌麿だけはどこか余裕の笑みを浮かべているが、内面は今にも飛び出していきそうな葛藤があるのかもしれない。
「そちらの言い分、そして目的と動機は理解しました。ですが、質問があります」
彼らの話を聞いた後、夜近が徐に口をあけた。
「時空を超えて未来を変える。それこそ禁忌そのものに該当する特殊禁忌事項だと承知しておいでで、それでも尚且つその選択肢を選ばれたのですか?」
「ああ、それでもだ。この通り子供がいるから跡継ぎに問題はない。しかし、月詠のあの死に方は納得できん」
眉をひそめ、未来の夜近はその光景を思い出しているのか口調が少し怒りを含んでいる。
「しかし、その敵の存在を我々は知りません。この時空にいるのが確かなのでしょうが、どこにいるかさえも分からなければ動きようもありません」
「獲物は4人、しかし禁呪を持っているのはただ一人。そいつさえ見つかれば問題はない」
「魔物ですか?」
「我らのように力を扱う人間だ。密羽も目撃したと言っていた、緑の髪にバンダナ、そして頬に何かの紋章を描いた男だ」
「大きな鎌とカマイタチを扱う厄介な男なのさ。人を殺すのを愉しみ、一言で言うなら鬼畜な奴さ」
「!一般人にも手をかけているのですか」
「ああ、跳躍力も人並み外れた野郎でよ、追い込むのすら4人がかりだったんだぜ。で、やっと始末できたかと思いきや、月詠まで道連れにしやがった」
「俺達はそいつを『鎌』と呼んでいるが。…鎌は月詠に惚れていたのかもしれんな。最後に、月詠を俺の女だと呟いていた」
「まぁっ、失礼な方ですわね!ワタクシは心身ともに夜近様のモノですのに〜!」
「ははは、そうだな。・・・これで、その双子が月詠に泣きついている理由も分かったろう?」
「そうですね」
見やれば、双子は月詠の体を思いきり抱きしめ、さらに止まらない涙を流し続けている。
戦士としての務めを見送った後、帰ってこなかった母親。傷一つなく遺体で帰ってきた母親。
まだ幼い彼らには辛すぎる現実なのだろう。
双子の彼らは、ただ月詠に会いたくて時空飛翔に同行したのかもしれない。
「密羽。お前が見た禁呪の珠はどんなものだった?」
「ああ、丸くて、少し大きめのキャンディぐらいだったよ」
「ふむ・・俺達が見たのは呪術師が扱う水晶ぐらいの大きさだったな。禁呪の球は日々成長しているという事か」
「月詠の成長と共に禁呪も、ですか」
「この時空で何が何でも取り戻さねばならん。協力を乞う」
「それは構いませんが・・・・」
問題は、それを持つ人物の特定だ。いや、この場合は場所とでも言えばいいのか。
「それならば問題ない。密羽が探索秘術を会得している」
未来の都市主は隣に座る密羽に顎を向け、そして彼女はただコクリと頷く。
「閉鎖空間を解除して、夜近。庭で術式に入る」
「ああ、分かった」
そう唱えるや否や、 フッ と容易に室内に色が戻ってくる。
「時刻は夜の20時すぎといった所か。奴らは夜にしか行動にでない、好都合だな」
がらりと障子をあければ、夜近の言った通り空は真っ暗に染まっている。好都合な事に腰元や都爺の姿も見当たらなかった。
そして未来の密羽が庭に降り立ち、残りの面子を見渡す。
「うまく引っかかってくれたらいいけど」
「期待している」
「密羽おねーちゃん、頑張って〜〜!」
いつの間にか泣きやんだ子供たちも応援側に回っている。無論、その手は月詠の手を握っているが。
「今から何を?」
「葛葉に伝わる術式さ。特定の人物を探り当てることができる術だ」
「この広い都中をですか?」
「そうだ。隠密故の集中力を得ている密羽にしか扱えん技だ」

木々が風で揺れて木の葉を鳴らす。
空が沈み、月が頭上に光り輝く。
情緒あるこの風景の中、美しくも長い髪を揺らして両手を広げ、密羽は目を閉じた。
そしてその足元には複雑な文様が円を描くように描かれていく。その文様の一つ一つから風が生まれ、美しい髪をなびかせる。
「おっと、術陣の中に入るなよ」
徐々に大きくなっていく彼女の術文様に、夜近が忠告した。
それに頷き、彼ら一同は数歩下がる。
「・・・随分と大がかりな術のように見受けられますね」
目の前の密羽を見つめ、夜近はそんなことを呟いた。

術式に入っている密羽の足元からはつむじ風が生まれ、その長い髪を揺らしていく。
「白虎よ、その力を我に与えよ。感知すべしは禁呪の力そのもの也。感知せよ、その存在を」
術陣が大きく光りだす。
宿木にしていた鳥たちは慌てるようにバタバタと羽を羽ばたかせどこかへと逃げていく。
「白虎?どっかで聞いた事あんな」
「うちの―――アタシら葛葉を守護する四神の一匹。それぐらいは覚えてな、馬鹿歌麿」
密羽が大きくため息をつくも、目の前の光景は未来の自分。ちょっとした敗北感を覚えながらも見惚れずにはいられない。
「葛葉家が最も困難としてきた術陣・・・やっぱり、葛葉の人間・・いや、未来のアタシってワケ・・?」
白い光に包まれ、彼女の集中力は更に増していく。そして詠唱の途中から術陣に変化が見られ始めた。気泡、丸い泡―――とでも呼べばいいのか、幾多ものそれらが彼女の周りをぐるぐると回り始めていく。そしてそれらは時間をかけて一か所に留まり、更に光り輝いた。
「・・・見つけた。ここから北西の方向だ」
「駿河の管轄内か」
未来の夜近が庭に一歩進むと、術陣は光の砂のように奇麗に消えていく。
「どうする?今から行く?」
「鎌はどうやらこの時代から月詠にご執心の様子だな。お前たちはどうする?敵を見ておくのも一興かもしれんぞ」




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