第弐章・第4話『夜近の章・失くした記憶/覚醒の時』
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正面には駿河家の表門。
外から見る分には、これでもかと云うぐらいにばかでかい屋敷。中身の構造までは知れないが、それでも神門家よりは小規模だと云う。
その正門の両端には緊迫感を漂わせる警備兵が、剣を片手に4人立ちかまえている。
そんな状況を、木々が成る枝の上から観察する鎌衣は面白くなさそうな表情で眺めていた。
「お嬢様にゃ門限ってのがねーらしいな」
時刻は既に夜中の21時。どうやら鎌衣は月詠を待っているようだ。

「ふあぁ〜あ・・・」

退屈そうな欠伸を一つ。
と、その瞬間。
「ッ!?」
頭上の幹に一本のクナイが刺さっていた。どこから放たれたのか分からない。いや、こんな夜中に自分の居場所を特定できる奴がいる訳がない。
だが、相手は確実に自分を狙っている。
木から木へと飛び移る間にも、クナイは的確に自分を狙ってくるのだ。
そして地面に降り立てば、これまた見た事のない人物が重そうな槍を抱えて立ち構えている。
「こっから先は行き止まりだぜ?」
屈強な笑み、そして何より目立つのはその赤い髪だろうか。
「はああぁぁッ!せいッッ!!」
重いその槍を華麗に操り、まるで全然重くないとでもいうのか、歌麿は鎌衣を確実に追い詰めていた。
「くっ、なんだお前はっ!」
そして後ろからはクナイが連続して自分の足元を狙ってくる。
「ちっ!!」
慌てて木の枝に飛び移るが、密羽は待ってましたとばかりに同じように飛び移る。勿論、自らが放ったクナイを回収しながら。
鎌衣もよくは分からないが敵だと判断したのか、右手を真横にかざせば武器が現れる。長い鎖、その両端には十字の形をした鎌だ。鎖はこれでもかというぐらいに長く、一振りするだけで周囲の木々を薙ぎ払っていく。
「夜近!!そっちだ!!」
密羽がタイミングを見計らったかのように叫ぶ。そしてその言葉が、鎌衣にとって僅かな隙を作る時間となってしまった。
そう、夜近の名前が出たからだ。
だが、気付いた時にはもう遅い。
真正面からの神門流衝撃波が体を使い物にならなくする。そして留めは上空から放たれるクナイ。
それは両肩と両手に突き刺さり、そのまま地面に張り付けにされる形となって終焉を迎えるのだった。
「なんだてめぇら・・・っ!」
両肩と両手から、そして上半身からどくどくと生々しい温度で血が地面を汚していくのが分かる。
黄色く長い髪の美女、赤い髪を見せつける男、そして青く長い髪の美青年。
鎌衣を囲うように3人は降り立ち、だが答えは示さない。

「はい、夜近。これだろ?」

密羽の手には、鎌衣が玩具にしていた禁呪の珠。驚くのは無理もない、いつ盗られたかすら皆目見当すらつかない。
「悪いね、隠密ってのは盗賊に似た真似事もするのさ」
ふふんと見下すような視線。
「返せッッ!!!返せぇぇぇぇッッ!!!!」
だが、クナイで地面に突き刺さったままでは叫ぶ事しかできない。
「確かに、まだ小さいな。ふむ」
鎌衣をよそに、夜近はそれを見つめる。歌麿もそれに続き、暫し眺めた。
「ちっちぇな。あん時はもっとでかかったのによ」
「成長しているんだろう。まぁ、目的は達成できた」
瞬間、鎌衣がニヤリと口の端を吊り上げた事に誰が気付いただろうか。
その手には長い鎖―――先端は。

「空には気をつけろよ・・・?」

「ッッ!!??」
上空から、鎌が回転しながら突き抜けてくる。
それを最初に察知したのは密羽で、両の手で二人を思いっきりの力で後方へやる。そしてその後に自分もよけようとするが、鎌の放つ風圧だけで綺麗な髪の毛が若干空を舞う。
「密羽ッッ!!」
「・・・大丈夫。頬をかすっただけ」
「血ぃ出てんじゃねーか!」
「これぐらい平気」
「こんの野郎・・!!俺の女に髪の毛一本どころか怪我させやがって・・!!」
血の気が昇る歌麿に対し、鎌衣はしてやったりと満足そうな笑みを浮かべながら、ゆっくりと地面に刺さるクナイを抜いて立ち上がった。そして、それを密羽向かって投げ捨てる。
「同名か、それともどこの誰とも知らねー奴かは知らねぇが、俺にこんだけの仕打ちしてくれやがったんだ、覚悟はできてんだろーな・・・?」
じゃらりと鎖を持ち構え、どこまでも続くその先の鎌は彼にとって自由自在らしい。
「夜近。殺していいか?」
「駄目だ。ここでこいつを殺せば歴史が変わってしまう。それに目的は達成できたんだ、ここにもう用はない」
「殺さない程度ならいいだろ」
「やめておけ。それにだ、ここで仲間でも呼ばれたら面倒な事になる」
「けど!抑えがきかねーんだよッ!!こいつ、密羽に―――!!」
「歌麿。夜近がやめろと言っている」
「密羽っ!!」
「歌麿」
「・・う・・・・・・・」
どうやら尻に敷かれている夫婦関係のようだ。
戦闘態勢だった槍を下し、歌麿は不服な顔を反らす。
「・・・これでいいんだろ」
表情はどこまでも不服そうに、歌麿は槍をおろす。だが、その厳しい眼光は正面の鎌衣に向かう。
「10年も経ちゃぁ、力の差も歴然だな」
「何だと?」
「弱いつってんだよ、てめーが」
「この野郎・・!」
「歌麿、やめな。挑発したらまた戦闘が長引くだけ」
「目的は達したんだ、早々に引きあげるぞ」
そう言い残し、彼ら3人は俊足で姿を消していく。その後ろ姿を追うのは鎌衣で、彼らがいなくなると同時にその場に倒れた。今まで気丈に振る舞っていたせいもあるのだろう、自分でも思っていた以上に出血が激しく、次に目が覚めるのは3日後の事だった。







「見ていたか?」
「はい」
未来の夜近達が帰ってくるのを見て、4人は水晶球から視線を外した。
先ほどまでの一連の事を、この特殊な水晶球で見ていたらしい。よって、現在の夜近達にも鎌衣の存在が確かなものとなった。
「バンダナ、緑の髪、頬に紋章・・・密羽の言っていた奴で間違いないか?」
「ああ、同じだ」
厳粛な瞳で密羽は合意を示す。
月詠の中から禁忌を取り出した男。
気色悪い程に喜んでいた男。
思い出しただけでも身震いする。
「鎌・・・・だっけ?一体何が目的で敵意してるの」
「そうだな、それを話すと長くなるんだが・・・・とにかく、鎌の他に3人仲間がいる。そいつらがこの都に魔物を召喚させている事は分かっているんだが・・・」
「俺たちの世界でも、まだ鎌野郎しか潰せてねーんだよ」
「そんなに強敵ですか」
「ああ、どうにも連中は我々と多少なりとも縁のある奴らばかりらしいからな」
「縁?」
「いや、それも時期に分かってくるだろう。俺たちが今ここで暴露する必要もあるまい」
ふぅ、と一息つき、未来の夜近は手にした禁忌の球を見つめる。

「これで、未来が変わる」

毒々しい色でもなく、奇麗に輝きを見せるその球。未来の彼ら曰く、10年後よりも遙かに小さいらしいが。
「月詠」
「は、はいっ、なんでしょう〜?」
「・・・生き残ってくれ」
「え?」
言うが早いか、夜近は手にしていた禁忌を月詠に向かわせる。そしてそれは酷く普通の出来事のように、月詠の小さな体の中に吸い込まれていった。
それを目にして驚くのは月詠本人だけでなく、夜近もその一人だ。
「な、何を・・!」
「この玉は、云わば月詠の生命体だ。10年後の月詠には小さすぎて無効だろう。科学が発達すれば生命を維持したまま取り出しも可能となる」
「例え話にしては直観的な解答ですね」
「現に、10年後はそういった技術が存在する。だが、それを逆手に取られて殺してしまったのが俺達の間違いだったのだ」
「命の粉砕、ですか」
「あのような光景、二度と見たくはない」

鎌衣のとった最後の行動。
手にした禁忌の球を見せびらかし、最後の力を振り絞って見事に砕け散った命。
そして笑った。
これでもかというぐらいに、ただ狂喜に笑っていた。
戦闘には勝ったというのに、絶望感だけが残った夜。

「・・・これでいい。これでいいんだ・・・」

呟くように、未来の夜近は吸い込まれていく禁忌の球を見届ける。
「しばらくは後遺症が残るが、許せ」
球を全て飲み込んだ後、月詠はその場に崩れ落ちていた。
「うぁ・・・・・う、あ・・・・」
「月詠っ!ちょっとアンタ!」
「いきなり異物を体に取り込ませようとしたから拒絶反応が現れたにすぎん。だが、月詠から生まれた禁忌だ、数分で治まる。あとはだる気やら吐き気やら、まぁその辺は申し訳ないとしか言いようがないのだが」
「いきあたりばったりって事!?何考えてんのさ!」
「仕方ないだろう、これが最善の策なんだ。鎌の手に渡らない為にはこうするしか方法はないんだ」
「それは分かりますが、これでは月詠が一人苦しむ事になります」
「等価交換といったやつだな」
「等価交換?」
「月詠は成長した姿を見せたいと願い、俺―――夜近はそれを裏切った」
「それでは等価交換になりません」
「いいや、月詠の中では等価交換が成立している」

変わりたいと願った少女。
変わったが命の危機にさらされた少女。
要は、己の命と引き換えに大人の姿を手に入れたという事だ。

「それと夜近」
「はい、なんでしょう」
未来の夜近が名指しでもう一人の自分を呼ぶ。
「七夕の日、お前は酷く苦しむ事になるだろう」
「・・・・・・」
「その時は、迷わず祠へ行け」
「祠・・・?神門家が祀っている青龍の祠ですか?」
「ああ、そうだ。そこに答えがある。・・・・受け入れなければならない試練が待っている」
「試練とは?」
「俺の口から言うべき事ではないな。とにかく伝えたぞ。努々(ゆめゆめ)疑うことなかれ」
「分りました、覚えておきます」

七夕まであと一週間。
生徒会長として都市主として働いている夜近にしてみればあっという間の時間になるだろう。
未来の夜近が意図する事は不明なものの、大事な事だからこそ伝えたに違いない。

「目的は達成した。帰還する」

そういい、夜近を含む5人の未来人は特殊な陣を描いた魔方陣の中で消えていく。
数秒後には、そこには何もなかったかのように白い砂地だけが残った。
夢だったのか現実だったのか。
それすらも皆無な状況ではあるが、唯一現実だと思わせるのは、月詠の今の状況だろう。
密羽に支えられながらも地面に崩れ、酷く真っ青な表情で脂汗をかいている。
「月詠、大事ないか」
「はぁっ、はぁっ・・・・禍々しい気は混じってませんけれど・・・どうやら未来の方々が既に浄化されたもののようですわ・・・げほげほっ・・」
「とりあえず横になった方がいいな。俺の部屋で休んでいけ」
「申し訳ありません、夜近様・・・」
「気遣うな。俺にはこれぐらいの事しかできん」




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