第二章・第5話『繰り返す輪廻の出口』
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第二章・第5話『繰り返す輪廻の出口』









破壊と創造。
そのどちらもが両立されてこそ、俺は存在する。
そして『俺達』は、それを選んだ。


「てめぇらぁぁ!ぶっ壊れろぉぉぉ!!!!!」


ボルテージが高まる中、彼はマイク越しに一際大きく叫んだ。
湧きあがる無数の観客、更に増す黄色い声援。
ピンクの髪を乱し、彼は次の曲目へ突入する。
次の曲は―――アルバムの中でしか聞く事の出来ない最高傑作だ。勿論、客は皆それを知っている。俺達の追っかけをやっている者なら、当然だ。
そして、その曲に込められた意味も。


「きゃーーーーッッ!!!メシア様ぁぁぁぁ〜〜〜っ!!」


たった2時間半のライブを、2万人の観客と共に過ごしている。
同じ空間の中で。
同じ空気を共有して。
同じボリュームで。



※※※



「おいおいメシア、俺らはパンクじゃねーんだからよぉ?ぶっ壊れろ、はねーだろ」

全国ツアー最終日、最後の公演を終えた彼らは、控室でここ数日の疲労を見せつけていた。
メシア率いるバンドのメンバーは、弁当を食べていたりシャワーを浴びていたり、やっている事は皆それぞれ違う。
そんなバンドメンバーの一人、ドラムを担当する青年がメシア向かって笑いながら話しかける。そして話しかけられたメシアはというと、メイクを落としている最中だ。
「そんな気分だったんだよ」
「最終公演日だから気合いが入ったってか?」
「そんなんじゃない」
「じゃぁなんだよ?」
執拗に問いかけてくる彼を鬱陶しいとばかりに視線をくべてやれば、笑われた。
「お前、今日もあの娘探してただろ」
「あの娘?」
「ほれ、FANの中でも一際メシアを愛する団長的な・・・そうそう、髪は短いんだけど先端だけちょっと染めてる感じの」

―――鳳来寺風。

特徴を言われなくても知っている。
「S席にいたさ。今日も一番声がでかかった」
「へぇ、やるじゃん、あの娘。お前に覚えてもらえるなんて光栄じゃねーか。はははっ」
そんなもの、公演前のバックステージで確認済みだ。
気がつけば、いつも探している。
ステージ上からは観客席の顔など見えないが、公演前ならライトも普通に点灯しているので顔もハッキリと見てとれる。
今日もライブ仲間と共に来ていた。
楽しそうに笑って、これから始まるライブへの高揚感を抑えきれないのかハイテンションだった。

「つーかメシアさ、あの娘と個人的な付き合いでもあんのか?」
「あるわけないだろう。俺達は演者、それ以外は皆観客でしかない」
「ま、そりゃそうか。俺達ゃ今人気沸騰中のバンドなんだからよ、色恋沙汰のスクープなんざ御免だぜ?」
「同感だな」
ひゅう、と口笛を鳴らせば、控室の扉が開く。どうやら、シャワーを浴びていたメンバーの一人が戻ってきたようだ。
「お前、浴びてくだろ?」
「ああ」
「あ?なんだよ、お前今日帰る日なのか?打ち上げは?」
「悪いな、今回はパスさせてもらう。今夜中に帰りたいんだ」
「メシアがいねーと盛り上がりに欠けんだよ、来いよな」
「だから行かないと言っているだろう」
数枚のタオルと脱色用スプレーを手にしたメシアは、うんざりした表情で控室を後にした。







「いらっしゃいませーーーー。愛くるしいぬいぐるみに囲まれてキャッハウフフな世界・ファンシーショップ『ピンクのお兄さんの宝箱』へようこそーーーー」

分厚いチラシを片手に、場違いな男が客寄せをやっていた。
時刻は夕刻手前、ここ二年坂―――特にこの店周囲は女子高生で賑わっている。

「はいはい、チラシどーぞ。こんな気色悪いチラシ燃やしてドブにでも捨てれば本望―――ぐほぉっ!?」
「こぉら日光ぉぉぉぉ!!!!」
背後からの高跳びキックに、地面に落ちる日光。
「その呉服は許せても、客寄せはちゃんとやりなさいって言ったでしょうが!!」
「あのなぁ、鈴零!!こんな気色の悪い客寄せさせられてる身にもなれ!!何が悲しゅうてお前の店の手伝いなど!!」
「あ〜ら。客寄せでも何でもするから月詠ちゃんを探してって交換条件を出してきたのはそっちだったはずよ?」
「た、確かにそうだが!だがだな!!」
月詠が禁呪に手を出した時の一件だ。
「店の評判が落ちてもいいのなら、という言葉も付け足したぞ、俺は!!」
「ここまで酷いとは思わなかったわよ!!客寄せも棒読みだし!チラシに難癖つけて手渡してるし!!アンタ、バイト経験ないでしょう!!??」
「あるわけなかろう!!俺は駿河当主だぞ!?幼少時からずっと家と妹を守ってきたんだ!!」
要は、金には困らない生活をしてきている、と言いたいのだろう。


「・・・ぷっ・・・」


そんな二人のやりとりを始終見ていたらしい男が、思わず笑いを堪えられずに吹いていた。
ちょっと長めの髪で茶髪、紫の瞳にメガネ。地味なパーカーにジーパン。一見大人しそうな印象を受ける男だ。そしてそんな視線に気づいたのか、鈴零と日光もそちらに振り向く。


「あら、珍しいお客様だこと。随分久しぶりね」
「帰ってきていたのか」
「ああ。夜行バスに乗って昨夜帰ってきた。・・・1年ぶりくらい、かな」
優しい口調で二人に近づき、彼は『ただいま』と付け足した。
「メシアは終わったのか?」
「日光」
しっ、と、彼は人差し指でその言葉を語るなと示す。
「ああ、その姿の時は本名で呼ばなきゃいけなかったわね」
「面倒臭いな、栗栖」
「悪いな。日光、鈴零」
彼本人が決めた規則とでも言う方が正しいか、メシアの名を隠す彼は神無月栗栖(かんなづき くりす)。
ライブ活動などをしている時は髪をピンクに染めて性格もハードなものに変わるが、こうやって本来の姿に戻ると誰も彼を「メシア」と呼ぶ者はいない。いや、誰も気づくはずもない。その体から発せられるオーラからして全然違うのだ。

「実家には帰ったのか?」
「少しだけね。兄に会ってきた」
「勿体ない才能よねぇ、アンタは。言霊師の資格を持ってるのに、それを活かさずバンドを作るなんて、ご両親もさぞ残念がったでしょうに」
「都市主、だったかな。夜近君からもそれは言われたな。俺の言霊の力は威力からして希少なものだから戦士になってくれ、と言われたのを今でも覚えているよ」
だが、メシア―――栗栖は、己の道を選んだ。
「言霊師、ね。一度放たれた言葉は消し去りようがない、その言葉に込められた力が魔力となって発動する危険な職種なのだろうが、俺も夜近に同意見だな」
「日光までそんな事を言わないでくれよ。知っているだろう?俺は歌う場所が欲しかっただけなんだ」
昔から歌う事が好きだった。
それは言霊云々ではなく、ただ単調に口ずさむ程度の歌でも好きだったのだ。
幼少時には、よく親の目を盗んで河原で一人歌う時間だけが好きだった。
だから、代々言霊師を継ぐ神無月家の当主は兄に譲った。その力は自分の方が上であっても。
勿論、メシアの活動をしているのだから兄は承諾済みだ。ただ、一つの条件だけ付け加えられた。
「暇が出来て帰ってくる余裕があれば、家に戻り門下生の指導をしろ、だったか?」
「ああ」
「で、それが終わってここに来たのかしらね」
指導など、一日もあれば十分なのだろう。
足早に家を離れ、懐かしい面々に会いに来た、といった所か。
「駿河の家にも行く予定だったんだけどね、まさか一緒にいるとは思わなかったよ」
「そうそう!栗栖、聞いてちょうだい!この馬鹿ったら、客寄せの一つもできないのよ!?」
「馬鹿とは何だ、馬鹿とは!これでも働いてやっている方だ!」
「あっはは、さっきからずっと見せてもらってたよ。日光は、こういった職種は合わないんだよ、鈴零」
「そんな事分かってるわよっ。でも貸しは返してもらわないと気分悪いじゃない!」
「逆にマイナスになってるような気がするけどね」
自分なら雇わない―――そんな表情だ。
「・・・で、どうなんだ?」
「うん?」
「メシア活動だ。順調か?」
「ああ、おかげさまでね。全国ツアーも無事終えられたし、二か月の休息を取ったら新曲にとりかかる予定さ」
「じゃぁ、二か月もの間、京都にいられるって事かしら?」
「どうかな。想定外のイレギュラーも考えられるし、実家にもあまり長居したくはないし」
「ならばうちに来るといい。月詠も喜ぶだろう。栗栖の柔らかい歌は好きだからな、あいつは」
「・・・・・・風は。・・・・・・風ちゃんは、元気かな」
「うん?」
「ああ、いや・・・その・・」
「風ちゃんなら、今日店に来るって言ってたわよ。もうすぐ来るんじゃないかしら。何でも、うちで買ったぬいぐるみが解れちゃって、中綿がはみ出してきたって言ってたから」
「欠陥商品を売っているのか、お前は」
「そんな筈ないでしょうっ。こう見えてもパペッター(人形師)なんですからね、大方八つ当たりの道具にでもしたんじゃないかしら?」
「大いにあり得る話だな」
「ははは、そうだね」
あの風の事だ、髪の中に隠し持ったタロットカードで切り刻まれなかっただけでも良しと思わねばなるまい。尤も、八つ当たりの原因は分からないが。
―――そんな頃だろうか。噂をすれば影、とでもいうのか、片手に紙袋を携えた風が現れたのは。
「あーもー、相変わらず遠いんだってば、ここ!午後の授業フけて正解だったって感じ」
「いらっしゃい、風ちゃん。そっちが、直して欲しいぬいぐるみかしら?」
「ぬいぐるみじゃなくて欠陥商品」
「日光?何か聞こえたわよ?」
「気にするな、独り事だ」
その独り事が問題なのだが。まぁ付き合いの長い鈴零も扱い方は十分分かっているようで、とりあえず無視する事で風の来訪を歓迎する。
「あらまぁ。見事に綿が出まくってるわね」
「もー、聞いてよ鈴零!!歌麿の馬鹿が、風呂掃除さぼって寝てやがってさ、むかついたからタロットカードで切り裂いてやろうと思ったら逃げやがんの。アタシの百発百中のタロットカードも全部よけられてさ、プライドもズタズタって感じ?あいつ、だんだんと瞬発力良くなってきてんのよね。馬鹿のくせにさ」
その表情は怒りを思い出したかのように眉をひそめ、最終的には溜息一つで終わった。そしてそんな頃に、ようやく日光と栗栖の姿を確認するのだった。
「あれ、日光?珍しい―――でもないか。そっちは・・・・・・あれ?栗栖だっけ??」
「やぁ、久しぶり。名前、覚えててくれて嬉しいよ」
「気色悪い事言わないでよね。キショイっつーの」
まさか目の前で優しい笑みをくべる男が、追っかけに命をかけているメシアだとは思わないだろう―――メシア命の風ですら分からないのだ、完全な二重人格的に使い分けている。
だが、それを知っている二人は何も言わない。寧ろ、その光景を楽しんでいる。

「で、どう?直せそう?」
「一体だけならすぐこの場で直せるけれど、6体もじゃ今日中には無理ね。また明日来てくれるかしら?」
「オッケー」
「風ちゃんも、あまり粗相な扱いしないで欲しいものだわ」
「しょーがないじゃん、歌麿のサボリ癖が酷いんだからさ」

だからといって、何もむいぐるみに八つ当たりしないでほしいものだが。

「で、はい」

鈴零との会話は終了したらしい風が、今度は栗栖向かって手を出しだす。それはまるで「なにかくれ」と言っているような感じで。
無論、栗栖もそれが何を意味するのか分からない。
「おみやげだってば、お・み・や・げ!どっか遠いトコ行ってたんでしょ?何年ぶりかに帰ってきたんなら、それぐらい用意してて当然じゃん」
「はは・・・おみやげかぁ・・・」
風の無茶苦茶な理論(?)に苦笑するしかない栗栖。
う〜〜ん、と唸りながら、しかし栗栖は手ぶらで参上している。何か特別なものを持っているワケでもない。
そして、ああそうだ、とズボンに引っ掛けているチェーンホルダーを外した。その先端には財布が繋がっているが、それを外し、風の掌の上に乗せた。

「何コレ」
「確か、風ちゃんはメシアが好きだったよね?非売品のメシアグッズの一つなんだけど」
「えっ!!??嘘嘘!?まじで!!??」

よくよく見ると、チェーンホルダーにメシア率いるバンドのエンブレムが飾ってある。
「つか、なんでアンタが持ってんのさ?非売品って事は、少なくともメシア様の関係者じゃん」
「メシアは古い頃からの友人でね。俺の分も用意してくれたんだよ」
咄嗟についた嘘だが、案外説得力はある。その証拠に、風は「へぇ〜〜アンタがねぇ〜」などと納得していた。
「てか、アンタが帰ってきたって事はメシア様もどっかにいるワケ?昨日が最終公演だったし」
「さぁ、どうだろう?恐らく打ち上げでベロンベロンに酔っぱらって自宅にでもいるんじゃないかな」
「自宅!?あ、そっか、古い友人だっけ。つか、自宅知ってなら教えろっつーの!どこなのさ!」
「いや、それはさすがにちょっと言えないなぁ・・・」
しどろもどろとした返答が気に入らないのか、風は更に詰め寄る。
「メシア様に関しては、そのほとんどがシークレット情報なの!!追っかけに命かけてるアタシでさえ知らないってのに、なんでアンタが知ってるわけ!?」
「いや、だから・・・」
「京都にいるんじゃないか?」
意外にも助け船を出したのは日光だった。
「え?なんでこの京都?」
「栗栖、さっき言ってたではないか。メシアが久々の休暇がとれたからお前に会いに来ると」
まるで口裏を合わせろと言わんばかりに、そのアイコンタクト。
「あ、ああ、そうそう。公演後の細かな雑務が終わったら京都に来るって言ってたかな」
「マジで!??じゃぁアンタの家に来るって事!?」
「いや、それはないかな。うちの家は特殊だからね、ホテルを取るとか言ってたよ」
「どこのホテル!?」
「そ、そこまでは・・・」
風の勢いに圧倒される栗栖は、もう咄嗟の嘘すらつけなくなっている。
「何さ、この役立たず!」
酷い言われようである。
「京都と一言で言っても広いからな、どこのホテルに泊まるやら」
いつの間にか一服中の日光は、そんな一言をもらす。
「メシア様、だったかしら?きっとお忍びでしょうから、変装でもしてるでしょうしね」
さらに鈴零も加わる。
「メシア様の変装か〜〜ちょと見てみたいかも!ま、アタシだったらすぐに分かるけどさ!」
当のメシアを目前にしているのだが。
「で?どこで会うのさ?」
「え?」
「アタシも行く」
「ええええ??」
「メシア様に命かけてんだから、それぐらい当然じゃん。つーか、アンタがメシア様と友人だったってのが驚きだけど」
ふふん、といった感じで風は笑う。
しかし、問題はこの風だ。この会話をどうすり抜けようと、完全についてくる気満々だ。そうなると困るのは栗栖で、同時間にメシアと栗栖を両立させられる筈がない。
メシアに戻るなら髪の色も変えなければいけないし、メイクも必要だ。
「ならば俺も付き合おう」
「え?日光?」
意外な賛同に驚くのも無理はない、何を考えて助け舟を出したのかすら分からない。
「こんな怪しげな店のアルバイトをするよりかは遥かにマシだからな」
「そう言って、貸しから逃げるつもりね?」
「何を言う。もう充分しただろう。あとは、暇つぶしに人気絶頂のアーティストに会うのも悪くないと思っただけだ」
相変わらずかったるそうな瞳で栗栖に目をやり、いいだろう?とアイコンタクトを取る。
要するに、逃げ道は作ってやれる、という意味なのか。
「まぁ、男同士の古い友人だ。面識もない連中が行っても邪魔になるだけだと思うがな」
「あ、うん、そうかもしれないね。」
ほっとしたのか、栗栖が賛同する。
「風ちゃんには悪いけど、久々に会うから二人だけで盛り上がりたいしね」
「はぁ〜〜〜??何ソレ、アタシを邪魔者扱いするってワケ?」
「まぁまぁ、風ちゃん。栗栖も1年ぶりに帰ってきたんだし、ここは譲ってあげなさいな」
まだ不満タラタラな風だが、大人二人の説得には妥協するしかない。
「じゃぁ、サインぐらいは貰ってくること!!!勿論アタシの名前入りで!!!それだったら許してあげる」
「あはは、それぐらいなら大丈夫だよ。あいつも別に嫌がらないし、FANを大事にする奴だからね」
自画自賛も辛いのか、栗栖は若干凹む。
「鈴零、アンタの店、色紙売ってたっけ?」
「ええ、あるわよ。かわいいキャラが描かれてる色紙なら。500円するけどいいかしら?」
「オッケー。じゃ、それ買うから案内して」
そう言って、二人は店の中へと入っていった。そして残るは日光と栗栖。先に口を開けたのは栗栖だった。
「ふぅ〜〜〜・・、すまないね、日光。ありがとう」
「まったく。お前は昔から決断力に欠けているというか優柔不断なんだ。見ているこっちがハラハラする」
「メシアの時はそうでもないんだけどね」
「二重人格に慣れすぎた結果だ。自業自得だな」
「ははは、そうかもしれないね」

メシアの時は、こんな笑い方はしない。
メシアの時は、こんな表情はしない。
常に自分が正しくて、思った道を突き進む。
そこに壁があったとしても、よじ登って次のステージへ行く。



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メシア話です。
設定は前々からあったので、そろそろ書いてもいいかなと。
基本、メシアの性格は唯我独尊です。
栗栖の性格は読んでの通り、優柔不断で優しすぎる男です。

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