第弐章・第5話『歌麿の章・隠された真実』
> 第弐章・第6話『歌麿の章・隠された真実』












『夜刀!!貴様何をする!!』

腰に携えた剣を鞘から抜く隣の都市主を見て、歌麿達の父親でもあり鳳来寺家当主の惟喬(これたか)は目を見開く。

『朱雀の炎を斬る。その元凶がお前の息子なのだ、同時に斬る。許せ』
『わっはははははは!!!認めたな!!??夜近よりも歌麿の方が強いのだと認めたのだな!!??』
『黙れ。そのような次元の話ではない』

実際、夜近は儀式の際暴走など起こさなかった―――これは後の話だが。

『あなた!歌麿が心配なのではないのですか!?』
『嵐!お前も見ただろう!?歌麿はこんなものではないのだ!もっと強くなれる!!もっとだ!!』
『あなた!!正気に戻ってくださいませ!!』

嵐(らん)と呼ばれた女性は誰よりも何よりも美しく、清楚で華麗なイメージを受ける、惟喬の妻である女性だ。惟喬の発狂ぶりを見て止めに入るが空しくも無駄に終わる。

『莢(さや)―――俺は咎人だ。覚えておいてくれ』
『はい。貴方がそう仰るのなら、私も望んで咎人になりましょう』
そして夜刀は目を瞑り一つ深呼吸。
次に目を開いた時、それは厳格なる鬼の瞳にも似ていた。

『我が身に眠る青龍よ、その力を刀に乗せ我が力と成せ!!!』

強烈な一撃だった。
目の前で燃え盛る業火を切り裂き、一つの道を作る。そしてそのまま少年を斬る―――つもりだった。

『ッッッ!!??』

驚くのも当然か、そこにはすでに、涼と風がいたのである。
だが、刀から発せられる力はもう放った後。手遅れだ。
―――そして、まだか弱き小さな少女が背中を向け、家族を守った。
叫び声すらあげず。
痛いとも言わず。
大量の血だけがその場に舞う。
そして一つの道は再び閉ざされ、業火は更に広がっていった。
「な・・・っ」
「あなた!?」
莢が思わず声をあげるが、その数秒後には彼女も都市主と同じ状況となる。
そう、力の暴走はまだ終わっていなかったのだ。
涼を傷つけた事を無意識に認識したのか、その炎は夜刀、莢、惟喬、嵐―――そしてその場にいた何十人もの兵士や都爺を巻き込んで焔は更に増大する。

『都市主様!!』
『俺に構うな!!命があるものは逃げろ!!』
『そのような真似、我が忠誠心に背く事となりまする!』
『馬鹿者!!分からんのか!この炎はこの場にいる全ての人間を喰らうつもりだ!!』
『うわああぁぁぁぁ!!!!』
兵士達の恐怖に満ちた声、断末魔、それらが炎の音でかき消されていく。
中には一般人もいたのだろうか、それは真夜中に咲く花火のように全てを赤く染め上げていた。
そして夜刀は刀を鞘に収め、徐々に威力を増していく炎に包まれながらも隣にいる莢を抱きしめた。


『夜近―――お前の成長した姿を見たかったが・・・それも叶わぬ夢になる・・』
『あなた・・・』
『覚悟はできているか?』
『ふふふ、私を誰だとお思いですの?最強の花嫁ですのよ?身も心も、全ては貴方のもの。死する時も一緒ですわ』
『・・はは、そうだったな』
『愛しています、夜刀様』
『俺もだ―――・・俺も、お前を愛している』

背後では拡大していく炎に包まれ、屋敷がガラガラと崩れていく音も聞こえ出す。
だが、夜刀と莢は満足そうな笑みで、優しい瞳で、その最後を遂げた。


『夜近―――強い男になってくれる事を願う・・・』









「・・そう。御父様は最後まで狂っていたのね」
「俺がいたから、憎まれた。本当の被害者は歌麿だろうな」

ランタンをぶらぶらと揺さぶりながら、夜近は色のない瞳で語る。
「これらは唯一生き残った都爺の証言だが、その都爺もこの一連の騒ぎの内容を事細かく告げた後、死んだよ」
「・・・そう」
「お前達の母親の件に関しては、遺体があがっていなかったのも不思議がっていたそうだ」
「なのに、捜索しなかった」
「当時の都市主の葬儀を最優先としたようだ。・・・二人抱きしめ合いながら命を絶ったその姿は、誰もが涙を流さずにはいられなかったらしい」
「アンタも見たのでしょう?」
「・・・・覚えてない」
「嘘おっしゃい。次期当主のアンタが、それも両親の葬儀に出ない筈がないでしょう」
「・・・思い出したくないんだ」
「・・・・・」
「思い出したら―――・・・」
「歌麿を憎んでしまうから?」
「少し語弊があるが、鳳来寺家との関係に苛立ちを覚えてしまう」
「なら聞くわ。アンタは、歌麿を憎んでいるの?」


―――夜近は、何も答えなかった。




そして暫しの沈黙の後、夜近が重い口をあける。それは独り事なのか涼に向けて言った言葉なのか―――

「皮肉なものだな・・。俺は独りになり、全てがどうでもよくなっていた。都市主という肩書を勝手に着せられ、両親の死を悲しむ暇もないまま花嫁の選出を行い―――俺は独りではなくなってしまった」
「皮肉な運命ね」
「涼は恨んでいるか?この俺を―――お前を選ばなかった事を」
「・・・知っていたのね」

花嫁を選出する際、その候補の女性は5人いた。
だが、顔を見せる事を許されないのか、女性たちは皆、白いヴェールで顔を隠していた。
そしてその中に、涼もいたのだ。

「書簡に名前が残っていた」
「便利な蔵ですこと」
「知りたくもない事まで知らなければならない。日光殿と違い、俺はいつまでたっても弱いままだ」
日光―――夜近が『理想とする大人像』として見てきた男。
だが、涼にしてみれば複雑な心境だ。
「アレは、単に自由気ままに生きてるだけの昼行燈よ。模範とするべきではないわ」
ふぅ、と溜息を一つ。
「日光は日光。アンタはアンタ。生き方も理論も違う。違って?」







「でやああぁぁぁぁっ!!」
「甘いッ!!」
「ぐああっ!?」

上空は燦々と太陽が地上を照らし、広大な風一つない庭で二人の手には一本の木刀。
昼ご飯を食べ、少しの休憩後、体を動かしたいという歌麿の提案が通ったのはいいが、風が相手になろうとは思ってもいなかった。

「ほら、さっさと立つ!!隙は命取りになるっつーの。相手がアタシだからいいものの、これで相手が魔物だったら致命傷受けるっつーの。分かってんの?」
風は木刀を肩にかけ、歌麿が立ち上がるのを待っている。
「てめーは大刀使いだろーが。ハンデよこせっつーんだ」
戦闘時の風の武器は、髪の中に隠したタロットカードと二本の大刀だ。
それに比べ、歌麿の武器は槍。
槍と大刀では扱い方も違うのは当然、勝てる筈もなかった。
荒い息を整えながらゆっくりと立ち上がり、再び木刀を両手で構える。
「へぇ。まだそんな力残ってんじゃん。ま、ボロボロだけど?」
「うるせー。来るなら来いよ」
「あ、今のちょっとむかついた」
―――瞬間、正面にいたはずの風の姿が消えた。

―――!?」

ふっ と気配を感じたのは胴体の左側。
そこはもう瞬発力というのか条件反射と云うべきか、歌麿は自分の左側に木刀をあて、風の素早い攻撃と共に来る重圧をなんとか耐えしのぐ。
風の攻撃による木刀と歌麿の間に一本の木刀。
「ぐ、ぎぎぎぎ・・・ッ・・・!!」
歌麿は渾身の力で踏ん張るが、戦闘時に二本の大刀を扱う風の力に勝てたはずもない。数秒後には投げ飛ばされ、木の幹に全体重を預けたまま背中からぶつかってしまう。
「ぐあっ!!」
「アンタね〜、たかだか一本の木刀に投げ飛ばされて恥ずかしくないワケ?つか、女に負ける気分ってどーなのさ」
「けっ、最悪に決まってるじゃねーか」
木刀を握りなおそうにも、手は痙攣を起こしている。
そして風は木の幹を背にズルズルと落ちては芝生の上に座り込んだ歌麿を見下す。

「弱虫。」
「・・・ぁ?」
「所詮は口だけの弱虫って言ってんの」
「てめ・・・調子に乗りやがって・・・!」
「そうそう、その調子。立ち上がりな」

だが、歌麿の体は―――いや、腕は痺れと痙攣で木刀一つ握れない。
「っ、くそっ・・・!!」
それを見兼ねてか、溜息をつくのは風だ。
「アンタさ、いつも夜近とどんな鍛錬してるワケ?」
「夜近と比べんじゃねーよ!あいつは優等生だろーが!」
「そういう意味じゃないっつーの。強くなる為に、頻繁に夜近のトコ行ってんじゃん。内容的に、どんな鍛錬してんのさ」

基本、魔物との戦いを前提にした鍛錬である為、武器は各々が得意とするものを使用している。
夜近は長剣の代わりに竹刀。
歌麿は槍の代わりに長い棒。
勿論、屈伸運動から始まるワケだが。
そして武器を一切扱わない体術。無論、互いに手加減などしない。頬を殴ればアザもできるし、鳩尾を殴れば死ぬような思いもする。
「別段、変わったような事はしてねーよ」
「じゃぁなんでアンタは弱いままなワケ?」
「俺が知るかよ!お前が強すぎんだろーが!」
「都市主サマの方が強いと思うけど?」
風は視線を逸らし、正午を過ぎた空を見る。夕焼けにはまだ早い、その晴天の空。
雨が降る気配もなく、温かい日差しだ。


(涼も、今更10年前の事を調べに行くなんてどうかしてるっつーの。歌麿にあの真実でも知らせるつもり?)


答えなど返ってこない。
だが、涼から神門家に行く理由を聞いた時も、風も何故か反論しなかった。
それは、姉だから―――いや、鳳来寺当主代理を務めている姉を信頼していたからだろう。
しかし、その真相を今更知って何になるというのか。
涼は、何がしたいのだろう。
疑問はあやふやなまま。
だが、風は自分の役割を知っている。

「じゃ、基礎中の基礎。アタシを乗せて腹筋運動」
「げっ、マジかよ・・!」
「大刀を装備してない分、マシと思えっつーの」


第6話『歌麿編・隠された真実』/ back / next










広告 [PR]スキンケア  転職 化粧品 無料 ライブチャット