第弐章・第5話『歌麿の章・隠された真実』
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「あ?呉羽がどうしたって?」

うんざりする表情の密羽は、溜息すら漏らしている。
―――翌日の放課後、歌麿は部活をサボろうとして(薙刀部の主将なのだが)帰ろうとしていた所を密羽に捕まり、今現在に至る。

「あの子、最近はいつもに増してしつこくてね。弓道場にまで押しかけてくるし、部員も迷惑してんの」
「連れて帰れってか?」
「そういう事。こないだ勉強教えてあげただろ、その代償って事で」
「呉羽が乱入してテスト前の勉強にすらならなかったけどな」
「う・・・」

では何を提示すればいいのか―――そう考えた頃だろうか、歌麿がこれだとばかりに口を開けた。

「そうだ、今度鍛錬に付き合ってくれよ」
「鍛錬・・・?」
「忍は体術に長けてるだろ?俺のガタイじゃ小回りきかないって風に怒られてよ。とりあえず、強くなりてぇんだ」
「まぁ・・・別にいいけど」
断る理由はない。
寧ろ、身内同士での鍛錬は勉強にもなる。


「み〜つ〜は〜〜〜!!」


「げっ!!来た来た来た来たッッ!!後は頼んだよ、歌麿っ!!!」

逃げるように背中を向け、走り去っていく密羽。それと同時交代で呉羽が目の前にいる。
「あれ?今密羽ここにいなかった?」
「見間違いだろ。ほれ、帰るぞ」
「はぁ?なんで赤い馬鹿と帰らなくちゃいけないワケ?」
呉羽は文科系の部活に所属しているが、体育会系と違い、週に3日程しか部活はない。密羽が言っていた『しつこい』というのも、部活をさぼってたのだろう。そして今日は部活のない日らしく、密羽が逃げていく理由も明白だ。
「ほれ、行くぞ」
呉羽の首筋の襟を掴みながら、強引にズルズルと引きづっていく。
「は〜な〜せ〜〜!!密羽は僕がいないとダメなんだからっ」
「アホか。密羽の方がしっかりしてらぁ」
「じゃぁ何さ!もしかして、僕の密羽の恋人気取りなワケ!?」
「恋び・・っ・・!?」
よそ見していた瞬間に鳩尾に一発喰らった気分だ。
「いいから帰るぞ!!」
4人のメンバーの中でも一番力のある歌麿だ、呉羽が適うはずもなかった。気がつけば校門、そこを抜けていつもの岐路に入れば呉羽も渋々(機嫌は悪いが)従う。

「あ〜あ、なんでこのアイドル様が赤い馬鹿と一緒にいるワケ?」
「ほざいてろ」

全く以って相性の悪い二人だ。
そして学園の校門から15〜20分程歩いた時だろうか、二人は雑談もやめて近くの空き地に目をやる。
古い土管が設置されている程度で、特に用もない寂れた場所。
だが二人は、無言で空き地に入り、各々の鞄を地面に落した。


「何体いるか分かるか?」

互いに背中を合わせながら、そんな小さな声が歌麿から届く。
「ざっと、30〜40だね。でも、増え続けてる」
周囲の木々、電柱、電線から―――隠れる事は不可能だ。
「お前、武器は持ってきてんだろーな」
「葛葉1の俊足を舐めないでくれる?一応武器は持ってきてるけどさ、体術でいけそうな感じもする」
「油断すんなよ」
会話の最中にも、どんどん妖気が増してくる。明らかに二人を狙っている。
「囲まれたか」
「どーすんのさ」
「戦うしかねーだろ」
しゅるりと背中に背負っていた鍛練用の槍を取り出し、鬱陶しい表情を見せる。
「この数を相手に?ばっかみたい。こういうの、質より量ってんだよ。消耗戦狙いに決まってんじゃん」

そして赤く滾(たぎ)る両目を光らせて一斉にかかってくる魔物達。わざわざ空き地を選んでくれたのは有り難いが、いかんせんこっちは二人だ。しかも、厳密にいえば一人は戦闘要員ではない。戦えないワケではないが、戦力としては歌麿がカバーしなければならない。


「おらぁっ!!!」


一度に4体もの魔物をなぎ倒す。
だが次から次に現れる魔物の種類は豊富で、空を飛ぶ奴もいれば剛腕なその腕で地面を割る奴もいる。はっきり言えば、戦いづらいのだ。
呉羽は葛葉1の俊足を持っているのは確かなようで、敵の隙間をすいすいと水のように動き、片手に携えたクナイで致命傷を与え続けている。
―――だが、同時に魔物もどんどん増え続ける。
このような持久戦は明らかにこっちにとっては不利だ。そう判断したのか、歌麿が背筋を伸ばして槍を担ぐように、口をあけた。

「・・・呉羽。夜近達を呼んで来い」
「はぁ!!??」
「こんな無数に増え続ける魔物の相手、二人だけじゃ無理だ。あいつらの力が要る」
「一人残って英雄気取りでもしてるつもりなワケ?」

はっと鼻で笑うが、歌麿は至って真剣な表情を崩さない。それを感じ取ったのか、呉羽はそれ以上傲慢なセリフを吐けなくなった。

「目撃者がいないのが幸いだ。葛葉でも俊足1のお前の足なら、学園まで5分程度で行けるだろ」
「3分で充分。それから夜近達を連れてくればいいわけ?」
「ああ。頼んだぜ。俺がくたばっちまう前に頼むわ」

断末魔が響く中、呉羽は後ろ髪引かれる思いで、ただ駆け抜ける。日頃から嫌っている相手でも、死なせたくはない。死なれたら、その時自分も一緒にいた事実が重い罪になってしまう事もあり得るからだ。しかしその思いは自己中なものではなく、単なる可愛い皮肉にすぎない。
夜近達に知らせて、人数を集めてあの場所に―――30分はかかるかもしれない。今は時間が一秒でも惜しい。
あの赤い馬鹿がどうなろうとどうでもいい。だが、何故か割り切れない。

「ったく、馬鹿のクセして間違った決断力じゃないトコもむかつくんだよね」

学園向かって駆ける中で愚痴を吐いた。







「でさ、アタシ昨日の事聞いてないんだけど」
「昨日の事?」
「神門家に、10年前の事調べに行ったっしょ?」

放課後の大学部のとある3階の廊下を歩きながら、風から質問の声が挙がった。その隣を歩く涼は、何事もなかったかのような表情で、普段通りの顔で風を視界に入れた。
そして、何て事のない起伏もない声が返事を届ける。
「そうね。御父様の事も、歌麿の事も記されていたわ」
「マジで!?何何、何て書いてあったの!?」
さすがは好奇心旺盛な風の事、涼に詰め寄っていく。

「ちょっと、風、歩きずらくてよ」

だが、あの事実をこんな場所で話すのもどうしたものか。夜に風だけを呼び出して、謁見の間か自室で話そうと思っていただけに、あの事実は重すぎる。
同時に、世間話に花が咲くこんな場所ではデリカシーに欠けるというものだ。
そんな頃だろうか、正面の階段から見知った顔がこちらに向かって走って来る。

「あれ?呉羽じゃん」

まだ会話はできない距離だが、必死なその表情と大学部までわざわざ来る程だ、余程の何かがあったと推測するには容易い。
「呉羽、どしたのさ」
ようやく2人の前に辿り着き、息も切れ切れに話す。
「やっと見つけた・・っ、早く高等部の校門に・・!急いでほしいんだけど・・っ!」

学区毎に分けられている校門。勿論、生徒に見合った校門しか使ってはいけない等と云う校則はない。
そして呉羽が高等部の校門に向かってくれという事は、夜近を中心に何かが起こっているのだろう。いや、何かしらの事があって、夜近が呉羽に命令したのか。しかし、高等部だけでも前線戦士は4人もいる。それを越えて自分達にまで回ってきたともなると、それは召集命令だ。
しかし、呉羽の次の言葉を聞いて二人は目の色を変えた。


「あの赤い馬鹿が―――ッ」


赤い馬鹿=歌麿の事だ。

「高等部校門まで案内しな、呉羽っ!!」
「続きなさい!」

そう言うや否や、風と涼は廊下側面の窓を開けて、一気にその体を外に預けた。
3階であるにも関わらず飛び降り、歌麿の事となると他の生徒達の目など気にもならないらしい。
「ちょ、少しは休憩させてほしいんだけどッッ!!」
続けて呉羽も窓から降りる。隠密の呉羽にとっては、ここが3階だろうが10階だろうが軽々と飛び降りれるようだ。



※※※




「どういう事でしょうか〜〜?」
「・・・さて、な」

一足先に現場にたどり着いていた夜近と月詠と密羽は、その空き地に散らかった風景を見ては怪訝な表情になった。
生々しい血痕の跡―――殆どは魔物のものだと判断できるのは体液の色が人間とは違うからだ―――、何よりも目をひいたのは、二本に折れた槍。
確認しなくとも分かる、これは歌麿が常に持ち歩いていた鍛錬用の槍だ。
そんな頃だろうか、ようやく涼と風、そして呉羽が合流した。
「ちょっと!歌麿がどうしたっての!?」
風は現場状況してみるも、そこに弟の姿がない事に不機嫌な表情を浮かべる。
涼は酷く冷静に辺りを見渡し、視界の端に映る槍に近づいていく。

「・・・歌麿の槍だわ」
「なんで!!あいつどこに行ったのさ!?」
「呉羽。説明しろ」
冷静な夜近の声が届くも、何も驚いたのはこの姉妹だけではない。呉羽もそれなりに驚いている。

「呉羽」

これは密羽だ。
袴姿である事から部活中だったのだろう、呉羽に説明を催促している。
「あの馬鹿、どこに行ったのさ・・・・あ、ごめん、説明まだだっけ」
そしてそのまま、呉羽は事細かく夜近達に説明を始めた。


「一人で多勢の魔物を相手にした、か」
「アタシらを呼びに行かせたってのは、歌麿にしてはいい判断だね」
「だが、その歌麿は行方知れず、だな」
「残ったのは槍だけってワケ?」
「槍は折れたのか、それとも自ら折ったのか―――
「ちょ、夜近!?何言ってんの!?歌麿が自分から降伏したっての!?」
風の激昂が飛ぶも、夜近は至って冷静な姿勢を崩さない。
そして未だ涼が腰を折って手にしている槍に近づいた。

「残留思念を追う」
「そうね、お願いするわ」

残留思念―――媒体となるアイテム(この場合は折れた槍だ)を用い、媒体から記憶を取り出す術の一つである。つまりは、呉羽が去った後、ここで何が起きたのかを『視る』のだ。
折れた槍に触れる夜近の掌が徐々に光を放ち始める。
そして見えてきたのは呉羽が去った後のビジョン。


『・・?どうした、かかってこいよ』

呉羽が去った後、途端に魔物連中は攻撃する姿勢をやめていた。
いや、歌麿を取り囲んではいるが、攻撃してこようとしない。それを怪訝に思うのだろう、歌麿は戦闘態勢を崩さずに怒鳴る。
『かかってきやがれ!!俺一人じゃ役不足だっつーのかよ!?』
不機嫌になる表情。
襲ってはこないが、魔物達の喉は美味そうな餌を見つけたとばかりに鳴っている。
そんな頃だろうか、一気に魔物たちが後退して跪くような姿勢で空き地の奥向かって頭を下げだしたのは。
不思議に思うのも当然だろう、何事かと歌麿もそちらに向き直る。


『下がりなさい』


美しいその声。
その一言で、魔物達は一斉に散っては姿を消した。
無論、気配だけは残しているので姿はなくとも自分を監視しているのだと知る。
そして再び正面向けば、空き地の奥に闇がある。
いや、この場合はいつの間にか空間として出来上がった闇の中から出てきたとでも云えばいいのか―――
暫く見守っていた歌麿も、その姿を確認する。

ウェールでその顔を隠し、ウェーブのかかった褐色の髪の色。
酷く露出的な格好で、魅力的なその声帯。
『美しい』に値する、その全身のオーラ。
喉元には何かの文字が描かれていたが、歌麿には読めない。


「ッッ、この女・・!!!」

思わず涼が声をあげていた。
「夜近、この女よ!!」
しかし夜近はちらりと隣の涼を確認するだけで、夜近は再び残留思念と向き合った。


『・・・なんだ、てめぇ』
『あら。女性に対する言葉ではないわね。紳士ならもっとエレガントにエスコートするものよ?』
『何が紳士だ、さっきまでの魔物連中を率いてたのはてめぇかっつってんだ』
槍を肩に担ぎ、鋭い歌麿の眼光が女を捉える。
『ふふ、知りたい?』
『何を』
『貴方の御姉様が知りたがっている事よ』
『・・?はぁ?』
『言われたでしょう?一つ上の御姉様から、貴方は本当に鳳来寺の後継者なのか、ってね?』
『・・・ああ、言われた。聞かなかったフリしたけどな』


―――ッッ!!!」

涼と風に嫌な汗が流れる。
やはり聞かれていたのだ。


『こいつ、ホントに鳳来寺の跡継ぎなワケ?アタシらの方が強いんだけど』



しかし、歌麿には跡継ぎという目標はなかった。
早い話、鳳来寺の次期当主になるつもりはないのだ。
ただ、普通に生きたいだけ。
この戦いの先に何があるのかは分からない。分からないが、今の状況を脱会できるのなら、普通に生きることを許される道があるのなら、協力しない訳にはいかないのだ。
無論、当主など姉貴達が継げばいいと思っている。
いや、自分なんかには不釣り合いだ。
自分より数倍も強い姉貴達なのだから。

『で?魔物連中の親玉が俺に何の用だよ?姉貴達が何を知りたがってるのか、俺は知らねぇ。興味もねぇよ。それを知ってて出てきたっつーんなら、役者が違うだろ』
『ふふ・・・そうでもなくてよ?貴方はもっと強くなれるの。思い出せば、覚醒すれば、貴方の御姉様方よりもずーっと強くなれる』
『・・・・・・・』
『興味はないようね?』
『俺が強くなりたいのは、夜近の為だけだ』
『ふふ、美しい親友魂だわ』
『違う。普通に生きる為の、一つの手段でしかねぇよ』
『ふふ・・・勿体無いわ。貴方程の力を欲しがる者は沢山いるのに』
『・・・何が言いたい』
『目覚めさせてあげる。貴方の知らない事を、教えてあげる』
『・・・・』


「歌麿ッッ!!行ってはだめよッッ!!」
「歌麿ッ!!」

涼と風が―――残留思念だと分かっていても―――声を張り上げる。
そして、歌麿は自分の手で槍を真っ二つに折り、適当に捨てた。

『これでいいか?』
『ええ、結構よ。さぁ、いらっしゃい・・・・』

槍を折ったのは、戦闘の意思がないことを示す為。
そして、歌麿は女と共に闇の中へと進む。
―――と、闇に入る一歩手前で女が振り返った。
まるで、それは今残留思念を見ている夜近達に告げるように。

『ふふ、残留思念で視ているのでしょう?この通り、彼は預からせてもらってよ?彼が思い出すのが先か、貴方方がワタクシ達を見つけるのが先か―――ふふふ、面白い鬼ごっこの始まりといった所かしら?』
「このクソ野郎っ、歌麿を返せッッ!!」
風の檄が飛ぶも、女は笑っている。
『意識体もここで断ち切らせてもらうわね?ふふ、せいぜい頑張って頂戴?』

ブツンッ―――・・と、目の前の景色が瞬間にして消された。
夜近はゆっくりと徐に立ち上がり、両手をズボンのポケットに差し込んだ。

「さて、・・・どうしたものかな」


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