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番外編『天空海闊』











俺がモテない理由は分かっている。
馬鹿だからだ。
顔だけはいいのに・・・と影で言われているのも知ってる。
それに比べ親友の夜近は、勉強もスポーツも万能、成績も優秀、おまけに生徒会長ときたもんだ。これでモテないはずがない。親衛隊までいるってんだから、比べるのはもうヤメにした。

「だ―――!!!もう分っかんねぇよ!!」
「だからだ、ここはyを仮定としてxを代入するんだ」

とある休みの日。
夜近の部屋で歌麿は勉強指導を受けていた。
いや、実際は宿題をさせられている。
いつもならば丸写しさせてもらえていたのに、何故か今回に限っては自分で努力しろと言われた。そして譲歩してくれた結果が、コレだ。
恐らく、中間テストが近いからだろう。
「xもyも知るか!!ンなもん、生きてく上で何の役にもたたねーだろーが!」
ごろん と畳の上に体を落とし、ぶちぶち文句を言ってみる。
机の上には教科書の山、そしてノートには歌麿にとって解読不能な記号の羅列。
「お前な、赤点取りたいのか?」
「3個まではセーフだろ」
「文系も苦手な奴が、3つで収まるとは思えんがな」
「保健体育なら得意だぜ?」
「・・・・・はぁ・・」
教える立場の夜近は、心の底からため息をついた。
歌麿にも分かり易いよう丁寧な教え方をしているつもりなのだが、どうしても彼は習得してくれない。
どうすれば勉強の内容を理解してくれるのか、困っている。
今だってyとxの公式を使った設問で、殆ど答えを言っているようなものだというのに。
「どうやったらお前は勉強意欲を出してくれるんだ」
「ンなもん、初めっからねー」
「特殊技能クラスで、ある程度は優遇されてるとはいえテストの成績は重要視されるんだぞ」
「だからお前を家庭教師にしてんじゃねーか。もっと分かり易く教えてくれよな〜」
これ以上分かり易く教えるも何も、歌麿の性格を知っているからこそ、夜近は最初からこれ以上はないぐらいに分かり易く教えてやっている。
「はぁ・・・じゃぁ数学は後回しにするとして、古典に切り替えるか」
「待て待て待て。あんな日本語じゃねー分野、どうやって理解させるつもりだ!」
「せめて古語と言え。お前も鳳来寺家の跡取りなら、過去の書簡を読んだ事はあるだろう?それが読めるなら、古典は比較的覚えやすい筈だ」
「・・・・・・」
「まさか、読んだ事はないと言うつもりじゃないだろうな?」
「・・・姉貴達に訳してもらってようやく読めた程度、だな」
知能がここまで酷いと溜息する事すら面倒だ。
「知っての通り姉貴達はスパルタだからよ、泣きながら読んだ事しか覚えてねー。内容は全く覚えてねーし」
「・・・・・歌麿。赤点を恐れないお前が凄いと今思った」









「はぁ?勉強を教えろ?」

翌日の放課後。
部活に行こうと席を離れた密羽の元に、隣のクラスの歌麿が話しかけてきた。
しかも両の掌を合わせ、本気モードらしい。
「昨日、夜近に教わったんじゃないの」
「途中から完全に飽きられちまってよ。つーか、俺が追いつけなかったってのもあんだけど、優等生に習うよりお前の方がレベル近いし」
「アタシの成績をアンタと一緒にしないでくれる」
本気でカチンときたらしい密羽は、そんな歌麿を無視して通り過ぎようとするが、その腕を掴まれてしまう。
「夜近も月詠もトップレベルだろ、もうお前しかいねーんだよっ!!」
「あのねぇ・・・・」
呆れた顔を見せつけてやっても、彼には通じなかった。
「夜近や月詠には劣るけど、これでも一応平均点以上の成績を維持してんの。どっかの馬鹿と違って」
「だから、頼むって!」
もう縋る場所は密羽しかいないのだろう、歌麿は必至に説得しようと懸命だ。そんな彼に同情でもしてしまったのか、密羽は掴まれている腕をゆっくりと下ろさせる。
「・・・ったく、分かったよ。丁度アタシも復習しようと思ってたトコだから」
瞬間、歌麿の顔が明るくなる。
背後に後光まで差しているような気もするが。
「ありがてぇ、密羽っ!だから好きだっ!」
「最後のは余計。迷惑」
望みが叶った故に発せられた言葉と分かってはいても、少しだけ、ほんの少しだけドキっとしてしまう。それを振り払うように、いつもの冷徹な態度で制して見せた。
「で?ココですんの?下校時刻まであと3時間ちょいしかないけど」
「いや、どうせなら集中してやりてーから、お前ん家でもいいか?俺ん家だと姉貴達がうるせーし」
「・・・ま、いいけど」

じゃぁ部活に顔を出している部員に今日は欠席する旨を伝えてくるから、先に校門で待ってて―――そう伝え、密羽は先に教室を出た。
そして歌麿は、再度自分のクラスに戻って教科書やらノートやらを鞄に詰め込み、教室を後にした。



「くすくす・・・ねぇ、誰が行く?」
「アタシ行きたい!あいつのアホ顔、この目で見たいし!」
「え〜、アタシが発案者なのに〜」
「いいじゃん、影で見てたらいいでしょ?」

「??」

校舎裏を抜ける道で、3人の女生徒が楽しそうな会話で盛り上がっている。
密羽は不審に思いながらも、弓道場へ足を進ませていく。








「へ?俺にか?」

約束通り校門で密羽を待っていた歌麿の元に、一人の女生徒が頬を染めながら話しかけてきた。そして手渡されたのは一通の手紙だ。
ハートの形をしたシールで封じられた手紙。
ここは憶測など不要だろう、いわゆるラブレターとかいうやつだ。
歌麿には縁のないものだったのだが、急な事に彼自身も動揺する。

「け、けど、俺馬鹿だぜ?同じ2年なら知ってんだろ?」

特殊技能クラス所属ではないが、何度か見た事のある女生徒だった。名前すら知らないが、それでも初めて手渡されたラブレターに心が躍る。
「そ、そこがいいんです!男の人には失礼な言葉かもしれませんけど、可愛いなぁって、思ってて・・・それで、いつの間にか好きになってて・・・」
もじもじとした可愛い仕草。
恥ずかしいのだろう、視線を合わせられない態度。
これでキュンとこない男はいないだろう―――夜近を除いてだが―――顔には出さないが、歌麿の心中は幸せで満たされていく。
「私、伝えるのが苦手だから手紙にして・・・・その、詳しい事は手紙に書いてますから・・・・」
「お、おう・・・」
右手で受け取った一通の手紙。
女生徒は恥ずかしそうに背中を向けて走り去っていったが、残された歌麿は「これは夢じゃないのか?」などと現実に戻れないままだ。
しかし、手には確かな証拠がある。
可愛い模様の入った手紙。
ハートのシール。
イコール、ラブレター。
とうとう、自分にも春がきたのだ。







「じゃぁそういう事だから、戸締りとかちゃんと確認して帰るんだよ」
「はい、主将!」
「テスト頑張ってください!!」

ここ綾小路学園高等部では、学年によってテストが実施される日が異なる。
その為、部活休止などという日は一年を通してある筈もなかった。無論、テスト該当者であっても部活に出る事は可能だが、殆どの場合はすぐに帰宅する生徒が多い。
だが密羽は普段から授業に集中しているので赤点を取る心配もなく、自宅に帰った後の1時間程度の復習で事は足りるのだ。
だから、今日も部活に出ようと考えていた。
しかし、歌麿の相手をしなくてはならない状況になった為、後輩たちに伝言を残して弓道場を後にする。
そして踵を返し再び同じ道を歩いてどれぐらいだろう、まだあの3人組の女生徒が楽しそうに騒いでいた。


「ね、ねっ、どうだった?」
「もー、すんごいアホ面だった!!すっごい笑えるんだけど!!」
「手紙の内容も知らないで、ホント馬鹿だよね〜!鳳来寺ってさ!!」
「中身、『馬〜〜鹿!!』しか書いてないのにねぇ!」
「あっはははは!!ねぇねぇ、あいつどんな顔すると思う?」
「あははは!!」


よくは分からないが、カチンときた。


「ちょ〜っと乙女な仕草しただけで頬染めてやんの!も〜、笑い堪えるので必死だった!」
「あはははは!!間近で見たかった〜〜!!」
「カメラ用意しときゃ良かったね〜!そしたら、明日にでもアホ面を学園中にバラ撒けたのに!」
「あっはははは!!云えてる云えてる〜〜!!」


「・・・・何が、馬鹿だって?」


「だからぁ、馬鹿鳳来寺に手紙を渡した時の反応が―――


自分たちの愉悦を楽しむことで疎かになっていたのだろう、第三者である密羽の声に気付かなかった。しかもベラベラと内容を語る。

「・・・へぇ、歌麿にそんな事してくれたの」

体中の熱気がざわつく。
髪の毛さえ怒りに触れたかのように。

「ちょ、ちょっと、良子!!」
「っ、げっ!葛葉さん・・!!」

背後の密羽の存在を確認した途端、3人の女生徒は今までと打って変わって顔面が蒼白へと変化していく。
その瞳は戦士の時にしか見せない冷酷な鋭さを持ち、それだけで3人の女生徒は怯え始めた。だが、3人の中のリーダーと思われし人物は明るそうに努めては言う。

「く、葛葉さん、ビックリさせないでよ〜。葛葉さんも鳳来寺は知ってるでしょ?鳳来寺の馬鹿でちょ〜っと遊んでただけだってば〜」
「そ、そうそう!葛葉さんも加わる?楽しいよ!」



むかつく。
むかつく。
むかつく。



「本当の馬鹿は、頭下げてまで女に勉強を願い出たりしない」

芝生の上を、密羽の足が一歩進む。
そして一人の女生徒の鳩尾に拳を一発くれてやった。
「人を見下すような遊びを楽しむお前らなんかの方が、ずっと馬鹿だ」
「よ、良子っ!ちょ、葛葉さん、何す―――
「何が楽しいって?アンタらがしてるのと同じ事をしただけ」
「ま、待ってよ葛葉さん!じょ、冗談よ冗談!何も本気で―――
「冗談?はっ、さっきまでの笑い声が冗談だっての?写真バラ撒いて楽しもうとか聞こえたけど?」
「そ、それは・・・・、そう、嘘!嘘よ、嘘!」
「嘘話なんかであんなにはしゃいでたワケ?はっ、そんな暇あるなら英単語の一つでも覚えたらどうなのさ?そんなんだから、特殊技能クラスにも入れない馬鹿なのさ、アンタ達は。ただの平凡な人種。つまらない人種。決められたレールの上を歩く事しか知らない馬鹿。でも歌麿は違う。必死にしがみついて生きようとしてる。アンタらみたいな馬鹿共があいつで遊ぶ資格はないね」
「そ、そこまで言わなくたっていいでしょ!?馬鹿鳳来寺の滑稽な姿見るのが楽しいんだから!」
密羽の挑発に、つい本音が出た。
もしここが戦場なら、密羽は躊躇わずに3人を殺した事だろう。
今だけは、夜近の『校内での武器使用禁止令』を恨んだ。
夜近からことごとく注意を受けている月詠の気持ちが分かった。
だが、怒りが収まらない。
こういう場合、どうしたらいいのだろう。

―――分からない。

「アンタ達が、歌麿の何を知ってるっていうのさ」

どうしようもない馬鹿だけど、誰よりも優しい男。
どうしようもない馬鹿だけど、誰よりも努力し続けて夜近の隣を歩く男。
どうしようもない馬鹿だけど、彼の持ち前の明るさで何度も助けられた。
報われる事のない己の願いを心に秘め、それでもいつも笑ってる。
どんなに辛くても、泣き顔なんか絶対に見せない。
逃げたりしない。
現実逃避したりしない。
いつも、目の前の現実と向き合ってる。
それが、どんなに過酷なものであっても。


「ふ、ふん!何よ、特殊技能クラスだからって調子に乗って!」
「そ、そうよ!ちょっと成績がいいだけで特殊技能クラスに所属されただけでしょ!?」
「鳳来寺の馬鹿は、人よりちょーっと腕が立つだけのクセに!成績はボロボロじゃない!」

開き直ったのか、3人は目の前の恐怖を味わいながらも言い返す。
だが、今の密羽にその言葉は届かない。

「・・・お望みなら見せてあげるさ。アタシが特殊技能に選ばれた理由を」

冷酷で冷たい視線。
感情のない瞳の色。
そしてその手は太ももに伸び、隠し持っている一本のクナイに触れた。

―――それは瞬間的な行動だった。
平凡な第三者から見れば、あっという間の出来事。
クナイを構えて3人向かって駆ければ、事はすぐに終わった。

「きゃ・・・っ!!」
「な、何すんのよ!!」
「何したのよ!!」

切り裂かれる制服、乱れた格好。
両腕で自身を包み込まなければ、裸同然の姿。
そして3人の女生徒は、そこで初めて密羽の手の中に収まる武器を見た。
「な、何よ、それ・・・っ!」
「殺されなかっただけでもありがたく思いな。―――でも次は急所を狙う」
扱い慣れた武器を右手に構え、ターゲットをその目で捕獲する。
そして素人向かって駆けようとした、その時―――

「おーい密羽!いつまで待たせんだよ〜!」

背後からの歌麿の声が、密羽を現実に戻らせる。
はっと振り向けば、歌麿は密羽のその表情に驚きを覚えた。
心中は、何故学校で戦闘モードに入っているのか―――だろう。しかも、片手には得意としているクナイ。標的をみやれば、3人の女生徒。中には、先ほど手紙を渡しに来てくれた顔も混じっている。
「ば・・っ、お前、何やってんだよ!」
「・・・・何も」
歌麿が来て狂気が冷めてきたのか、ゆっくりとクナイを下ろし、太ももに装着しているホルダーに片づけた。
「掃除、してただけ」
「掃除だぁ?意味の分かんねー事言うなっつーんだ。おい、お前ら無事か?怪我してねーか?」
恐怖から解放された一心で満たされているのか、彼女たちのそれは言葉にならず、ただ顎を上下させて うんうん と語る他なかった。
そして3人はその場にへたり込み、未だ維持している恐怖故か安堵はまだまだ遠いようだ。尤も、乱された制服が現実を語っているのだが。だが歌麿はそこまで気付かなかったらしく、『怪我がないならいい』と安心しているようだった。

「校門で待っててって言った筈だけど」
「だから、おせーんだよ。そしたらお前の気がこっちの方から発せられててよ、気になるから来てみりゃこれだもんよぉ」

葛葉の血が発する力の源。
それを感知したのだろう、歌麿は何事かと思い誘われてしまったらしい。その点は失点だと反省するも、密羽は目の前で座り込んでいる3人の女生徒を睨みつけたままだ。
許す気はないらしい。

「学校で戦闘モード入る事自体が珍しいじゃねーか。こいつら、何かしたのか?」
「・・・・知らない」
「おいおい、それじゃ答えになってねーだろ。・・・あ、そうだ」

そして何を思ったのか、歌麿は上着のポケットから先程渡されたラブレターを取り出した。それを見てギョッとするのは密羽だけではない、3人の女生徒も同様。ただ密羽と違う点はといえば、怯えている事だ。
後始末もロクにできないで怯えるぐらいなら最初からしなけりゃいいのに―――密羽はそう思うも、歌麿の表情はいつもの笑顔だ。

「え〜っと、確かアンタだよな?コレくれたの」

一人の女生徒の前で屈み、手紙を差しだす。
怯えながらも頷けた顎に感謝だ。
何を言われるのだろう、何をされるのだろう。
先程まで笑っていた自分が恥ずかしい。

「あのさ」
「っ、は、はいっ・・!」
「わりーんだけど、コレ返すわ。こういうの慣れてなくてよ、何て言っていいか分かんねーし」
「・・・へ?」
「歌麿・・・?」
―――もしかして彼は、手紙を読んでいないのか。
「この場合、俺がフった事になんのか?なんか悪ぃな、俺アンタの事よく知らねーし」
そしてハート型のシールの貼られた手紙をその子に渡し、満足気に笑って見せる。
「歌麿」
「おう、んじゃ帰るか。早く勉強しねーとな」
「そうじゃなくて―――
密羽の言葉も聞き流すかのようにさっさと去り始めていく歌麿の背中を追い、二人は学校から抜けた。









「歌麿」

どれぐらい沈黙があっただろう。
歌麿の数歩後ろ、一定の距離を守りながら歩く密羽は声をかけてみた。
「んぁ?」
担ぐ鞄と一緒に、顔だけ後ろを向く歌麿の表情はいつもと変わらない。
「なんであんな真似したのさ」
「あ?何がだ?」
密羽は見逃さなかった。
手紙に貼られていたシールが半分浮いていた事を。
つまり、歌麿は中身を読んでいるのだ。
「手紙の中身・・・・読んだんだろ」
「知らね。あー、でも勿体ない事したかなぁ。高校っつったら青春だもんなぁ、特定の彼女の一人くらい作っておいてもよかったかもしんね」
「歌麿」
「まぁ、滅多に経験できねー事だったし、俺も捨てたモンじゃねーな」
けらけらと笑う歌麿が憎い。
「歌麿ッッ!!!」
足を止め、下ろされている拳に力を込め、密羽はただ叫ぶ事しかできなかった。

―――悔しい。
―――悔しいのだ。

「密羽?・・・・お、おい、密羽、なんで泣いてんだよ・・っ!」
全身で振り返った時、密羽は顔を俯かせていた。そこから地面向かって落ちていく雫が、涙なのだと知る。
「おい、密―――
「アンタは悔しくないワケ!?あいつらに遊ばれて見下されてんだよ!?あいつら、笑ってた!!下品な笑い方で、アンタの事笑ってた!!」
「・・・・・・それぐらい、知ってら」
「じゃぁなんで!なんで何も言い返さず、普通に手紙を返したりしたのさ!!読んだって嘘までついて!!」
あの3人を仕置きした後、歌麿の待っている校門まで行って手紙を八つ裂きにしようと思ってた。
なのに彼は普通に接して文句の一つも言わなかった。
男のプライドすら切り裂かれているだろうに、歌麿は本当に何も言わなかった。

「なんで・・・っ・・・、アンタは・・・っ・・・・」

ふわっと、逞しい胸に抱かれた。
泣き顔を見せなくていい、と言われてるような気がした。
それ以上に、歌麿がこんなにも逞しい体をしていた事に驚いた。

―――何年だろう。

歌麿はいつも馬鹿で、笑っては誤魔化し、空気も読めず平気な顔で文句を言う。
そんな歌麿という連れができて何年が経つのだろう。
月日が経つにつれて自分は女なのだと自覚し、彼もまた男として成長していった。
だからだろうか、抱かれたこの体が腕が何よりも安心できた。

「悪ぃ、密羽。俺、馬鹿だからよ」

馬鹿だけど、馬鹿じゃない。
アンタは優しすぎる馬鹿なんだ。

「女一人慰める言葉すら知らねぇ。からかわれて見下されて、それでもどう対応していいか分からなかった。だから、普通でいようとした。けど、それでお前を傷つけた事だけは俺自身許せねぇ」
「だ、誰が傷ついたなんて―――」
「何年の付き合いだと思ってんだよ?おめーの事ぐらい、手に取るように分かるっつーの」
そして抱きしめられる腕に力が込められ、その中で安堵していく自分を知る。


生粋の馬鹿なのか。
馬鹿を演じているのか。
たまに分からなくなる。

猪突猛進な性格、成績は最悪、それでも夜近を守る前線戦士に選ばれている事実。
もし自分と歌麿が戦う事になったら、一体どちらが勝つのだろう。
クナイで体術を披露し弓矢で射る自分か、自由自在に槍を扱う歌麿か。


―――考えるのはやめた。


これから、歌麿に勉強を教えなければならないのだから。




前々から書こうと思っていた歌麿と密羽のサイドストーリーです。
いつも喧嘩ばかりしてる二人ですけど、ホントは仲いいんですよ。
まぁ歌麿は、機械人形化した密羽は苦手ですけどね(笑)




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