番外編
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番外編『魔鏡』前編





             





「それ」を見つけたのは偶然だった。
いや・・・・。
本当は偶然ではなかったのかもしれないが・・・。
それでも、その時は本当にただの好奇心でしかなかった。
・・・・でしかなかったはずだった。





京都特有の暑い夏の盆地。
その暑さを主張するように、ウルサく鳴き続ける蝉が鬱陶しい。
朝からそんなに鳴かなくても良いだろうと恨めしく蝉を睨んでも、蝉が鳴き止む訳でも無ければ、この暑さが消える訳でもない。
それどころか睨んでいるその姿を通りすがりの老夫婦に笑われてしまい、いらぬ恥をかく始末。
まったく。良いことなどまったく無い。
夏なんか終わってしまえ!っと心の中で叫びながら、まだ半分も来ていない学校への道を急いで歩いていた。
学校に着けばこの暑さから解放される。
冷暖房完備である学校はきっと朝であっても適温に設定されているはずだから。
たとえ、朝練のある道場であってもそれは例外ではない。それだけこの学校は学園に金をかけていた。
昔から京都で名のある家柄の子息・令嬢が多く通うこの学校では当たり前のことらしい。
おかげで今日も一日、学校にいる間だけはこの暑く苦しさだけには解放されるだろうと額に貯まった汗を拭った。
その時だった。

「にゃー・・・・」

「うわっ!」

突然猫の鳴き声が響き、するりと右足に柔らかい獣の毛がすり寄せられる感覚がする。
驚いて足下を見ると、どこから現れたのか一匹の猫がそこにいた。高そうな首輪をした毛並みの良い猫で、じっとこちらを見上げている。
驚いた顔のままその猫を見ていると、猫は何事もなかったかのように走り去っていった。

「なんだよ・・・あれ」

呆然と去っていく猫の後ろ姿を見つめる。
一体何だったのだろうか。
猫を飼った事は無いが、飼っている友人から猫は時々気まぐれな行動をとると教えてもらった事がある。
その一種だろうか。
それが可愛いのだと友人は言っていたが、それが今の行動だとしたら理解を示し難い。


「にゃーん」


再びか細い猫の声が遠くから響く。
猫はもう一度鳴くと路地に入り込み、その先にあった神社の敷地へと消えていってしまった。
どうやらそこが猫の目的地らしい。


「・・・あれ?」


首を傾げその神社を遠目から覗き見る。
毎日この道を使い登校しているが、いままで一度も神社に気付く事はなかった。
こんな所に神社などあっただろうか。
ここは草と木が生い茂ったただの空き地だと思っていたのに・・・。
どうやら違うらしい。
鬱蒼と茂る木々の間に、色のはげた赤黒い鳥居が見えた。
その向こうに小さな建物が見える。それが境内らしい。かなり古いものらしく、遠目で見てもかなり不気味な雰囲気が漂っていた。

何を奉っている神社だろう・・・。

普段ならあまり近づこうと思わない場所のだが、何故か今日は興味を引いた。
普段通い慣れた道に、突然見慣れない物が現れたからかもしれない。
多少不気味でも気になることは仕方ないことだろう。

「少し探索していこうかな・・・」

気が付くといつの間にかその神社の方に向かって歩きだしていた。
部活動の朝練には間に合わないが、気のいい友人に一言言っておけば、きっと顧問によい言い訳をしてくれる。
大事な試合を近々控えているが、一日くらい大丈夫だろう。
携帯を取り出し、友人に向かって素早くメールを打ち込む。

通学途中に古びた小さな神社を発見した事。
だからちょっと寄り道して行く事。
朝練には欠席する事。
顧問に言い訳しておいてほしい事。
そして、猫は気まぐれでやはり好きになれない事。

猫の事にはウルサい友人の事だ。きっとすぐにお怒りの返事がくるだろうな・・・と、送信された事を確認し、携帯を閉じてポケットにしまった。

大通りから右の路地にそれ、神社のある方向に向かう。
京都は道が入り組んでいるので来た道を忘れないよう、曲がり角の所にあったポストを目印にした。
猫の消えた先、今までただの空き地だと思っていたその場所に立つ。
近くでみるとますます不気味な雰囲気に、一瞬入るのを止めようかと思ったが、結局好奇心が勝ち、その敷地に足を踏み入れた。
伐採されたように入り口らしき所だけは道が開けていた。それは人一人入れたらいいくらいの隙間だったが、中は意外に生い茂っていなかった。
それでも木々によって薄暗くなったその場所は、ジメジメとしたコケが生い茂り独特なにおいが微かに臭う。長い間誰もここに足を踏み入れた事がなのだろうか。手入れされていない寂れた感じが酷く目に付いた。一応ここは京都でも中心に近い場所であるのに珍しい事だと思って辺りを見回す。小さい所だから管理人もいないらしい。
赤い鳥居をゆっくりと潜り、神社の入り口の前に立つ。
入り口は開いていて、中が見えるようになっていた。
キラリと境内の中で光るものがある。
それは神棚の上にある小さな鏡だった。
さすがに中に入るのは失礼だと、入り口の所から目を凝らしてその鏡を見る。
他には特に置かれている物は無かった。どうやらこの神社に奉られているのは、この鏡らしい。
一体それはどんな物なのかと説明を記されたモノを探してみたが、それらしき記述は見あたらなかった。
仕方ないのでその鏡をよく観察してみる事にする。
鏡の縁は、赤い・・・たぶん漆が塗られているのだろうか。それに金で細かく細工施されていた。あまり芸術品には詳しくないが、人目でそれが高価なものである事がわかった。きっとそれなり名のつく物だろう。・・・たぶん。

「なぜこんな高価な物が、こんな寂れた神社に・・・」

首を傾げしばらくその鏡を見つめる。管理する人さえいないだろうこんな寂れた神社にふさわしい物ではない。入り口も開け放たれ、これでは盗んでくれといっているも同じだった。よく今まで盗まれずここにあったものだ。
こんなに美しい鏡なのに・・・。粗末に扱われている事が残念でならない。


「そう思うのなら、一緒にいてやればいいじゃねぇか。これは元々お前のものだ」


「・・・・・え?」

いつの間に・・・。
急に聞こえた声に驚いて振り向くと、鳥居の下に一人の男が立っていた。赤いバンダナで左目を隠した男は、見えている右目だけで静かに笑っている。

「・・・・誰?」

当然わいた疑問だった。夏場だというのに全身を布で覆い尽くした暑苦しい格好で、梵字というものだったと思うが、それが服や顔にまで刻まれている。どこから見ても普通では無い出で立ちだった。警戒しても仕方ないだろう。
だがその質問に男は答えず、すっと指を指した。


「・・・やっと、気が付いてくれた」


また後から今度は女性の声が響く。
それは境内の中からだった。驚いて振り向くと、一体どこから現れたのか入り口が一つしかない境内の中の鏡の前に一人の着物を着た女性が立っていた。
長い黒髪から笑っていない目でこちらを見詰めている。


「静香様・・・・」
「ヒッ!」


血の気が引くような恐怖心が全身を覆う。
ダメだと誰かが頭の中で叫ぶ。
ここから逃げろと本能が叫んだ。

この女は危ない。

とっさに後ろに後ずさるが、もう全ては遅かった。
がしっと女の手が両肩にかかる。
まるで氷の様に冷たい手だった。


「今度こそ、今度こそ。約束をお守り下さいましね・・・」


そう女は呟くと、強い力で社の中に体を引きづり込む。
購う事も出来ずまま引きづりこまれ、女に抱き込まれた。全身に冷たい感触が走り、意識が遠のくのを感じる。

「だ、だれか・・・・・」

助けを呼ぶように手を伸ばすが、その手すら女によって絡めとられる。
意識を失う前に聞いたのは、神社の入り口の扉が閉まる音と・・・。
鳥居の下にいた男が楽しそうに笑う声だった。







「高等部特別編成特殊技能2ーCクラス、静香総一郎(しずかそういちろう)・・・か。確か高等部入学時に普通科クラスから特別編成技能クラスに編入してきた奴だったな」
「さすが会長。よくご存じですね。彼は中学部時代に薙刀部に所属し、そこで3年連続全国2位の成績を残した実力が考慮され、編入が認められました。一ヶ月後京都で行われる全国薙刀選手権でも代表選手2名の内の1人に選ばれ、優勝候補として名を連ねています」

暑苦しい日差しが差し込む生徒会室。それでも空調がよく効いているこの部屋では、さほど暑さを感じる事はなかった。夜近は机の上に手にしていた書類を置き、小さくため息を吐く。
そこに尽かさず副会長の盈祁がお茶と茶菓子を用意し、夜近の質問に答えた。ちなみに本日の茶菓子は甘さ控えめのくず餅だ。

「もう彼が行方不明になって、3日も経つのですね」

盈祁は夜近が置いた書類を眺め小さく呟く。
それは綾小路学園が保持している静香総一郎の個人情報が記載された書類だった。
彼が行方不明になったのは3日前。
学園に登校する途中で、忽然と姿を消してしまったのだという。
その日、授業が始まっても登校してこない静香に担任教師は出席の確認の電話を自宅にかけたそうだ。すると困惑気味に母親は「朝練のため、とっくの昔に自宅を出て学校に向かった」と答えたらしい。驚いた母親と教師は何度も携帯に電話をかけ安否を確認しようとしたが繋がることは無く、心配した友人たちも彼にメールを送るが返事が返ってくることは無かった。
彼は一体どこにいったのか。
家出、失踪という言葉を思い浮かべたが、彼がそういう行動をとるまでに悩み事・ストレスを感じているなどという話は誰一人聞いたことはなかった。
ならば何らかの事件に巻き込まれたのかもしれない。
母親は警察に捜索願いを届け出た。
それから3日。
未だに彼の行方はわからないままだった。

「学園では今、静香先輩の噂で持ちきりですよ。会長。「殺人事件に巻き込まれて殺された」とか「人妻と駆け落ちした」とか、中には彼が「神隠し」にあったのでは・・・と噂する者まで現れています」
「みんないい様に噂して、勝手に怯えてパニックになっていますわ〜。」

部屋の奥から疲れたようなため息が聞こえ、夜近はお茶を飲みながらそちらに目線を向ける。
そこでは会計の桔吏と書記の西園が、うんざりした様子で書類に目を通していた。静香総一郎が行方不明になってから、学園内ではトラブルが急増するようになったのだ。
勝手な憶測、そして噂がそれを煽り、生徒達の間では精神的不安定な状態が続いている。それが引き金となり、校内で小さな喧嘩などのトラブルが続いていた。
彼らが目を通しているその書類は、全てその始末書や報告書だった。通常業務に加え、そんなモノが山ほど増えたら、ため息もはきたくなるだろう。今、生徒会室での一番の問題はこれだった。

「この由緒正しき綾小路学園の生徒が、この程度の事で不安定になるなど・・・・情けないにもほどがある」

盈祁はその書類を軽蔑したまなざしで見つめている。

「まぁ、そう言ってやるな。全ての人間が心を強く持てる筈は無い。まだ小規模で納まっている方だ。だが、・・・確かに目に余るものはあるな。明日の朝、校内放送で一言俺が注意を呼びかけておこう」

夜近はそう言って、机の引き出しから書類を取り出し必要事項を書き込むと、それに判を押して盈祁に渡した。
明日の朝、校内放送で生徒会が臨時朝会を開くことを高等部校長に報告する書類だ。

「そうですね。そうして頂けますか。会長の言葉を聞けば、生徒の不安も少しは和らぐでしょう。・・・では、行って参ります」
「頼んだぞ」

盈祁は小さく頷くと一礼し、校長の元に向かうため生徒会室を退室していった。


「さて・・・。厄介な事件が起きたモノだ」


夜近は今にも痛み出しそうな頭を片手で抑え呟いた。
ただでさえ忙しい身だというのに。
捜索は全て警察に任せているとは言え、学園からも何らかな動きを見せなければ、今後の学園の威信に関わるだろう。この場合、高等部を仕切る高等部校長がその指揮をとるべきなのだが、何分そう言った厄介ごとは生徒会に押しつける傾向があった。
すでに生徒会に、静香総一郎の個人ファイルの閲覧許可が下りている事から、この件を生徒会に押しつける気満々である事が伺われる。これから静香総一郎が何らかの形で発見されるまで、押し掛けてくるであろう新聞記者、報道記者の処理の事を考えると、夜近は暗くなりそうな気分を止めることはできなかった。

「会長はんは今回の静香先輩の事、失踪では無く皆が噂している通り事件やと思ってはるんですか?」

ようやく書類の処理を終えた桔吏が首を傾げて聞いてきた。
どうやら夜近の独り言を聞いたらしい。
「さあな。お前はどう思っている?」
逆に問うと、桔吏は困ったように「よくわかりません」と答えた。
「失踪なら前触れや理由ってモノが絶対にあると思うんですけど、それが無かったと皆言ってはるし・・・。かと言って、事件って言うのも・・・・」
「静香先輩の家はごく普通の一般家庭ですからね。営利目的の誘拐といった事件に巻き込まれる可能性は低そうです。・・・・少しお待ちください」

同じく書類に目を通し終えた西園が答えた。そしてそのまま近くにおいていたノートパソコンを開く。その中には静香総一郎が行方不明になってから今日までの間に集められたデーターが記憶されている。もちろん集めたのは優秀な生徒会メンバー達だ。

「静香先輩のお父上は郵便局職員ですね。父方のご実家は京都でも有名な呉服屋の老舗ですが、そちらはご長男が継がれたそうで、次男である静香先輩のお父上は家業に関わらず、家を出たそうです」 「その時にもめ事はなかったのか?」
そう夜近が問うと、西園は首を横に振った。
「元々呉服に興味の無い方らしく、家業を継ぐ気はなかったらしいです。跡目相続で揉めたという話はまったく耳にしませんでした」
「あそこ呉服屋はうちの父が贔屓にしていますんで、よく知っていますけど。本当にええご主人でしたよ」
だから問題は無いと二人が声を揃えて言った。
「そうか・・・なら、母方はどうだ。」
「そちらも調べましたが、こちらも特にトラブルは抱えてはいなかったようです」
母親は専業主婦で、実家もごくごく普通の一般家庭だと西園は付け加えた。

「確かに。その線での事件性は薄そうだな」

夜近は納得したように頷く。

「なら。当日突発的に何かの事故に巻き込まれたと考えるべきか・・・・」
「行方不明になった当日の事ですが、確かに自宅をでる所を母親が確認しています。」
西園がパソコンを操作しながらそれに答える。
「彼は徒歩通学者で、学園から徒歩20分くらいの所に自宅があります。当日は朝練に参加する為、6時半には自宅を出ています」
静香総一郎の自宅は京都の西、洛外のアパートが多く建ち並ぶ町の一角にあると西園は付け足した。
「彼を目撃した人はいるのか?」
「自宅から徒歩十分以内範囲では、通勤中のサラリーマン数人と、散歩中の老夫婦が彼を目撃したという情報を得られています。」
「・・・それ以降は?」
「目撃情報はありません」
という事は、自宅を出て徒歩十分以内の範囲では、確実に彼は学園に登校しようとしていた。・・・だが、その後、彼は何らかの原因に巻き込まれ行方不明となってしまった事になる。
「不振な車や人物がその周辺で目撃されたという情報は?」
夜近がそう問うと、西園は今警察が調査中だと答える。
特に今の所そういった人物は発見されていないらしい。
夜近は腕を組みながら小さく唸る。
静香総一郎の周りを調べても誰も彼が失踪する原因を思いつかないと言い、営利目的の線も薄い、突発的な事故に巻き込まれたとしても目撃情報も無い。
まったく手がかりの無い事件に、学園はどう対処すべきか夜近は考えていた。
もちろん本人の安否も心配される所だが・・・。

「あの〜・・・・」

考え込む夜近に、桔吏が言い難そうに声をかける。
なんだ?と、視線だけ送ると桔吏は少し困ったような顔をして答えた。
「実は行方不明になる直前だろう時刻に、静香先輩からメールを受け取った生徒がいはるんです」
「何?」
夜近は驚いて桔吏を見た。なぜそんな大事な情報を早く言わないのだ・・・と。
「なんや、静香先輩が登校途中で神社見つけたから、寄り道して行くってメールを送ってきたそうなんですわ。」
「神社?」
「はい。なんか普段気が付かへんかったのに、急にある事がわかって、気になったんやそうです。だから朝練休むのにの・・・顧問に言い訳しいておいてほしいって、メールを送られてきたと言っていましたわ」
「メールを受け取った生徒はそのまま、顧問に静香先輩が体調不良で部活動に参加できないと嘘の報告し顧問もそれを承諾したそうです。ですから静香先輩が学園に登校していない事は、授業が始まる前のホームルームで担任が出席をとるまで、誰も気が付いていなかったそうです」
西園の説明に桔吏が付け足した。
確かに一ヶ月後の大会代表選手の1人である彼が、朝練に参加していない事を顧問が気が付かないのはおかしい。
もし何も連絡が無ければ、その時点で学園側に何らかの連絡が入った筈だ。
だがそれが無かったのは、メールによって同じ部活の生徒から顧問に欠席の連絡を入れていたのが原因だった。
それがなければ、もう少し早い時点で静香総一郎の行方不明に気づいていただろう。だったらもう少し結果は違ってきたかもしれない。

「・・・なるほどな・・・」

その報告を聞き、夜近はゆっくりと椅子の背もたれにもたれた。
今更言っても仕方ない事だ。
「・・・それにしても・・・たるんでいるな・・・」
夜近は小さくため息を吐き呟く。
「特別編成技能クラスに所属している生徒ならば、日々の鍛錬がどれほど大切かよく理解しているものと思ったが・・・」

どうやら違ったらしい。
寄り道を理由に、さぼろうとは情けない。
しかも大会を一ヶ月前に控えた状態でだ。

「一体誰だ?そのメールを受け取った生徒は?」

その生徒からも詳しく話を聞く必要があるだろう。
夜近が問うと、何故か更に困ったように桔吏と西園は顔を見合わせた。

「・・・・・・・どうした?」

その反応に夜近は首を傾げる。
なぜそんな困った顔をするのか、その理由がわからない。
そんな答えにくい質問をしただろうか。
ただメールの相手の生徒の名前を聞いただけだ。

「いえ。特別編成技能クラスの生徒なのですが・・・」

西園が小さな声で答える。
その答えに夜近眉間に皺を寄せる。
さぼる事に協力した生徒も特別編成技能クラスの生徒とは・・・。
弛みすぎだろう・・・。
夜近は再び静香総一郎の書類に目を通した。
そして、はたっとある事を思い出す。

嫌な予感がするのは気のせいか・・・。



「確か、静香総一郎は・・・薙刀部だったな。」
「・・・はい」

それに返事をしたのは、桔吏だった。
今度は同情した様に二人は目をそらしてしまった。
同情しているのは、夜近になのか、それともそのメールの生徒なのか・・・。

「その生徒は、その大会に参加するのか・・・?」
「優勝候補の一人ですので・・・参加されると思いますが・・・」
一ヶ月後の大会に参加できるのはたったの二名。
「・・・奇遇だな。俺の友人に特別編成技能クラスで、薙刀部の奴がいいるのだ、・・・そいつも大会に参加予定なんだが・・・ハハハ・・・まさかな」

ソイツじゃない。ソイツじゃないと思いたいが・・・。

「・・・・・・・・ご愁傷様です。会長はん」

予感的中。
気まずそうな二人のその表情に、夜近は怒りで眉を震わせる。
元々代表選手二名の内一名なのだから、外す見込みも無し。
どう考えてもあいつしかいないじゃないか。

何をやっているんだ。・・・歌麿・・・(怒)

俺の仕事を増やすんじゃない!

「・・・よくわかった。俺から本人に事情を聞いてこよう」
直接言ってやりたい事も多々あるしなと、手に持った書類を握りつぶす。
ぐしゃりと鳴ったその音に、桔吏と西園は引き気味に頷いた。
「よろしくお願いします。会長」
「お手柔らかに。会長はん」
「・・・・ああ」
夜近が二人の声に小さく微笑む。
その笑顔は彼のファンが見れば狂喜乱舞する程の笑顔だったが、夜近の事をよく知っている二人は暗く背筋が凍るのを感じた。

かわいそうに・・・・鳳来寺先輩

きっと明日は血の雨が降る。
心から歌麿に同情し、二人は仕事へと戻った。
これ以上関わると自分たちにも火の粉が降り懸かるかもしれない。それは避けたい。
暫くして、生徒会室に戻った盈祁が夜近の笑顔を見て、同じ事を感じたのは言うまでもない。







「さて、歌麿。涼の鞭叩き千回と風のタロットカードの的。どちらがいい?お前に選ばせてやろう」
「まて。夜近。取り合えず話をしねーかっ?!」

次の日の朝。
教室に入り席に着いた途端、夜近は笑顔で歌麿にそう言い放った。
それを慌てて歌麿は止める。

「なんだ、歌麿。俺は優しいから選ばせてやろうと思ったのに。・・・ああ!!そうか。両方がよかったのか?そうならそうと・・・」
「ちげーっつーの!!笑顔でやめろ!!マジ怖ぇー!!」

ぜぇーぜぇーと大声で叫ぶ歌麿の声が教室に響く。だが誰も止めようとしない。
誰も厄介事には首を突っ込みたくないからだ。

歌麿はなぜ夜近がこのような事を言ってくるのか心当たりがあった。
だったらもう少し素直に問いただしてくれたらいいものの、一癖も二癖もある友人は日頃の忙しさの鬱憤ごと歌麿に八つ当たりしたいらしい。
笑顔で話しかけてくる夜近ほど危険なものは無い。
歌麿はウンザリした顔で夜近を見た。

「静香の事だろ?」

夜近が静香総一郎の行方不明の件をどこまで知っているかわからないが、この件はマスコミ対策で学園も動いていると噂だった。
だったら報告書は生徒会長の夜近の手に渡っている筈だ。ならば静香と歌麿のメール事も知っているだろう。
いや、知っているからこの仕打ちなのだろうが・・・。

「試合は一ヶ月後だというのに、薙刀部はずいぶんと余裕だな。よほど自信があると見える」

夜近の嫌みはまだ続く。

「・・・っ!だってよぉ!たまにはいいじゃねーかっ!息抜きしたい時くらいあるってぇーの!」

それに勝てない事を知っていながら、それでも歌麿は反論した。誰だって練習、鍛錬ばかりだと息が詰まりそうになる時もある。もちろんそれは歌麿も同じだった。だから静香のメールに何も言わず、了承して顧問に嘘の報告をしたのだ。少しくらいならいいか・・・という甘い考えで。でも・・・。

「息抜き・・・か。それで行方不明になっていたらいい迷惑だな」
「・・・ぐっ!!」

ばっさりと切ったような夜近の言葉。
それを言われてしまえば、もう言い返す事はできない。
口籠もった歌麿をみて、満足そうに夜近は腕を組み椅子に凭れた。
「で?メールの内容だが、神社を見に行く・・・と、確かに書かれていたんだな?」
「あ?・・ああ。何なら見るか?」
そう言って歌麿は携帯を取り出し、メールの受信欄から静香のメールを開くと夜近に渡した。
受け取った夜近は、カーソルを動かしながらメールの内容を読む。
そこに書かれていたことは、昨日桔吏から報告を受けた内容とほぼ同じ事が書かれていた。

今まで空き地だと思っていた所に神社があったという事。
興味が湧いたので、探索していくという事。
だから朝練を休むので、顧問に言い訳しいておいてほしいと言う事。
唯一違うのは、猫の気まぐれを可愛いと思うことはできないという文章くらいだろうか。
なぜこんな文章が入ったのかわからないが、まあこれに特に深い意味はないだろう。

「なるほどね」
夜近は携帯を暫く眺めた後、そのまま歌麿に返した。
「・・・・夜近。静香の奴、大丈夫かな。」
携帯を受け取った歌麿は心配そうに小さく呟く。
「さあな。今の所まったく消息がつかめない。何とも言えないな」
「・・・確かにそうだけどよ・・・・」
淡泊な言い方の夜近に歌麿は不服そうに呟く。
夜近は時々、こういった場面でひどく冷静な反応を示す事がある。都市主という、全体を平等に見なくてはいけない立場で育ったせいもあるのだろうが、もう少し高校生らしい反応をしてもいいのでは・・・と歌麿は思うことがあった。
同級生が一人行方不明になっているのだ。
もうちょっと動揺くらいしてもいい筈だ。
「警察はどうなんだよ?」
歌麿は身を乗り出して夜近に問う。
京都府警も結局は裏で神門家に繋がっている。
でなければ、夜中に魔物退治であれだけ派手に大暴れする事はできないし、住民を避難させる事も不可能だろう。
下っ端の警官は知らないと思うが、幹部候補のエリート達は、京都に巣くう魔物の存在、そして都市主の存在意義をよく理解していた。そして彼らも都市主に従う機関の一つだ。
「なんか聞いてるんだろう?」
公に出来ない立場上、裏で警察と都市主は情報を共有している。そのルートを利用して、夜近はきっと今回の捜査状況を把握していると歌麿は予測していた。
どうやらその通りの様で、夜近は歌麿を一瞥すると他の生徒には聞き取れない程の小さな声で歌麿に呟いた。
「厄介な事にならなければいいいがな・・・」と。
「・・・?どういう意味だ?」

厄介な事とは何だろう。
歌麿は首を傾げて夜近を見入る。夜近は苦笑しながら小さな声で続けた。

「昨日、府警から捜査の報告が来てな。静香総一郎の通学路を徹底的に捜査したらしいんだが・・・・、神社など一つもなかったそうだ」
「うん。・・・・うん?って、一軒もねぇーって、そんな訳ねぇーだろ?だって!」
そう言って、歌麿は慌てて携帯を指さした。
確かに静香は神社を探索しに行くと言って、メールしてきたのだ。なのに神社がないというのはおかしい。
だが、事実。
捜査の結果、彼の通学路には該当する神社はなかったのだ。それらしき空き地はいくらか存在したが、それらの中に神社があったという報告はない。神社仏閣の多いこの京都では珍しい事ではあったが、逆にその一帯は開拓地とされ、現在多くの住宅が建ち並ぼうとしているところだった。

「そう。だから厄介だと言ったんだ」

まあ、あくまでメールの文面を信じて・・・の話だがと夜近は付け足した。
その言葉にむっとして歌麿は夜近に言い返す。
「そんな嘘をつく奴じゃねぇーよ。静香は!」
同じ部活でずっと競ってきた相手だ。歌麿は静香がどいうう人間かよく知っていた。確かに今回部活をさぼろうとしたが、根は真面目で良い奴だと歌麿は主張する。
「まあ、お前がそこまで言う奴だ。俺も信じよう」
もとより夜近は静香の事を疑ってはいなかった。
この三日間で静香総一郎の人間性については生徒会が調べあげている。
誰もが彼を好評価し、口悪く言う者はいなかった。
おそらくだが、歌麿に送られたメールも真実だろう。
ならば、それが何を意味するのか・・・・。

「さて、時間か。」

夜近は時計を見ると、席を立った。
「なんだ?」
急に立ち上がった夜近に、歌麿は驚いた声を出す。
そして時計を見て、「ああ」と頷いた。
そろそろ朝の放送朝礼の時間だった。
今日は臨時で生徒会が放送に立ち会うと聞いている。
その準備に向かうのだろう。

「なぁ、歌麿。神社が一軒もなかった。それが意味するものは何だと思う?」

いってらっしゃいと手を振ろうとした歌麿に、夜近は意味深に問う。
「・・・わかんねーよ。俺バカだから」

わかるわけがないと歌麿が答えると、夜近は小さく微笑む。

「あそこは京都の西。葛葉家の管理下だ。今日の放課後にでも呉羽と密羽に調べさせよう」
「っ!それって!」

歌麿は言葉を詰まらせる。
つまりはそういう事なのか。

「まあ、まだ決まった訳ではないが、こちらの方が可能性は高い」

そう言って、夜近は教室の扉の方向へと歩いていく。
その後ろ姿を歌麿は複雑な表情で見送った。

だが・・・。


「おっと、そうだ。言い忘れる所だった。歌麿。」

丁度扉の前まで来て、夜近は何かを思い出したかのように急に歌麿を振り返った。
その表情はとても穏やかで、晴れやかな表情で・・・。
なんだ?と驚く歌麿に、夜近は笑顔を崩さないまま告げた。


「誰かさんが顧問に嘘をついてくれたおかげで、今色々と揉めているんだ。」


今回の行方不明はすでに学園内の問題だけでは無く、何らかの事件に巻き込まれたのではないかと、マスコミや記者が動き出している。警察が担任からの通報と発表してしいるにも関わらず、マスメディアでは母親から朝練の為家を早く出たと聞いたと報道がされた。なら当然、なぜ顧問は気が付かなかったという話が出て、学園側はその対処に追われていた。
下手に寄り道を理由にさぼったなどと報道されたら、薙刀部や学園の品質を疑われるだろう。最悪、連盟から今試合の選手権の剥奪にも発展するかもしれない。
まあ、薙刀部は自業自得としても、学園が被害被るのは夜近としても避けたい。そのために夜近は今学園側として対処に追われていた。   

「なので今日の昼休みは生徒会室に籠もらなければならない。昼食を取る暇さえなさそうなんだ。だから申し訳ないが・・・歌麿・・・」

そう言って、笑顔のまま夜近は扉の前から体をずらす。

「・・・・・・・げっ!!!!」

その先にいたモノ。
それを見て、歌麿は顔から血の気が引くのを感じた。
そんな歌麿を見て、なおも晴れやかな笑顔で夜近は続ける。

「月詠によろしく言っておいてくれ」


「・・・・・・・・麿ちゃん・・・。夜近様にまた・・・迷惑をかけましたわね」


般若のようなオーラを身に纏い、愛用の刀に手をかける少女が一人。
今夜近からよろしくと頼まれた月詠が、扉の向こうで歌麿を威嚇して立っていた。
その口からは地を這うような声で、「今日のお弁当はとても自信がありましたのに・・・」と、お弁当の献立を呟いている。
まるで呪うかのようなその姿に歌麿は恐怖を抱き、立ち上がると一歩後ずさった。
戦闘中でもこれほどの恐怖を感じたことは今までに一度もない。

「という訳で、頼んだぞ。歌麿」

何を一体頼むのか・・・。
これを・・・か?

歌麿はイヤだと首を振るが夜近はそれを見事に無視する。
それどころか夜近は月詠の肩に手を乗せ「臨時校内放送の時間まで後10分だ」とにこやかにタイム制限まで告げて、さっさと教室を出ていってしまった。

「ちょっと!!待て!!夜近!!仕返しならもっと普通に・・・・」

出ていった夜近を追いかけ、月詠を何とかしろと叫ぶが、後の祭り。そこにはすでに夜近の姿は無い。
残されたのは、両手に愛刀を構えた一匹の猛獣。


「今日こそは覚悟して下さいましね。麿ちゃん」


それが戦闘・・・いや、夜近の仕返しの合図。
月詠は戦闘時さながらの早さで歌麿に切りかかった。
歌麿は急いでその場から飛び退き、全力で廊下を走り抜ける。


その後・・・。


校内放送が始まるまでの10分の間。
特別編成技能クラスの廊下では、全力で逃げる男子生徒と、両手に持った刀を振り回し追いかけ回る女子生徒の姿を何人もの生徒や教師が目撃したという。
だが誰一人それを止めようとはしなかった。

さわらぬ神に祟りなし

関われば自分が痛い目に合うことを誰もが理解していたからである。







「あ〜もう。だるい〜。しんどい〜。日に焼ける〜。」

そう言って、呉羽は日陰に入り込むと座り込む。
それをあきれた顔で密羽が咎めた。
「あんた、男だろう。日差しくらいでぐだぐだ言うのはやめな。」

男のくせに、日焼けを気にするとは・・・。
時々この双子の弟の将来が不安になってくる。

「だって〜密羽〜。暑いんだも〜ん。それに男だって今の時代日焼けを気にするんだから〜」

そう言って、呉羽は鞄から日焼け止めを取り出し、腕に塗り始めた。もちろん女性用の日焼け止めだ。男性用は肌が荒れるから嫌らしい。
「密羽もいる?」
「・・・・いい」
密羽はため息をついてそれを断った。



歌麿と月詠が派手なチャンバラをしでかしたその放課後。
夜近から葛葉家に行方不明になった静香総一郎の通学路を調査するよう命が下った。
静香の自宅は葛葉家が管理する京都の西、洛外にあるからだ。
調査の内容は彼が行方不明になる前に探索に行ったとされる神社の存在の有無。警察の調査ではそれに該当する神社は一軒も発見出来なかったと報告されている。
だがそれはあくまで一方向の見方でしかない。

「結界や幻術が張られているのかもしれないんだ。しっかり集中しな」

そう。
呪術的なものが作用して見えなくなっている可能性もあるのだ。その場合警察には発見は不可能だろう。同時に発見されればこの事件がこちら側の分野へと切り替わる。
夜近は都市主としてあらゆる可能性からこの事件を調査したいらしい。
調査は葛葉家当主の父へと依頼されたが、父は現在他の調査に当たっていて、この件は密羽と呉羽に一任された。
もともと父の調査も夜近が頼んだものだから、この件は始めから密羽と呉羽にさせるつもりだったのだろう。
数人の隠密を引き連れ、命が下ったその日に密羽と呉羽は調査に当たっていた。
通学路といっても自宅から学園までの距離は徒歩で20分程。その内10分くらいの距離は目撃証言があるので、対象外となる。調査範囲はそれほど広いという訳ではないが、京都特有の路地がいたる所に存在する。
彼が通ったであろう通りから見える範囲は全て調査範囲となるから、それなりに手間はかかる作業となるだろう。
手がかりは静香から送られてきた歌麿宛のメールの内容。「空き地のように見えた場所」という言葉だけだ。
屋敷から連れてきた数人の隠密は、手分けしてそれぞれの路地を調べ、それらし空き地・神社が無いか調査している。もちろん視覚的な調査から、幻術などがかけられていないか呪術的な調査までが今回の命だ。
だが今の所、空き地は数件発見されたもののそれらしきものの報告は受けていない。

「だってさ〜密羽。屋敷にあった神社仏閣の配置図にも、な〜んにも載ってなかったんでしょ?」

呉羽はつまらなさそうに日陰に座ったまま呟く。
確かに、葛葉家が管理する書庫に保存してあるこの地域の見取り図に、神社が配置された記述は無かった。
念の為確認をしいてから調査に入ったのだ。

「無いものは無いんだよ〜。静香だっけぇ?そいつの見間違いだよ。だっから帰ろう〜よ〜。」

確かに、見間違いかもしれないと密羽も思ったのだ。
だが、密羽は夜近の勘を疑っていなかった。
きっと何かある。
そう思って、今回の調査を葛葉家に依頼したのだろう。
ならばその期待に応えたい。

「もう少し調べてからだよ。さっ!しゃきっとしな」

密羽はそう言うと、呉羽の背中を叩く。
調査続行と、歩き出す密羽に呉羽はため息をついた。
「もうっ。仕方ないな。密羽だから言うこときくんだからねっ!」
渋々ながらも、呉羽は密羽の言うことだけは聞くのだ。
面倒臭そうではあるが、呉羽は再び調査の為立ち上がった。



「・・・っ!」
「・・・・!!」



その時だった。
二人は同時に立ち止まる。
そしてゆっくりと後ろを振り返った。
二人の視線の先に見えたのは、入り口に赤いポストがある一本の細い路地。
その先には木々が生い茂った空き地のようなものが見えた。
二人はお互いに視線を交わす。
その表情は先ほどとは違い、戦士としての顔が浮かんでいた。

「今、一瞬。妙な気の流れを感じた」
密羽が独り言のように呟く。
それに呉羽が頷いた。
「奇遇だね。僕もだよ。密羽」
「・・・・行くよ」
二人はゆっくりとその路地に向かう。
向かう先は、路地の先にある空き地らしき場所。
ここは先ほど隠密の一人から、何も無かったと報告を受けていた場所だった。


「中の様子はよく見えないね」

そこにたどり着くと、二人はあたりを見回した。
外側は木々が生い茂り、中の様子はよく見えない。

「あそこから入れるよ。密羽」

呉羽が一部木が伐採されたようなところを指さす。
二人はそこから中に入った。
中は苔が密生していて、そのせいか木が生えておらず空洞のようになっていた。

「神社はなさそうだね」

呉羽はそう呟きながら、ぐるりと見渡す。
十分に四方を見渡せるその広さに神社らしき姿はまったく無い。
そこはただの空き地だった。
それもこの荒れ方だとずいぶんと長い間使用されていないものだろう。

「・・・そうみたいだね」

密羽はそっとしゃがみ込み、ゆっくりと苔の表面を見つめている。
「なにしてんのさっ。密羽。」
それを不思議そうに呉羽が見ていると、密羽は呉羽を呼び、同じように座って苔の表面を見入るように言った。
「苔くさ〜いっ・・・・って、あれ?」
苔の独特な臭いに鼻を押さえながら呉羽はしゃがみこみ苔の表面を見いているとある事に気がつく。
「これって、建物の跡?」
苔の一部が盛り上がり、そこに木の朽ち果てた柱の跡が残っていた。
密羽は隣で大きく頷く。

「たぶんかなり古いもだよ。しかもこの建築方法は・・・」

神社を建てる時の建築方向によく似ていた。
よくよく見ると、鳥居があるであろう場所にも、二本柱の朽ち果てた跡が残っている。

「じゃあ、ここに昔神社があった?」

その可能性は高い。
驚いた声をあげる呉羽に、密羽はゆっくりと立ち上がる。
呉羽が驚くのも当たり前だろう。
葛葉家の管轄内で、葛葉の人間が知らない神社があったかもしれないのだから。たとえ朽ちた神社であっても、それが資料として残されていないのはおかしい。
これは一体どういう事なのだろうか。


「夜近に報告しておいた方がいいね」


夜近から下った命の神社は見つからなかった。
だが、それに疑わしい場所は見つかった。
しかしこれ以上の事は自分たちにわからないだろう。
ならば一度この事を夜近に報告しいて調べなおした方がいい。
密羽は小さくため息を吐いた。


厄介な事が起きなければいいけれど・・・・・と。

そんな姿を一匹の猫が、じっと見つめている事に気がつかずに・・・・。




「・・・あらあら。意外に鼻が利くじゃない?葛葉も。隠密たちは気が付かなかったみたいだけど」
「一応、あいつらも四大家の人間だからな。」

暗闇の中。
四つの人影が一つの水晶を囲んで、その光景を見つめていた。
「でも、わたくしたち四人がかりで張った結界でしてよ?少し悔しいのではなくて?鎌衣?」
「悔しい?俺がか?神楽」
「ええ」
クスクスと笑いを含んだ女の声が響く。
鎌衣をからかいたいのだろう。
神楽と呼ばれた女は楽しそうに口元を歪めている。
「はっ!!それくらいじゃなきゃ面白くねぇだろ。。元々奴らをおびき寄せるのが目的だ」
それに鎌衣と呼ばれた男は、鼻を慣らし水晶から背を向けた。そして高圧的な目で隣にたつ男を見る。
「おい。卑埜。・・・・時はまだだ」
そこには食い入るように水晶を見つめる銀髪の青年がいた。卑埜と呼ばれた彼が見つめるのは、水晶に写る金髪の少女。
「・・・わかっている」
そう呟きながらも、卑埜の目に浮かぶのは静かな殺意の色。
これ以上卑埜にこの女の姿を晒すのは危険だろう。
葛葉の娘がどうなろうと知った事ではないが、今回の作戦を崩されるのは鎌衣としても避けたい。

「・・もういいぞ。華槻」

鎌衣のその言葉を合図に、華槻は呪文を呟き水晶を手元から消した。
彼女は動物を操る能力を持つ。
近くにいた猫の目を通じ、葛葉の動きを水晶に写して探っていたのだ。
「もういいの?壬華ちゃん」
幼い顔に笑顔を乗せて、華槻は鎌衣を見上げた。
「ねぇ、今度は何して夜近様と遊ぶの?私、あの花嫁と遊びたい」
だがその笑顔通りの人間では無いことを鎌衣はよく知っている。
案の上綺麗に光る金色の目は、残酷な色を浮かべ揺れていた。
それに鎌衣はにやりと笑う。

「まあ、見てな。面白いショーの幕開けだ」

鎌衣が振り返った先にあるのは、朽ち果てた小さな神社。
その中では長い髪の少女と意識を失ったまま倒れる静香総一郎の姿があった。





番外編『魔鏡』前編 / NEXT

著・柚小による番外編です。
なづきは一切関わってません。




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