クリスマス番外編
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クリスマス番外編




       壱 『前章』







12月ともなれば、世間はクリスマス一色に染まっていた。
気が早いと言いたくなる程に11月からその存在をアピールする店舗すらあり、そんな光景もここ数年では珍しくもなくなってきている。
コンビニの店員は既にサンタの衣装を着込んで接客しているし、街の殆どがクリスマスのメロディーを流してすらいるだろう。


「クリスマスか、別に俺はクリスチャンじゃないんだがな」


と呟いてみても、クリスマスとは既に世界に定着した一大イベントとなっているのが事実だろう。
キリストの生誕を祝うよりも恋人との一大行事だと、隣の彼女は自信気に微笑んだ。

「今年のクリスマスはどうされますの?」
「どうするも何も、仕事が入れば遊ぶ余裕などないだろうな」

一年を通して迂闊に予定の入れられない家業だ、当然だろう。
戦士に休息など不必要だと云わんばかりの毎日だ、せめてクリスマスぐらいは魔物達も休んで欲しいとは思うのだが。
ともあれ、そんな会話を交わしながら二人は京都の中心区にある繁華街を歩いている。
場所は四条河原町、若者向けの店舗がずらりと並ぶ一角である。
無論学校帰りなのだが、珍しくデートにも似て肩を並べていた。その風貌が『恋人』に見られなくとも、であるが。
街の風景と人波に埋もれ、一介の高校生の姿を演じながらも二人は歩き続ける。

「夜近様は、サンタさんを信じておられました?」
「サンタか?いや、演じてくれる奴がいる以前に、欲しい物がなかったからな。サンタの正体を知って、『あぁ、これが世に名高いサンタなのか』と思った程度だ。順序が逆だったな、あれは」

周囲の大人がそういう認識をさせたのかは知らないが、夢のない子供だった事だろう。
クリスマスを楽しむ同年代に混じって、冷ややかな視線をくべていたのだろう事は容易に想像できる。
「月詠はどうなんだ?サンタは日光殿だったんだろう?」
「ええ、最悪なサンタですわ。人が寝てるのをいい事に、催眠術をかけられたりもしたものですわ」
耳元で洗脳でもされたのだろうか、月詠は顔中に暗雲曇らせている。
「あの衣装で頬ずりと極度の抱擁、おまけに素材の悪い髭でお肌がかぶれるし、声で兄様だとばればれでしたし、夢のないクリスマスを味わったものでしたわ」
たった一夜限りのクリスマスだったらしい。
月詠も夢のないクリスマスを味わっているようだ。いや、被害者ではあるが。
それ以来、彼女はクリスマス限定で『サンタ入室禁止』という張り紙を部屋の扉に貼るようになった。

「日光殿も喜ばせたかったんだろうさ。まぁ、おかしな方向性に傾いているが」
「ワタクシを喜ばせたいのでしたら、近づかないで頂きたいものですわ」
「・・・・今のは絶対本人に言うなよ・・。再起不能に陥る・・」

最強の大和撫子は、その口調すらも一刀両断の技術を持っていた。
容赦のない言葉が本人に届かないだけ報われていると、フォローしておいた方がいいのかもしれない。

「月詠は、何か欲しいものがあるか?」

特に意味を込めて訊ねたわけではない。
高校生になってまでクリスマスプレゼントを期待する歳ではないだろう。
だが神門家としてクリスマスには、本人が希望するものがあれば用意している。まぁ、一年に一度の御褒美というやつだ。
不可能でない範囲で叶えるその制度、歌麿や密羽達『都の戦士』を始めとして結構好評だ。

「夜近様」
「ん、なんだ?」
「ですから、夜近様」
「・・・・・待て、月詠

思わず逃げようとするが、それよりも早く月詠の華奢な両腕が夜近に絡まっていた。
「今年こそは、夜近様が欲しいのですわ!」
「ば、馬鹿かっ!何を堂々と・・っ!」
逃がしません事よ―――とばかりに妖しく光る月詠の目が怖い。
悪寒が走り、最悪な状況を回避とばかりに夜近は逃げようとするのだが、その力点を逆方向に向かわせる彼女の両腕は意外にもしぶとかった。女の執念というやつかもしれない。
ぬ、ぉおおお・・〜〜〜っ
「そんなに照れなくても宜しいじゃありませんか〜〜・・・ふふふ」
「照れてないっ、喜んでないっ、語尾が怖いッ」
「まぁ、怖いだなんて酷いですわ〜。ただ、自分の欲望に素直なだけですわ〜〜」
「欲望と語る時点で間違ってる事に気づけっ!」
「大人しくしろと仰るから、最近は媚薬も痺れ薬も使ってませんのに〜」
「それが普通だッ!どこの世界に、薬で我が物にしようとする女がいるんだっ!」
「ここに」
「前言撤回させろっ。日光殿だけじゃなく、お前も方向性がおかしいっ!」
「まぁ、今更何を。諦めてくださいまし」

想われる分には一向に構わないとは思うが、この行動力は何なのだろうか。
それは夜近が奥手すぎるのが大きな理由だと、本人が気づかないのは果たして幸か不幸か。
最も、本人は危機感に一杯一杯なので彼女の真意に気づくだけの余裕がないのだろう。







―――そんないつもの日常から数日後。
都の戦士達一同は神門家に集まっていた。
広く整った謁見の間に通され、かしこまるでもなく座談会のように皆寛いでいる。
最も、今日集ったのが仕事の件とは離れた内容だというのがその理由だ。

「クリスマスプレゼントねぇ、アタシは特にないけどさ」

密羽である。
今日は日曜日という事もあってか皆がラフな服装で身を包んでいた。
「お前、こないだ欲しいものがあるとか言ってなかったか?」
「必殺仕事人のドラマシリーズDVD?高校生に買える値段じゃないし、別にいいよ」
以外にも時代劇ファンの密羽だ。
水戸黄門や遠山の金さんなど、彼女にとって唯一の娯楽でもある。
「別に構わんさ。俺の懐が痛むワケじゃないしな」

要するに。
クリスマスプレゼント・・つまりは、一年に一度の御褒美制度の希望内容を本人から申請させているのだ。
その為に珍しくその場に全員が集っている。
そう、謁見の間沿いの縁側で煙草を吹かしてはいるが、神門家を毛嫌いしているあの日光もである。

「はいはいっ!じゃぁ僕、僕っ!」
「呉羽は元気がいいな」
「僕、前々から欲しかったものがあるんだ!」
「ははは、世界は無理だぞ?」
「・・・・・・ちっ

にっこりと回答権を奪えば、どうやら図星だったらしい。
未然に防げた事の喜びよりも、それを本気で願う少年の心が心配になる夜近だ。

「じゃぁ、等身大ガンダム。あれを操縦すれば世界も簡単に降伏するよね」
「呉羽、ガンダムは正義側だ」

そういう問題ではない。
最も、この現代ではあのアニメの兵器を実現化は無理だ。形は作れても二足歩行すらも困難だろう。
「ちぇっ。じゃぁ僕を御主人様と崇めて仕えるハーレム作ってよ」
「・・・・呉羽、年齢に見合う願いをしてくれ・・・」
心底げっそりと唸る都市主であった。
「おい夜近、次俺いいか?」
ご丁寧にも挙手をしてくれる赤髪の親友は、玉座に構える都市主の顔色に同情しつつも口をあけていた。
「あぁ、歌麿。現実的な願いにしてくれよ」
「・・平和な日常が欲しい」
まるで背後を気にしながら小声にでもなっているのだろうか、歌麿はどこか汗をかいている。

「姉貴達にいびられる事もこき使われる事もないっ、永遠の平和を俺にッッ!!」
「現実的すぎる願いだが、それは俺の出る幕じゃないだろう・・。家庭内の悩みは自分で解決してくれ」
「見捨てるのか、夜近っ!」
「いや、見捨てる云々以前に―――もう、遅いと思うが」
「へ?」
「あぁら、歌麿ぉ。アタシ達の何が気に入らないってぇ?」
「これ以上可愛がって欲しいのかしらね?・・・ふふふ、今日の鞭は一味違ってよ?」

背後から鬼気迫る二つの鬼・・・もとい、風と涼の両人である。
同じ間にいるのだからその会話は丸聞こえで当然だが。
風は彼の頭を畳に落とし、涼はやはり鞭を片手に耳元で最終勧告だ。
陰湿ないぢめだと思うには充分な光景である。

「・・・で、風はヴィジュアルバンドのボーカルとデート、だったか?」
ゴミくずのような残骸になった歌麿は置いておくとして。
「なにっ、叶えてくれんの!?」
「その所属事務所と交渉中だ。結果待ちだな」
「いや〜〜んっ、夜近様ぁ!!」
普段からツンケンした態度でしか接してくれてないのだが、この変わりようも見事なものだ。しまいにはその辺で踊り始めている。
「で、涼は何かあるか?」
「アタシ?・・・そうねぇ」
話をふられ、少し意外そうな顔をしてみせる。
そして背後の縁側で背中を向けたままの男を一寸だけ視界に入れ、再び夜近向かった。

「アタシを愛してくれる男、かしらね」
「彼氏が欲しいのか?」
「そうね、この体の欲求を満たしてくれる理想の男が欲しくてよ」

さすがは女王様、見事なまでに大人の要求だ。
だが、それと同時に咽る声も聞こえてくる。―――日光である。

「健全な青少年には刺激の強すぎるお願い事は、サンタもシカトするんじゃないかねぇ」
「アンタにお願いしてなくてよ。アタシは都市主サマにお願いしてるの」
「はいはい、お好きにどうぞ〜」

投げやりな返事だが、溜息も同時に漏れたようだ。
女王様の癪に障ったようではあるが、彼女もそれ以上追及しないらしい。
「涼なら、彼氏を作りたいならいつでも作れるだろう?学部内でアプローチを結構受けてると聞いてるが」
「価値のない男に興味はなくてよ」
「価値のない、ねぇ。なら、同じ家業の男でないと無理か」
ただでさえ隠された存在の仕事だ、それを理解してくれるともなれば身内でしかないだろう。
「脳髄まで快楽に浸らせてくれるような男がいいわ。とろける様に甘いボイスも必要ね。熱く逞しいテクニックも追加で」
「・・・涼、白昼堂々と言ってくれるのは構わんが、俺達が未成年だという事を少しは察してくれないか・・・」
その場の半数は未成年の高校生だ、彼女の発言は刺激が強すぎるらしい。
「日光殿なんかいいんじゃないのか?仲がいいんだろう?」
やはりその手の感情に奥手なのか、夜近はその辺りの心情を理解していない。
例えば仲がいい友人関係にある異性を、そう簡単に『恋仲関係』になどできるはずもないだろう。付き合いが長ければ長いほど、友人の絆が目立って恋に発展する事など稀だ。
無論、本当の二人の関係を知らなくとも。

「冗談。無駄に歳食ってるだけのオヤジは勘弁だわ」
「こっちだって女王様は願い下げだよ」

その呟きは、果たして独り言か。
はっきりと女王様の耳に届いては、その鞭が床を叩いた。

日光・・?大きな独り言ですこと・・

そしてもう一度鞭が響けば、彼の咥えている煙草の先端が旋律を奏でる鞭によって裂かれた。
これでぞっとしない男はいないだろう、日光の顔は真っ青に変化していく。

「ま、待ちたまえ、涼・・っ!言葉のあや―――
「ほほほほほ!!この場で調教してあげてよ!!」
「た、タンマ・・っっ!」

抵抗もむなしく、ボロ雑巾2号の完成である。
それを見て楽しいと思うのが正解か、情けないと傍観するのが人情か。
どちらにせよ、被害が拡大しないだけマシだろう。

「・・さて、次は日光殿ですが・・・・聞いてます?」

涼の鞭によって拘束されている彼だが、その夜近に対する眼光だけは健在だ。
「貴様と月詠の婚約解消以外にないっ!月詠を返せっ!」
「いや、だから何度も申し上げてるじゃないですか。それは無理だと」
「無理なものかっ!貴様さえいなければ、月詠は!」
「月詠は?」
「・・・うぅ、将来はお兄ちゃんと結婚するのだと言ってくれた月詠はどこへ〜〜」
「気持ち悪い事思い出さないでくださいまし。きもいですわよ、兄様」

容赦のない妹である。

「大好きだと言ってくれた月詠はどこへ〜〜・・・将来は二人で小さな犬を飼い、可愛がって余生を暮らすのだと・・そして老後は年金で各地を旅行〜〜・・・・」
「・・日光、それは普通に気持ち悪くてよ・・・・」
病んだ大人、もとい、悪い大人の見本像だ。
さすがの涼もかなり引いている。
「まぁともかく、これで全員聞いたな」
「夜近様〜、ワタクシがまだですわ〜〜」
嫌な予感ほど的中するものである。
「・・・いや、お前の願いは大体分かるから口にしなくて」
「夜近様が欲しいのですわ〜〜♥」
「口にするなと!」
「貴様、夜近ッッ!!月詠に手を出したらどうなるか分かってるだろうな!!」
「だからやっぱりこうなるじゃないかっ!!」

いつの間にか鞭から抜け、その真剣を抜いている日光だ。
こうなる事が明白の展開だったからこそ、わざと月詠に聞かなかったのだろうが無駄に終わったようである。

「そこに直れッ!今日こそは始末してやる!」
「俺は何も言っとらんでしょーが!」
「夜近様〜っ、逃がしません事よ〜〜!」

この妹にしてこの兄、いや、反対だろうか。
どちらにせよ、夜近にとっては苦労の連続でしかなかった。
この歳で胃薬常備だけは勘弁だと心の奥底では願うが、彼の希望するクリスマスプレゼントはなんとも中年のサラリーマンのようだ。









NEXT→『夜近&月詠編』






■ 駄 文 ■

とりあえず、前章。
病んだ大人(日光)が書けたので目的達成。(おい)
ギャグに走った話ですが、こういうのは楽しいですねぇ〜。

そして、ガン○ムの名称を使っていいのか最後まで悩みましたが(苦笑)
ヴィジュアルバンドのボーカル→メシア様。

次ページ、夜近&月詠になります。

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