クリスマス番外編
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クリスマス番外編




       弐  : 夜近&月詠編







12月25日、クリスマス。
もとは太陽の新生を祝う『冬至の祭』がキリスト教化されたもので、ギリシア正教会では1月6日である。現在ではキリストの誕生祭とされているが、まぁ実際にそれを祝っているのは聖職者ぐらいのものだろう。
その一日前、前夜祭とでも呼ぼうか24日の夜。
やはりというべきか、夜近達は仕事に出ては魔物殲滅退治に駆り出されていた。

「これで全部か?」
「ええ、気配もこれが最後の一匹でしたわ」
「ったく、世間ではケーキと七面鳥食ってるってのに、不公平だ・・」
「そうぼやくな、歌麿。去年と同じ過ごし方だ、少しは慣れろ」

困難もなく退魔も終わったようで、口では慣れろと言いつつも夜近は溜息をついている。
やはり夜近も歳相応の青少年だ、クリスマスぐらいはと思っていたのだろう。
「とりあえず、今日は報告はなくていい」
通常ならば、仕事が終わればその足で全員が神門家に戻って退魔作業の報告に入る。その内容は魔物の種類や形容、行動パターンや周囲への被害状況など様々だったが、どちらにせよ欠かす事のできない報告だ。
無論、それを不思議に思ったのは歌麿だけではない。
仕事中は人格の変わる密羽すら、思わず疑問を口にしていた。
「・・・・今後に支障が出る」
「構わんさ。俺がお前らにしてやれる善処はこれぐらいしかないからな。帰ってゆっくり休んでくれ」
「クリスマスだからかよ?お前も結構甘い所あんだな」
「ほぅ。そこまで言ってくれるならば、幸せ一杯クリスマスムードの街並みを素通りして義務作業を執行してくれても一向に構わんが。いやぁ、歌麿は仕事熱心だな」
「ば、馬鹿言えっ!!有難く頂戴するに決まってんだろ!!」

そんな頃には兵士や都爺達もその場に集い、最終浄化作業も終わったようだ。
殲滅作業も簡単なものだったので、報告も大して急がなくてもいい。
「都爺達も悪いな。今夜は家族と過ごしていた所を駆り出してしまった、報告は急がなくてもいい」
「恐縮でございます、都市主様」
中には孫との幸せな時間を過ごしていた者もいただろうに、夜近はつくづく申し訳ないと思う。
家族のいない夜近だからこそ、大切にして欲しいと願うのだろう。
自分にはないからこそ、羨ましいと思うと同時に自分にはない幸福を削りたくないと思うのだ。
「密羽、車を用意しているが要るか?」
「・・・いや、歩いて帰るよ」
場所にして京都の西域、つまりは葛葉の管轄内なのである。
歩いて帰るには遠いが、車で何時間もかかる距離でもない。
その中途半端な距離を思ってか夜近が声をかけるが、隠密姿の密羽はその誘いをやんわりと断っていた。
「そうか、人に見られないよう気をつけてくれればそれでいい」
「・・分かってる。・・・・いい夜を」
そのまま背中向けて歩き出す少女の背中を見送り、何故か歌麿もそれに同行して行ってしまった。

「いい夜を、か。それはこっちのセリフだな」

車に乗り込めば月詠もそれに続き、二人は神門家に向かう。

「日光殿に責められるのは俺なんだが」
「大丈夫ですわ、日光兄様の許可は貰っておりますもの〜」
「へぇ、珍しいな」
今夜は外泊許可でも貰ったのだろう、月詠は嬉しそうである。
しかしあの日光の事、外泊だけで済まされない事実が起これば黙ってはいないだろう。
その辺りに関して恐怖は残るものの、夜近にしてみれば変わらない日常だ。
「あれでも、夜近様を心配されてますもの」
「?心配されるような事をした覚えはないが」
そもそも会う度に敵視されるあの態度だ、そのような言葉すら無縁だと思っていた。
「夜近様には家族がいないから、クリスマスは寂しいんだと。だから、その日ぐらいは妥協してやると」
「・・・泣かせるセリフだな」
最も、本人から聞ける事のない言葉である事は間違いない。
「いい加減慣れたさ、一人も」


周囲がそれぞれの家族と相手と過ごすこの日、子供の頃は寂しい思いをしたのは事実。
屋敷に仕える者達がそれなりに相手はしてくれたものの、やはり大人びすぎていたのだろう、素直に喜ぶ事ができなかった。
自分の事はいいから、共に過ごしたい者の元へ行ってくれと。
―――毎年、彼は一人で過ごしてきた。
それを不憫に思ったのか、いつの頃からか日光が駿河に招いてくれたりもしたのだが、あまり記憶に残っていない。
いつの間にかあの毛嫌いしてくれる態度に記憶は塗り替えられている。

「子供の頃、クリスマスに駿河に行っていた記憶がうっすら残ってるな。覚えているか?」
「ええ、勿論ですわ〜。兄様が庭に小さなもみの木を発注して、飾りつけもしましたもの。そしたら夜近様、一番上の星が欲しいと仰いましたのよ」
「あぁ、それは覚えているな。確か、日光殿が苦笑していた」
子供ながらにして頂点に立つ者の自覚を見た瞬間だったのだろう、あの時の彼の顔は苦笑と驚愕が混じった表情で頭を撫でてくれた。
「俺達が成長するにつれて、日光殿は焦っているのかもしれないな。成長を見守ってきた彼だからこそ」
「??」
「彼は、大人だよ。尊敬しているよ」


大人だらけの世界を見てきた夜近にしてみれば、理想の男像の見本にしたのが彼なのかもしれない。生き方こそ違えど、子供心に彼の存在は大きかった。
成長と共に年月が経つ度に意味や理解を繰り返し、彼の意味も知れるようになってきた今だからこそ、それは『尊敬』なのだと認識している。








神門家に着いたのは、それから2時間後だった。
時刻にしてまだ22時手前だ、まだ寝るのも勿体無い。
折角泊まりにきているのだからそれなりに時間を過ごしたいという気持ちも手伝ってか、二人は本殿内の縁側沿いにある居間にいる。
無論、報告などという作業は後回しである。


「すまんな、当日はケーキがなかなか手に入らなかった」

そう言いながら出されたのは小さく可愛くデコレーションされたチョコレートケーキだ。
車内で街を通った折買いに行ったのだが時間的にも遅かったのだろう、殆どが完売状態だったのだ。何店か回ってようやく見つけたのは、売れ残り商品でしかない。
最も、今年も一人で過ごすと思っていたので用意もしていなかったのだろう。
「いいえ、二人で食べるには充分ですわ♥」
「ケーキは苦手だ、食べていいぞ」
適当に切り、お皿に盛り付け、その隣にはシャンパンが用意されている。
都を司る神門家にしては質素すぎる貧しい風景だ。
それでも目の前の少女は美味しそうに食べているし、そんな顔を眺めるのは悪くない。
「とりあえず、俺が用意したから薬系統は阻止できたか」
「もう、夜近様〜。クリスマスまでそんな卑劣な真似はしませんわ〜」
「・・・・卑劣だと自分で認めたな?」
甘いものが苦手らしい夜近はまだケーキに手をつけておらず、その会話の中の単語を見逃さない。
「あ、サンタさんをあげますわ〜〜」
「砂糖のかたまりじゃないか、せめてそっちのプレートにしてくれ」
ケーキに飾ってある飾りに文句を言うが、夜近曰く、『Merry X'smas』と書かれたプレートの方が食べられる範囲のようだ。
二人でケーキを分け合い、あれがいいだのこっちにしてくれだの、傍から見れば幸せな光景である。

「?夜近様??どうかされましたの?」
「あ、いや。楽しそうだなと思ってな」

そんなにも見つめていたのだろうか、月詠が ふにゃ と首を傾げていた。どうにも可愛い子猫を思わせるに充分で、何故か少し照れる。
「夜近様は、楽しくありませんの??ワタクシでは不十分でしょうか〜?」
「いや、そうじゃなくて。・・その、月詠は何しても楽しそうだなと思ってな」
「当然ですわ、夜近様がここにおられますもの♥」
ただ単にクリスマスという名前が付加されるだけで、雰囲気も随分と違って思える。
まさに神秘というべきか、人間の本質と見るべきか。
だが、どちらにせよ不快なわけがなかった。

「あ、そういえば」

ふと思い出したかのうように、シャンパンで喉を潤しながら月詠が訊ねていた。
「夜近様のお願い事を聞いてませんでしたわ」
先日の集会もどきで一同の御褒美という願いは聞いたが、唯一都市主である彼の事を聞いていない。
「俺は別にいいさ。これといって欲しいものもないし」
欲が薄いのではなく、単なる自覚だろう。
自分は与える立場にある存在だからと、日頃から欲求を抑えつけている。
クリスマスぐらいは、と思うものの、それを叶えてくれるサンタはいない。
「んーと、では、ワタクシにできる事があれば〜〜」
消極的になってくれ
その辺りは即答だった。
お願い事というよりかは、日常の希望である。
「これ以上消極的になど、頑張っても無」
「待て。今の段階が最低ラインなのか!?」
言葉を遮ってツッコむあたり、身の危険を感じているらしい。


「月詠、手を出してくれるか」

諦めるよりかは考えないように努力した結果だろう、話を変えようと首を掻く。
食べ終えたケーキの乗る机をどかしてその正面に移動すれば、月詠は不思議そうな顔をする。
「気に入らなかったら捨ててくれて構わん」
呉服の袖口から取り出されたのは綺麗にラッピングされた小さな長方形の箱だ。
「え、あの、え・・??」
「お前の本当に欲しい望みは叶えなれそうになくてな」
その代わりだと言いたいのだろう。
月詠にしてみればそれが意外すぎて、戸惑っている。
「わ、ワタクシの為に??」
「ん、あぁ、まぁ・・。要らんなら捨ててくれて全然いいし、その、月詠の好みに合うかは分からんが・・・」
「ワタクシの為に、夜近様自らがお見立てしてくださったのですか・・っ!?」
「へ?・・あ、あぁ、まぁ・・・・」
「夜近様・・・」
「な、なんで泣いてるんだ・・??すまん、こういうのは嫌だったか??」
「そんなワケありませんわっ!!」
やはり鈍感+奥手なのだろう、涙を浮かべられながら怒られ、判断し難いらしい。
だが若干なりとも頬が染まっており、多分嬉しいのだろうと曖昧な判断をする。
「あの、開けてもよろしいですか〜〜?」
「あぁ」

綺麗に結われたラッピングのリボンを解き、包みを丁寧に解き、それを見ながら緊張するのは夜近だ。
開けたその瞬間の表情に興味があるのと、自分の想定していない反応の恐怖だ。

「あ」
「な、なんだっ?」

物凄い速さで食いつく夜近である。
それだけ必死なのだろうが、どこかヘタレ感も垣間見える。

「まぁ、可愛いですわ〜〜♥」

先端に小さな鈴のついたアクセサリーだ。
鎖部分が長く、紐としても活用できそうである。
夜近にしては意外な選出だが、それというのも。

(・・・・へぇ、これが実物か)

つまり、早い話が。
夜近は女中に買いに行かせたのである。
月詠に贈るものとして相談したのだが、こういうものはどうかと雑誌を見せられ、じゃぁそれでいいと。女性の店に買いに行くのは気が引けるらしく、夜近が実際に買いにいったワケではなかった。
無論、その辺りを口にすれば女の敵確実なので口にはしないが。

「あ。ブレスレットやネックレスにもできますのね。素敵ですわ♥」
「あ。本当だ」
「・・『本当だ?』・・?」
「いや、なんでもない」

思わず本音が出てしまうも、ギリギリセーフだろうか。
まぁ、知らなかったと言えばそれで済むだろうが、普通は購入時に店員から説明を受けるはずだ。
「夜近様っ、ありがとうございますですわ・・っ♥」
「その、気に入ってくれたか?」
「勿論ですわっ♥」
止め具を器用に回し、鎖を二重に巻いて腕に巻けば、見事にブレスレットに変身した。
動く度に鈴が鳴り、餌付けをしているような気分でもある。
いや、居場所を知らせてくれる意味合いの方が強いかもしれない。


「・・本当に猫だな」


呟くも、優しい笑みだけが月詠の瞳に映りこんでいた。

「では夜近様、ワタクシからもプレゼントがございますの♥」
羽織った狩衣の袖口でゴソゴソし始め、夜近もそれなりに嬉しそうだ。
出てきたのは大きな赤いリボンで、一見はただの布きれにしか見えない。
それが何に変身するのか、何に使用するつもりなのか、夜近はただ月詠の動作を見守るだけである。
「月詠??」
「もうちょっとだけ待ってくださいまし」
すぐ目の前で、そのリボンを自分に結んでいく彼女。
・・・・まさかとは、思うのだが。

「夜近様、ワ」
「ワタクシをあ・げ・る♥―――などと古典的な真似ではないだろうな?」
「・・・・・・・・・まさか

視線を逸らして小声の防波堤を作るも、その表情は舌打を鳴らしている。
やはりこう来たか、と同時に、残念そうな顔もくべる夜近だった。
「だって夜近様、所詮ワタクシが買うものは夜近様でも手に入るものですし・・。気持ちの問題だと分かってますけど、食べ物みたいに形すら消化してしまうものも嫌でしたから」
都市主である夜近は、大概が思いのままに動く。
それを悩んだのだろう、月詠は寂しそうに俯いていた。赤いリボンもまだ結われたままで、この作戦(?)がうまくいくと思っていたらしい。


「・・・ふぅ、リボンを解いても?」


何かを思ったのか妥協したのか、そんな一寸の表情の後には溜息混じりに言葉が繋がれる。
丁度額辺りの結び目にゆっくりと手をかけ、規則のないゆったりした動きで解かれ始め―――


時間が、止まった。


いや、正確には、何が起こったのか、彼女には瞬時に判断できなかったのだろう。
驚きの余り目は見開き、そこに見えるのは変わらぬ彼の顔だ。
そして、今までの中で一番至近距離に彼がいた。
―――合わさった唇の感触が、それを物語っている。


「・・・や、こ・・・・?」
―――目を瞑ってくれると、有難いんだが」


言われるまま瞳を閉じれば、二度目が降ってきた。
リボンを解いたその手で頬を支え、その伝わる体温に手を重ねれば繋がりあう感覚に満たされていく。
顎を上向かされるのは身長差で仕方ないとは思うが、その首の感覚すらも辛いと思わなかった。


「・・・・・ぁ」


中に入り込んでくるでもない、ただの接触だ。
それでも、月詠の要求に少しは近づけた事だろう。
クリスマスという響きに同調したいのは夜近も同じで、それが人より苦手なだけだ。
日光が『クリスマスぐらいは妥協してやる』と言うのと同じく、夜近にとってもこれが『クリスマスぐらいはいいだろう』と、自身の鎖を少し緩めただけである。
クリスマス効果かどうかは知らないが、感化されるのも悪くない。


「・・・・・ん、ぅ・・」


鈴を贈った子猫は可愛く、ただされるがままに委ねていた。
その手が夜近の存在を確かめようと動く度に、小さな音が耳に届く。
ここにいるのだと、主張してくれた。

そんな頃だろうか。

0時を示す柱時計が重い音で自己主張し始めていく。


「・・丁度、0時だな。柄じゃないんだが―――・・メリークリスマス、と言っておこう」


唇を離せば、腕の中の子猫は余韻を相手するのに一杯だった。
それを見てはやはり優しい笑みが止まらず、この日を許してくれた彼に感謝をした。

とりあえず、この事は口止めしておかなくてはと。
いつか欲しがったもみの木の頂点に飾られる星よりも、今は歳相応で現実的に違いない。


「星よりも先に戦う相手がいるんだもんなぁ・・・」


胃薬常備は免れない運命らしいと、夜近は苦笑していた。




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■ 駄 文 ■


本編では有得ない現象起こりました。(笑)
ちゅ〜・・・そして、やっぱりヘタレ夜近。(苦笑)
顔はいいのにねぇ〜・・(おい)

夜近は多分、日光の次にロマンチストだと思う。


今時、『私をあ・げ・る』なんつー痛い事をする女はいるのかねぇ・・。(ぼそ)





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