クリスマス番外編
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クリスマス番外編




       参  : 歌麿&密羽編







その背中を追いかけたのは特に意味があったワケではない。
単に、起伏のない別れの挨拶が気になっただけなのだろう。


「おい、密羽。・・密羽、待てって!」


24日、仕事の後。
夜近達と別れて一人背中を見せ始めた戦士を追って数分。
彼はその背中を見つけるなり声をかけていた。
暫らくは反応も見せなかったが、慌てるようなその声にようやく振り向いてくれた。
顔の下半分が口布で隠され、唯一見えるのは厳しく尖った瞳だ。全てを切り裂くかのような冷酷な印象があり、戦闘時には何故か彼女の人格は変わる。

「・・・・」

追ってきた歌麿に向かい合うも、彼女は依然として何も口にしなかった。
「それ、外せって。喋りにくいだろ」
ジェスチャーでその口を覆っている衣装を下ろせと唱えれば、暫しの沈黙の後に彼女は従った。
厳しく冷たい眼光の下に見えてくるのは整った輪郭と口元だ。
傍から見れば綺麗な人形みたくも思え、数時間ぶりに見えた彼女の素顔はお世辞抜きにして『端麗』の部類に入るのだろうと確認してしまう。


「・・・・何」


それでも口調は戦士のままで、それからも歌麿は時間を隔てて彼女が戻るのを待った。
夜の風が凪ぎ、木の葉のざわめきを聞き届け、そんな頃だろう。
彼女の瞳が、ようやく柔和され始めていた。

「戻った、か?」
「あぁ、何さ」
「はぁ〜〜、ったく、相変わらず扱いにくいんだよ、お前」
「いい加減慣れたらどうなのさ」

密羽の隠密染みた衣装の背中には弓矢が背負われており、その腰には今日も解かれる事のない短剣が刺さっている。
歌麿も同様に戦士としての衣装で、槍を背中に背負っていた。
帰路を辿るといってもこの格好で街を歩くわけにもいかないのだ、森林を抜けて遠回りの道程になる。それを互いに承知してか、確認し合ったワケでもなく二人は並んで歩幅を合わせていた。

「アンタも歩いて帰るつもり?鳳来寺まで遠いよ」
「途中まで一緒にしたっていいだろ。早く帰ったってあの姉貴達にいびられんだ、少しでも遅い方がお得だ」
つまりは、最強姉妹対策らしい。
随分地味だとは思うのだが所詮は歌麿の考える事だ、実践的ではなく地味である。
「密羽は?今日は呉羽とケーキでも食うのかよ?」
「あの子、こういうイベントが好きだからね。付き合わなきゃ何言い出すか」
重い溜息をつくが、どうにも歌麿と同類だ。
同じ顔立ちをしているあのアイドル願望の強い弟。双子の弟だから顔が似て当然だが、どうしてこうも性格が違って育ったのだろうと、若干なりとも苦悩しているらしい。
「で?あいつはハーレム叶えてもらえたのかよ?」
「人間じゃないけどね」
「なんだそりゃ」
「夜近の方が一枚上手だよ、ありゃ。数十匹の可愛い仔猫を届けてくれてさ、今頃はプリティ世界のアイドル様にでもなってんじゃないの」

恐らくは『アイドルは猫とセットで輝くものだ』などと意味の分からない言葉を聞かされたのだろう。それでなくとも仔猫というものは人間の母性本能をくすぐる要因満載だ、それだけで呉羽は昇天したに違いない。
今頃は可愛い仔猫に囲まれて癒されている事だろう。

「仔猫効果もいつまで続くのか知らないけど、あの性格が少しでも大人しくなってくれる事を祈るばかりさ」
「よくあれで隠密やってられるな」
「仕事はちゃんとやらせてるよ。あれでも一応、神門に一目置かれてる優秀な忍者だし」
ここにはいないアイドルを思い浮かべてみるが、歌麿にはあの彼が改心する事はないのだろうと現実を哀れむ。
「で、お前はどうすんだよ?」
「?何の話さ?」
「クリスマスだよ、クリスマス」
「クリスマスは寝ずにDVD観賞するって決めてんの」
どうやらご希望の商品が届いたらしい。
「よくよく考えたらDVDプレーヤーが半年以上前に壊れててさ、それも追加申請したら簡単に受理されたし。言ってみるもんだね」
密羽の事だ、年末も時代劇観賞で年明けを過ごすのだろう。
文化が進んでDVDという機材が普及してきた昨今、かさばるVHSよりも高性能だ。

「どうせこのクリスマス、月詠は夜近にべったりだろーし、お前は根暗にインドアだし、俺は不幸だし、なんか仕事に借り出されてる方が報われてる気がしてきたなぁ」
「構って欲しいんなら涼と風に言いな。アタシは、あんたなんかとクリスマス過ごす気はないね」
「これが夜近だったら別なんだろ?」

ただ言葉を繋げてるだけの道だ。
それでもいきなり降ってきたその名前に、密羽が若干反応してみせた。
前々から気づいていたとでも言うのか、見逃す歌麿ではない。
「お前、それでよくあの二人を見送れたよな」




『・・・・いい夜を』



「・・月詠が頑張ってたからさ。クリスマスぐらいは夜近もその容量あるんじゃないかって、思っただけさ」
「あぁ、またいつもの既成事実なんたらってやつか」
「どうせ、今夜も失敗だと思うけどね。今時、アレは色んな意味で痛い。もしそれに乗るような男だったら、それはそれで夜近も痛いよ」
月詠のあのリボン作戦を知っているのだろう、密羽は嘆くような溜息で誤魔化す。
無論、常識的に考えてもあれで一線を超えられるのならば彼女は夜近を軽蔑するだろう。
幼児虐待としか言いようのない、あの体型差を偲ぶと同時に、だ。



「アタシは変わんないさ。今までずっとこうしてきたんだ、これからだって」



腰の短剣に手を触れ、遠い何かの記憶を偲ぶように決意の眼差しがある。
―――確かに、変わることはないのかもしれない。
彼女本人がそれでいいと願うならば、きっとそれでいいのだろう。
無論、好奇心が強いといえども歌麿もそこまで口を挟む気もない。

「それが、サンタへの願いかよ?」
「サンタがあんたなら、世界は馬鹿菌ばら撒かれて迷惑極まりないね」

黄色い髪が月の光源に照らされていた。
互いにいくつかの返り血を浴びているこの状況ではロマンチックには程遠い。
いつの頃からか、これが普通になっているのだから文句を言う気にはなれなかった。

「それで?歌麿はクリスマスどうするのさ?」
「涼姉貴も風姉貴も、用事があるとかで外出すんだ。一応、願いは叶うってとこか」
「へぇ?良かったじゃないのさ。鬼のいぬ間の洗濯?」

からかうように笑えば、つられて彼も笑ってしまう。
それを最強姉妹に告げたらただでは済まされないのだろうが、それでもサンタへの願いは無事に届いたらしい。その辺りは策略家の夜近に感謝する。


「この俺様が、こんなしょぼい願いなんて世の中平和すぎるよなぁ。今時の子供の方が、もっと高価なもんおねだりしてるぜ」


戦士だ何だと言った所で、世間一般の高校生で変わりない。
庶民的な願いも、友人の人間関係を探るのも、親友の苦労を日々傍観するのも、ありきたりな日常だ。
その中で訪れたクリスマスと語ったところで、12月の中の僅か一日。
よくよく考えれば大して重要な日でもない。
それでもその雰囲気を味わうならば、返り血を浴びる魔物達との出会いよりも友人とこうやって何気ない他愛ない会話をしている方がマシだと思う。



「あー・・さみぃなぁ。はよ風呂入って飯食って寝よ」
「アタシは早く泉主(もんど)さんに会いたいよ」



聖なる夜に現実的な要望とくれば、サンタも会いにきてはくれないのだろう。
夢のない青少年は、赤い髪を夜風に揺らして二人分の影だけが伸びていくのだった。









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■ 駄 文 ■


夜近&月詠は幼い恋仲として、この歌麿&密羽の二人は友人関係として書いてます。

泉主さん→必殺仕事人の中村泉主さんの事。母と妻には頭が上がらない人。(多分)

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