クリスマス番外編
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クリスマス番外編




       四  : 日光&涼編







24日、時刻は昼より少し手前だ。
京都の南に位置する鳳来寺家に、彼は何故かいた。


「お〜〜い、涼〜〜」


道場の様な造りの別館に組み込まれている窓に両肘を凭れ、いつもと変わらす呉服姿の彼は随分と間延びした口調でその背中に声をかけている。
道場内は閑散としており、日中の空気乾燥でもしているのだろう、扉や窓は全開だ。その中で彼女は神棚に向かって拝んでいて、それを中断させれば睨まれた。
「・・・何よ、日光。祈祷の最中は邪魔しないで頂戴」
「いいからこっち来ておくれ。渡したい物があってね、わざわざ来たんだよ」
京都の北部に位置する駿河からこの鳳来寺まで、地図上では直線を結べても実際は何時間もかかる距離だ。京都市内で1時間も浪費すればかなりの距離と見ていい。
「クリスマスぐらいは大人しくできないの?」
「いやぁ、月詠がいなくて暇でね」
道場から出て行こうとする彼女を追い、渡殿で二人の足は止まる。
日光は外側からその手すりに両肘をつき、涼はそんな彼を鬱陶しい表情で溜息をついた。
今日は太陽も燦々としていていい日和だ、この寒さも季節独特のものだし麗らかな一日と思っていいだろう。・・この男の登場がなければ、だが。


「手紙?何、これ」


白く清潔感のある封筒を受け取れば、自然と疑問が口に出ていた。
特に差出人も書かれておらず、ただの入れ物という役割でしかないのだろう。
もしかしたら神門からの伝令だろうか、とも思うが、この日光を起用する事は有得ないので可能性は低い。

「目の前で読まれるのはさすがに恥ずかしいからね、俺はこれで失礼するよ」

暖かい陽射しを背中に受けながら、飄々とした男は笑む。
「日光の書いた手紙?誰に渡せばよくて?」
「涼、君に決まってるだろう?わざわざ渡しに来たと言ったじゃないか」
「あら、光栄ね。辞世の句かしら」
「切腹するような時代じゃないよ?」
無論、分かってて言っているのだろう。
涼の呆れたような厳しい目つきは健在だったが、興味がないワケでもないらしい。

「なら、ラブレターかしら?宛名ぐらい書きなさい」
「いやぁ、文面考えるのに苦労したよ」
「このまま破って切り裂いて下水に流してもよくて?」

セリフのようにすらすらと言えるあたり、根からの女王様だ。
「読んでくれるぐらいは構わないだろう?1分もかからない作業だ、支障にきたさないと思うがね」
「内容次第では精神的障害に陥る事があるのではなくて」
「なぁに、人より愛が込められてるだけさ。当社比1.5倍ぐらい?」
「当社比ってどこよ」
その通りである。
「なぁに、気に入らないならドブネズミに食わせてくれて構わんよ」
肩を竦めて見せれば、彼の長い髪は水のように凪いだ。
いつもと変わらない格好で、いつもと同じ顔で、いつもと同じ態度、である。
そこに真意が知れるはずもないが、知れるとしたらこの封筒の中にあるのだろう。
興味がないといえば嘘になるが、期待してやるのも癪に障る。

「君の願いが、俺への当て付けに聞こえてね。価値があるかどうかはともかく、用は済んだから帰るよ」
「ご苦労な事ですこと」
「全くだよ」

首を擦りながら、ふらっとやって来た珍客は風のように去っていく。
首を回し肩を鳴らし、その仕草が既にオッサンだと思うも、涼は誰にも見られていないことを確認して封を開けていた。



「・・・・ここまで痛い男だとは思ってなかったわ」



それを胸元にしまい、彼女の足は自室へ向かっていた。








彼が自分の屋敷に着いたのは夕方手前頃だった。
タクシーを使ってもこの時間だ、どこぞのアニメのように便利な道具が欲しいと本気で思う。
いや、転移方陣術という便利な術はあるが、あれは神門が継承するものなので彼にアレを扱う権利はない。
そして門番に声をかけて屋敷内に入った頃、妹が戦闘服で身を包んで慌しく駆けていた。

「月詠、ただいま」
「あ、日光兄様。おかえりなさいまし。お出かけでしたの?」

猫のように目の前に駆け寄り、ぺこりと小さく挨拶をしてくれる。この辺りは彼の施した教育だろう、徹底されている。そしてその小さな頭を撫で、妹との会話を楽しむ。

「あぁ、ちょっとね。これから仕事かい?」
「はい、西京区で魔物騒動が起こってるそうですの。ちょっと行って退治してきますわ」
「剣の手入れはちゃんとしたかい?少しでも刃毀れがあれば具合が悪くなる、確認だけは怠ってはいけないよ」
剣に錆(さび)など持っての他、剣士としては致命傷になりかねないだろう。日頃からの手入れが重要であるからこそ、出動前には決まったセリフだった。
「大丈夫ですわ、兄様。日頃から使い込んでますもの、手入れも抜かりはありませんわ」
「この時間からだと帰りは深夜になるな、今日は夜近と過ごしてくるといい」
「?宜しいのですか?」
「丁度明日はクリスマスだしな、あいつは寂しい思い出しかないはずだ。それぐらい、俺とて妥協してやるさ」

月詠にとっては意外すぎたのだろう。
普段から仲を裂くような真似しかしてくれない兄だったからこそ、その配慮が神様のようにすら思えた。
無論、日光もそこまで鬼ではない。
だが、その中で妹に手を出せば真の鬼が覚醒するとは思うが。

「ですが、それだと兄様がお一人になるのでは?」
「はは、気にしなくてもよいよ。俺も、デートの相手は一応いるのだから」
「まぁ、いつの間に。今度紹介してくださいましね」

分かってて言っているのか、本当に知らないのか。
多感な年頃の妹だ、恐らくは勘付いているに違いない。
それでも笑って見送れば、彼も自室へと急いだ。








雅で独特の雰囲気を誇示する京都といえども、クリスマスにもなると世間に踊らされる風貌が一面に輝いて演出されていた。
どこを歩いても定番のクリスマスソングが聞こえ、色彩も赤と緑に染まる。サンタが一体何人生息し始めるのか数えてやりたくなるぐらい、クリスマス競争に精を出す店舗の群れ。サンタの格好で割引チケットでも配っているのか、バイト達は忙しそうだ。


「・・・ちょっと早く着きすぎたかしらね」


そうぼやくのは、美しい肢体を見せ付けるような格好をした涼だった。
まさにオシャレをしてきました、という感じで、ただ歩くだけで街中の男達の視線を独り占めだ。赤く長い髪も最先端のデザイナーの如く結われており、その首筋から拝める項が色っぽさを演出する。化粧もさる事ながら、ただ立っているだけで高嶺の花だ。
最も、触れてしまえば怪我をする薔薇ではあるのだが。

「いらっしゃいませ。御予約のお客様であられますでしょうか?」
「人と待ち合わせをしていてよ。そちらのロビーをお借りするわ」

礼儀正しいボーイに案内され、広い受付ロビーに隣接した待合所(ちょっとした休憩スペースだ)に腰を降ろす。
随分と埋まってくれるソファの感触がやけに気持ちよく、触れば高級素材で在る事が分かった。
―――京都市内にある帝国ホテル。
皇室や国際的来賓が利用するホテルとだけあって豪華な造りである。
上を向けば吹き抜けの向こうに煌びやかなシャンデリアが見え、通路を飾る赤い絨毯も王室のようだ。
クリスマスという事もあってか、周囲は貴族のように豪華な身なりをしたカップルで溢れ返っていた。
無論、場所的に10代を象徴した若いカップルは見当たらない。
そんな周囲を暫し見渡し、涼は脳裏に思い出していた。


『ちょっと出てくるわ。連絡がなければ2〜3日は戻らないと思って頂戴』


出かけに、妹の風に言付けた言葉だ。
そう、多分今夜は家に戻らないだろう事を前提としている。
それを聞いては風も何故か食いつき、やけに詮索されたのを思い出す。

「何、デートなワケ?相手は誰?アタシの知ってる奴?」
「うるさくてよ。デートじゃないし、ただの暇つぶし。クリスマスだというのに孤独だなんて世間が許さないのよ」
「そんなオシャレまでして?メッチャ綺麗に変身しちゃってさぁ」
「べ、別にオシャレなんてしてなくてよ。いつもと変わらない普段着だわ」
「こんな綺麗なドレス、パーティーでもない限り着ないじゃん」
「クリスマスだからってだけよ。変な意味はなくてよ」

光源次第で綺麗に光る素材の黒いドレスは、確かに貴族のようだ。
涼本人にしてみれば、これでも地味に選んだらしいが。
結われた髪にはポインセチアの飾りが刺さっており、赤い髪にはよく映える。

「オシャレしてきました〜〜って思わせるのも癪に障るから、でもクリスマスだからそれなりに着飾りたい、んで板挟みの結果がコレなんでしょ?隠さなくたっていいじゃん」
「別に隠してるワケではないのだけれど」
「都市主サマへのお願いが受理されたんでしょ?」
「さぁ、どうなのかしらね。相手が価値在る男である事を願うわ」
「ちゃんと避妊薬持っていきなね」
「風、勘ぐりすぎよ」
「まさか相手、日光だったり?」
「・・・違うわよ」
「あ、図星だ。まぁだ未練あるんだ?好きなら好きって、はっきりしちゃえばいいのに」
「もぅ、うるさいわね。お喋りしてる時間があるなら、年末の準備でもしておきなさい」

―――どうにも、心を見透かされた気分だった。
今夜は帰ってこなくていいとかまで言われ、背中までも押された。無論、素直に受け取る彼女じゃないので『迷惑だわ』とでも思っているのだろう。

だが、それというのも全てはあの手紙のせいだった。





『親愛なる方へ。

突然の申し出をお許しください。
貴女に在るクリスマスの時間をどうしても欲しく、書面にて希望伺う事御容赦頂きたいのです。

もし貴女の心に少しでも僅かでも隙間があるのでしたらば、この私を選んでは頂けないものでしょうか。
クリスマス限定の恋人として、貴女をお待ちしております。
そんな私の愚かな願いを叶えてくださるのならば、今夜所定の時間と場所でお会いしましょう


親愛なる赤い姫君へ』





「やっぱり何度読み返しても痛いわ、あの男」


やっぱり目の前で読んでやれば良かったと思う。
―――時刻は20時手前。
勝手に指定された約束の時間まであと10分程度といった所か。
豪華で落ち着いた雰囲気の休憩所、視線を少しずらせばアンティークな柱時計が秒針を刻んでいる。


「まさか本当に馳せ参じてくれるとはね」


後ろから伸びてくる腕に包まれたのと同時だった。
無論、その声の正体は分かりきっている。

「呼び出したのはアンタではなくて?寒くて痛い手紙に文句を言いに来てあげたわ」
「恋人になってくれるのだろう?」
「明日の夜までよ」
「充分だ。ありがとう」

面と向かって礼を言われるのを素直に受け取ることもできず、その絡んでくる両腕を弾く事で立ち上がるタイミングを作った。
そして後ろを振り向けば。

「・・・馬子にも衣装、ね」
「それは酷いよ、涼。着慣れないのだから多少は大目に見てくれないか」

普段から不精な髪は後頭部で結われ、随分とすっきりした印象だ。いや、こうやって見るとなかなかの耽美系である。
そして彼を別人だと思わせる一番の要因はその衣装だろう。
ラフな着こなしではあるが黒いスーツ、その胸元には赤い花とハンカチが飾られていた。そしてその手には買ったと思われる薔薇の花束だ。
「一瞬、誰だか分からなかったよ。周りがざわついているから何かと思えば、君だった」
「化けたのは日光も同じではなくて」
「随分と綺麗におめかししてきてくれたのだね、期待されていると思っても?」
「そんなつもりはこれっぽっちもなくてよ。散々貢がせてやるから覚悟なさい」
「せめて買い与えると称してくれないかい。恋人にその単語はないだろう」


ではとりあえずと彼が導けば、彼女もそれに続く。
何故か手を握られたのだが、それに文句を言えば


「恋人なのだろう?エスコートさせておくれ」


と、優しく苦笑されてしまった。
見慣れない風貌のせいだと何度も言い聞かせ、自身を勝手に納得させ、その足はエレベーターを使って10階まで昇っていく。
そして静寂と華麗で満たされた通路を歩けば、これまた西洋貴族を思わせるような扉の向こうに連れられていた。レストランなのだろう、予約を受け取ったボーイが席まで案内し、椅子を引かれてそのまま座る。
「よく予約取れたわね。ここは難しいって聞いてたのだけれど」
「二ヶ月待ちさ」
白いテーブルクロスの上には、水といくつかの食器が既に並んでいる。フォークやスプーンの数を見るなり、どうやらコースメニューを頼んでいるようだ。
「最も、最終的には駿河の名前を出してしまったのが事実だがね」
「名家優遇ね。こんな時だけ利用するのもどうかと思うわ」
この都の4大名家は、その名前を出すだけでどこもが簡単に優遇してくれる利点がある。
それが皇室を扱う一流ホテルともなれば、その意味は強くなる。
つまり、ホテルの利益を思えば名家と繋がりを持ちたいと考えるのである。あの名家が利用している施設だと、その名声が目的だ。

「日光自身のデメリットは考えないのかしら?」
「君が相手なら、文句などないよ」

芸能人たちのようなスクープではないが、それでも名家が利用すればその顔も知れ渡る。そして顔が知られればデートの相手も注目されるだろう。
「なぁに、ここのホテルの従業員達はしつけができているんだ。簡単に情報は漏らさないよ」
日光は、夜近のように顔が知れ渡っているワケではない。
だからなのだろう、このレストランに集っている他の客達は気づいてすらいなかった。いや、クリスマスなのだからそれぞれの相手にしか興味がないのだろう。

そんな頃に静かな雰囲気を演出するソムリエがワイン片手に現れ、それぞれのグラスに注いでは礼を言って去っていく。その途中にワインの説明もあったのだが、どうやら高級品らしい。

「とりあえずは乾杯かね?」
「何に?」
「そうだな、クリスマスイブは神様に乾杯でいいのかな」
「あら残念。アタシは無神論者なの」
「なら、君の瞳に」
「これ以上寒い真似したら帰るわよ」
「・・・瞳に映る、俺に乾杯」
「ナルシストもそこまでいくと哀れね」

容赦のない女王様相手に、日光もどこか泣き始めている。
あの妹と同様に厳しい批判だ、どうやら女運はないらしい。

「あら、美味しい」
「ちゃんと味わってくれて光栄だよ」
「人を豪酒みたいに」
「その通りだろう?どんな酒だろうと水代わりに飲むのは結構だが、今日もその調子だったらどうしようかと思っていたよ」
「言ってくれるわね。これでも雰囲気は読めてよ」
涼は、とにかく酒には強い体質だ。
最後にはいつも飲み潰れるのだが、それでもその量は普通と思ってはいけないレベルである。
どんなにアルコール度数の強い老酒でもワインでもウィスキーでも、ただひたすらに『喉が渇いた』と言わんばかりに飲むのだ。
それを知っているからこそ不安に思っていたらしい日光は、心底安堵の表情を浮かべた。

「そこのソムリエさん。この店で一番高いお酒を頂けるかしら」

ワインベースでクリスマスの演出を手伝っている先程のソムリエを呼び、涼は我侭な注文を唱えている。その意味を理解すれば礼儀正しくワインルームに向かおうとするが、それを呼び止めたのは日光だ。

「一番高いって、幾らするんだい?」
「そうですね、56年ものですので200万あたりかと。御希望でしたらお持ち帰りも承っておりますので、遠慮なくお申し付けください」
「いや、多分10分足らずで空になるよ」

やっぱり水代わりじゃないか、と内心で呟き、そんな頃にようやく料理が運ばれてくる。
さすがに高級なホテルだ、その食材も一級品である。
まず見た目から華麗を誘い、芳香で魅了し、口に運べば幸福感に満たされていく。
そして視線をずらせば一面ガラス張りの窓から京都の街並みが見下ろせ、デートスポットとしても一級品だろう。
これでキザな言葉の一つでも吐いて甘く酔わせれば大概の女性は落ちてくれるのだろうが、そうはいかないのが目の前の女王様である。

「・・涼、少しは俺を見てくれてもいいんじゃないのかい?」
「見飽きた顔見ながら食事させないでくれる?美味しい料理が台無しになってよ」
「ワリカンが嫌ならこちらを見たまえ」
ワインはすでに4本空けている女王様だ。
これでは居酒屋と変わりない気もするが。
「あぁ、そういえば恋人だったわね。ワインと料理に魅了されて忘れていたわ」
「メインを忘れてもらっては困るよ」
涼にとってのメインは食事とワインの嗜好なのか、『恋人』を演出する材料に過ぎないそれらに奪われた気分の日光である。
「少しは甘い雰囲気に酔って欲しいのだけれどね」
「ワインを追加してくれたら少しは酔うかもしれなくてよ」
「そっちの酔うではなくて」
「そこのソムリエさん、追加お願いするわ」
「人の話を」
「酔ったらいいのでしょう?理性がなくなるのも時間の問題よ、もう少し待ちなさい」
「・・・やれやれ、できればシラフの君と楽しみたいのだがね」

そんな会話から1時間足らずだろうか。
時刻は既に21時を回っており、店内を演出する蝋燭だけの光源も随分と慣れてきた。

「そういえば、月詠ちゃんはいいの?」
「今夜は神門に行かせているよ」
「あら、珍しい。明日はホワイトクリスマスかしら」
「寒いのは苦手だよ。君が暖めてくれるなら問題ないがね」
「相変わらず寒がりね。そういう所は子供だわ」
「筋肉はあるが体脂肪が少なくてね、人一倍敏感なのだよ」

ゆっくりとワインで喉を潤し、料理も食べ終えた女王様は美しい身なりで正面から見つめ返してくれる。

「誰だって、一人きりのクリスマスは嫌なものさ。子供であれば子供である程、その記憶は大人になった時―――トラウマとまでいかなくとも、どうしようもなく寂しい記憶になる」
「・・・珍しいわね、夜近の事なのでしょう?」
「俺から見れば、あいつも月詠も、まだまだ子供さ。圧し掛かる重圧感に耐えてる子供でしかない」
「そうさせたのは大人達でしょう。責任を押し付けたと今更悔いた所で、何も変わりはしないのではなくて?」
「・・せめて、一番大きな星を与えてやれれば良かったんだが、な」
「?何の話?」
「いや、何でもないよ」



随分と昔のクリスマスの夜。
庭に発注したもみの木に小さな妹は大層喜んでいた。
その隣には今では天敵の彼の姿もあったが、彼はただ頂点を見上げているだけだった。
どうしたのかと訊ねたら、


『どうやったらあの星に辿り着けるのか考えていた』


と、あの星が欲しいのだと言っていた事を思い出す。
夢を与えられず、現実を押し付けられ、その中で責任と重圧を一人で背負い、彼の成長していく姿を見守るのは、妹を大事にするのと同様だった。
あの子供は確かに頂点に立つ素質がある。
そして妹はその彼と共にする事を幸せと見ている。
それでも、長く接してきた大人として。
クリスマスぐらいは現実から解放してやりたかったのだろう。
夢を与える、までとはいかなくとも、クリスマスぐらいは個人という人格に眠る人間味を楽しんで欲しい。


「俺のような大人にならない事を願うばかりだな」


懺悔にも似た瞳が視線を落とせば、グラスの中のワインは静かに揺れていた。

「・・こういう時、恋人はどんな会話を楽しむものなのか教えて欲しいのだけれど」

ふいに涼の声が届き、いつもと変わらぬ動作で彼女を視界に移せば、その頬に少し赤みがさしている。酒が原因かどうかは定かではないのだが、『変な事を言ったのだろうか』と不安げな表情も見える。

「すまないね」
「どーいたしまして」

気を遣わせたらしい。
さり気なく優しさを見せてくれる彼女は、日光の真意を感じてしまったのだろう。
たとえそれが彼にとっての口実だろうとも、恋人を願ったのは本心だと知っているからこそ不満には思わない。
「そうだね、恋人なら・・こういう時、互いを認め合うのではないかね?」
「これ以上何を認め合うと言うのよ」
「好きだよ、涼」
「・・・・・・模範演技をありがとう、と言っておくわ」
「つれないねぇ」

やっぱり簡単には落ちてくれない女王様だった。

「こういう時は愛の告白だろう?ムードもあるし、甘い雰囲気もある」
「相手が問題だわ」
「俺達は恋人だろう?」
「・・よく、過去の女を誘えるわね」
「未練がましいんだよ、俺は」

本音か駆け引きか。
どちらにせよ、二人にしても今に始まった事ではない。
過去にふったのは涼の方で、それでも誘いを入れれば受け入れるのも彼女だ。
日光もそれを知っているのか、自分以外の男は有得ないのだと思っている。

「嫌なら断れば良かっただろう?ちゃんと、君には選択権があったはずだがね」
「アタシが来なかったら、あんた何時間も待つつもりでしょう。ホテル側に迷惑がかかってよ」
「なぁに、大丈夫さ。上に部屋も取ってあるから寝冷えする事はなかった」

計画性があると言うのか、それとも策略家なのか。
最後にはやっぱり彼に勝てはしない涼だった。









■ 駄 文 ■

とりあえず、この二人が書きたいが為のクリスマス話。
主人公そっちのけですが。(苦笑)

ともあれ、2話で暴露しようとしていた設定がここで触れてしまってますねぇ。
まぁいいや。うん、ドンマイ。(前向き)
そのうち本編でも徐々に明かしますので深くは触れてませんが。
とりあえず、微妙な関係の二人ですたい。
でもやっぱりヘタレ日光。(笑)

夜近&月詠編で少しだけ触れた内容がこっちに繋がってます。
まぁ、大したものではないんですが、日光という大人像を描きたかったんですよ。
・・・夜近と日光が本気で戦ったら、どっちが勝つんだろうとか思ったり。

この後の展開は裏ページ行きとして作ってるんですが、時間の都合でクリスマスに間に合いませんでした(号泣)
その内UPします・・ふふ・・(遠い目)








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